毒団子
「おい、どうだよ?ありゃあ、ボケてると思うかい?」
あわてて追いついたヒコイチの問いには、うーん、などと濁すような答えを返し、お坊ちゃまは今度、台所の場所を聞く。
教える間にも先をゆき、「失礼」と、勝手にそこへ入っていった。
「 あらよ、ヒコさん・・・この人は?」
「わあ。いい匂いだ。馬鈴薯かあ。ぼく、好きなんだなあ。これって、マッシュポテイトですか?」
金だらいの中、蒸した芋をつぶす女に、お坊ちゃまは気さくにはなしかける。
「なにだって? あんたこりゃ、『毒団子』作ってんだよ」
「どく!?」
その反応に、サネが笑い、知らないのかい?と側に置いた茶筒をさした。
「 この中に毒の粉をまぜて、まるめて団子にするのさ。 このごろ、ネズミが出てきたから、あちこち置くようにってね」
「へええ。ネズミを退治するのは、猫だけじゃないんですねえ」
その、『猫』という単語でヒコイチは思い出す。
「そういやあ、離れのじいさんのとこに、黒い猫がいたぜ。 そいつが間違えて食っちまうなんて、ねえのかい?」
「あれま。ほんとかい?その猫のせいかねえ。 ほら、うちはセイイチ坊ちゃま・・若旦那様が猫好きだから、いろんな猫が出入りしてたろ? ところが、この頃みんな来なくてねえ」
離れには団子を置かないから平気でしょうという女に、ところで、と一条のお坊ちゃまは和菓子屋の包みを差し出した。




