頼りにならぬ息子
「 ―― その方、誰ですか?」
息子だと紹介された色の白い男は、いかにもさげすんだ目で父親に問う。
「ああ、新しい、将棋仲間でね。流しの行商もしておられる。 おまえより年下だろうけど、たいした人だよ」
「――――」まるで、旧知の友であるかのようなその紹介に、ヒコイチはただ、頭を下げて名をなのった。
息子は、いささか納得しかねる様子で軽く受けると、ちょいとお話が、と小声で言う。
頷いて、母屋で待っていろと息子を追い払った男は、「・・どうにも」と、その背中を眺めつぶやいた。
「どうにも、―― 頼りにならない男に育ってなあ・・」
「育てた親の顔が見てえ、ってことですかい?」
「・・・・ふん」
「じゃあ、おれは、これで」
予定よりも時間を潰してしまった男は、これからの道順を練り直しながら、さっさとお茶箱を下げ
た棒を担いだ。
「 ―― 商売の帰りにでも、お茶を飲みに寄っとくれ。 売れ残った品があったら、買い取ろう」
こちらを見送るように立つ年寄りには、先ほどまでの言いつけるような気配はない。
「・・・あいにくと、売れ残るような商売してねえんで、遠慮しやす。 また、旦那が欲しそうなもんが入ったら、まわって来まさ」
「そうかい。・・・じゃあ、まってるよ」
その、なんとも人付き合いがへたそうな年寄りのところへ出入りするようになって、もう、五年たつ。




