理由がある
「ぼくも小さい頃セイベイさんに怒られたけど、やっぱり、みなさんも、隠居する前は、よくおこられたんですか?」
サネは、あらどうも、と作業を中断し、早々に包みをしまいこんだ。
「―― まあねえ。でも、大旦那様の言うことは、だいたい正しいと思うわ。 虫の居所が悪くて店の者にあたる、なんて、決してしないさ。 叱るには、ちゃんとした『理由』があるから、叱られる。 みなわかってるんだよ。 ただ、・・・あそこまではっきり言われると、周りに人が寄らなくなるからねえ。 あたしなんかが言うのもなんだけど、 ・・・大旦那様は、人との接し方が、へたなのさ」
「―― なるほど。『ちゃんとした』理由を見逃さないほど、《店の中をよくみている》。と、いうことですね?」
なんともきれいな笑顔をむける男を、サネは眉を寄せて見上げ、ヒコさん、と助けを求めるような声をだした。
「・・・この人、何なんだい?」
不安げなそれに、すぐには返せないヒコイチの代わりに微笑む男がこたえた。
「一条ノブタカと申します。 ヒコイチさんの友達です」
「だ、だれがっおれの」
「 だから、 そのヒコさんのお友達のセイベイさんを、貶める真似など、決していたしません。 ちょっと教えてほしいのですが、確か、 ―― 大番頭さんは、セイベイさんとあまり歳がかわらないはずだ。若い番頭さんは、 ―― 辞めたのですね?」
ヒコイチの抗議など、まったく意に介さず唐突に誓って、なにやら問う男の顔と、ヒコイチを見比べた女は、とたんに、なんだか怒ったような、情けないような顔になり、 一歩さがると、お坊ちゃまに頭をさげた。




