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お坊ちゃま のりこむ
『ろくでもない』こと、か、どうかはわからないが、一条のお坊ちゃまは、さすがというか、変わらず、というか、 まったく堂々とした様子で、そこへのりこんだ。
まず、ヒコイチといっしょに裏木戸から入り、隠居のセイベイに挨拶。
「ごぶさたいたしております」
「ほお、ずいぶんと立派な男になったもんだ」
昔、あたしを鬼でも見るかのようにこわがったぼんがねえ。 と、隠居は笑った。
「今でも、セイベイさんのことは、こわいです」
「こんな年寄りがかい?もうボケたって噂もたつほどだよ」
「噂ですか?本当に、ボケてなど、いらっしゃらない?」
「ああ ――どうかねえ・・・」
その、力を抜いてお茶を飲む様子は、なんだか気の弱くなった年寄りみたいで、二人の間に控えたヒコイチは、隠居がぼんやり目をやる池を、つられてながめてしまう。
「・・・一条のお坊ちゃまは、こんな男と付き合ってるせいで、世俗のことにも首を突っ込みたくなったようだが、 ―― やめて、ほしいねえ」
こちらの顔も見ずに、池を見たままそう言われ、お坊ちゃまは思わず笑う。