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西堀の隠居のはなし《小分け版》  作者: ぽすしち


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ボケたよりひどい



「 ――じいさん、なんかたくらんでんのかい?」


「・・・まさか。 あたしもそう、ながくはないけど、のぞむは静かで穏やかな、泰平無事な暮らしだよ。 それより、松庵堂の包みってことは、草もちか?」


 じゃあ茶をいれるかい、と立ち上がる年寄りは、前に会ったときと同じしっかりとした喋りと動きで、ボケのボの字もみえない。



 ――この男が、本当に自分の命を狙っているのかなどと、あの気の弱そうな息子に詰め寄るだろうか?



 草もちを手に庭をながめ、次は桜餅をもってこいという年寄りと、ふいに目があった。


「――なんだい。 聞きたいことがあるなら、はっきり聞けばいいだろうに」


「・・・じいさん、さっき・・、ひとりごと、しゃべってたろ?」


「・・・ひとりごと、じゃあ、ないんだがねえ・・」

 困ったような顔をして、隠居は餅を食って首をかたむける。



「じゃあ、誰かいたのかい?」

 まさか、と思って顔をよく見る。


 ゆっくりと目を合わせたまま味わう年寄は、飲み下し、お茶で口を流してから、こたえた。



「 ―― うん、うまい草もちだ。 いいかい?ひとりごとってのは、ひとりでこぼすものだろう?あたしの場合、 ひとりじゃないから、 そう、よばない」



 ヒコイチが反論する前に、年よりは言い切った。



「乾物屋の『カンジュウロウ』が、いたんだよ。  どうも、あの慌てもの、仏さんになれなかったらしくてねえ。 四十九日がすぎてから、ちょくちょくやってくるようになった。 こちらも、ひまだから相手してやってたんだが、どうにもそれで、 ―― ボケたと思われてるらしいなあ」


「・・・・じいさん、そりゃ、・・・ボケたよりひでえ・・」



 呆然としたヒコイチの言葉に大笑いした隠居は、そこからなにをどう諭してみても、『ほんとのことなんだからしかたない』と、その、話を冗談にすることはなかった。






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