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プロローグ

第1章 1ー1です。

カンカンカン、という踏切の音で目を開ける。すると、そこには踏切があって、少年が中に入っていく。ガタンゴトン、という音が聞こえて来るが、少年には聞こえていないようだ。何か焦っているように見える少年に声をかけようとしたところで自分の体が動かないことに気づいた。視線は動かせるがそれまでだ。これでは何も出来やしない。せめて轢かれないように、と願った私をよそに少年は躓いて転び、ガタンゴトンという音は近づいて来ていて_

少年と目があった。

「…!」

ガタンゴトン、と音を立てて目の前を電車が通りすぎていく。そこでこれは夢だと気づいたが、顔に、頭にこびりついた血はなかなかとれそうになかった。

“助けて”

「えぇ、助けます」

夢の中で呟く。

それが私の仕事なので。


「…はぁ」

目覚めると知っている天井。目覚めは最悪。きっとひどい顔をしているのだろうな、と自分のことを客観視しながら朝のルーティンをこなす。そして荷物をまとめて外に出る。

「いってきます」

無人の家へそう投げ掛け、私は家を出た。


電車を乗り継ぎ、目的地へ向かう。目的地に到着するとそこはのどかな村だった。

いいな、と素直に思う。老後はこんなところでのどかに暮らしていきたいものだ。

本当にあの夢で駅の名前が分かって良かった。そうでなければまた届かないところだった、と思いつつ、村の中を歩く。

こちらを村のものではないと見切った村人から不躾な視線が向けられるが知らないふりをして歩き進める。そうして、目的の人物を探しだすと努めて困った、という顔をつくる。

「すみません、この辺で宿はありませんか?」

そうすると、快活そうな少年は“視た通り”こてん、と首をかしげて考えた後、

「この辺には…と言うかこの村にはないよ、お兄さん」

と答えたので、私はそのまま、そうですか、と返す。あぁ、自分で言っていて反吐が出る。が、そんな気持ちはおくびにも出さずに困った表情で考えているふりをしていると。

「じゃあ、うちに来なよ、お兄さん」

少年はそう言って笑った。


「…で、ここが俺の家ね!」

「ありがとうございます、こんな見ず知らずの人に宿として貸していただけるなんて」

少年に村を案内してもらい、一周して、少年は最後にそう言った。

「いいよ、どうせ俺とばあちゃんの二人だし」

それに、と続ける。

「お兄さんと会うの、初めてじゃない気がして」

何か、親近感?みたいな?と首を捻る少年にどこかであったことがあったのかもしれませんね、と濁して家へ案内して貰った。


「そういや俺、お兄さんの名前聞いてないね」

そう彼が言ったのは家の中へお邪魔させてもらった時のことだ。そこでようやく気づいた。どうやら私も大概焦っていたらしい。丁度彼のおばあさんもいらしたので、

「私は辻村かなと申します。よろしくお願いします。」

「俺は数井隼!よろしく!お兄さん!」

私の自己紹介の後、彼はそう返してくれた。


さて、私はその後、随分良くして貰った。彼のおばあさんは彼に似て穏和で優しい方だった。突然孫が連れてきた謎多き私を笑って出迎えてくれ、ご飯やお風呂まで厄介になってしまった。更には布団まで準備してくださるらしい。大分申し訳ないが、ご好意に甘えさせてもらった。隼さんは私にひっきりなしに“外”の話をねだり、私はそれに応えた。終わるころにはとっぷりと夜が暮れており、しばらく布団にくるまっていたが、どうしようもなく眠気が襲ってきて、私は目を閉じた。


そこは底知れない暗闇に閉ざされた場所であった。

今度は夢であると始めに認識できた。が、こうも暗闇だとどうにもしようがない。それでも目線だけでも巡らしていると、唐突に声が聞こえた。

「…!起きて!!!」


パチリと目を覚ますと包丁が私に向けて振り下ろされるところだった。咄嗟に横へ回避し避けると僅かな月光から襲撃者の顔が露になった。

_彼のおばあさんだった。

おばあさんは昼間とうってかわって虚ろな目をしている。おばあさんは私が数秒前まで眠っていた布団から包丁を抜いて襲いかかってきた。少年は部屋にいなかったので、それをどうにか避けつつ外に出る。幸い荷物はひとまとめにしておいたのでひっつかみ駆けた。そのなかから催涙スプレーを取り出しておばあさんへ向けて放射する。ごめんなさいおばあさん!と心の内だけで謝り、夜道を走る、走る。目指すは、踏切。


村を駆けていくと昼間すれ違った村人たちがおばあさんと同じように虚ろな目で凶器を手にしている。これは、想像以上にまずいかも知れない。非常識な時間ではあるが、私はスマホを取り出してメッセージをうった。


___《了解》___


曲がり角を曲がったところで隼さんがみえた。少年は何かに急かされているかのように踏切へ駆けていく。同じく踏切へ私も駆けるが、彼とは少し離れている。カンカンカン、と踏切が閉まる音が聞こえる。少年が中へ入る。ガタンゴトン、という音が聞こえる。私は覚悟を決める。少年が躓いて転ぶ。電車が近づき、【少年がこちらをみた】。

「…!!!」

意識が途切れる。視界が回り、点滅し、映し出し、提示する。心臓が早鐘をうつ。息があがる。

私が次に意識を取り戻した時、耳元でガタンゴトン、と音がして目の前を電車が通りすぎた。土の匂いがする。私は腕の中に抱いていた少年へ声をかける。

「…大丈夫ですか?」

「ありがとう…。」

隼さんはあまり優れない顔色でそう言った。


まぁ、何はともあれ。目的ははたしたので、後は援軍が来るまで逃げ隠れするのが私の仕事だ。隼さんに援軍が来ることを伝えて、共に逃げた。あの人々から。顔見知りがああなって、頼れるのがこんな頼りがいのまるでない私しかおらず不安だと思うが、少年はそれでも気丈に振る舞い、道を案内してくれた。


まずい、と思ったのは唐突に開けた場所に出たことと、不自然なまでに人々がそこに“いなかった”からだ。早く、ここから、離れなければ。しかし、そこから逃れる道は全て人々にふさがれ、気づけば私達は囲まれていた。そこで私達に声がかかる。

「やぁ、久しぶり。また会えて嬉しいよ。“死にたがりの愚者”さん?」

声変わりのしていない、それこそ目の前の少年と同じような体躯をした少年が上空から降りてくる。

「…あ、なたは…」

私がそう声を振り絞ると“それ”は気分を良くしたようであはは、と嗤った。

「僕のこと覚えていてくれたんだ、嬉しいよ!お兄さん!」

“それ”が手をあげる。するとそれに呼応するように“それ”の影が沸き上がる。

「…戦います。合図したら貴方は走って逃げてください」

それを見ながら少年へそう告げる。少年は、でも、どこから、といっていたが、道は私がつくります、と言うと覚悟を決めたように頷いた。

「さぁ!お兄さん!僕にその全てを見せてよ!」

それの影が針のように尖り、こちらへ襲ってくる。私はカバンの中から取り出すと少年へ言った。

「後ろへ走って逃げてください!」

【閃光弾】!!

辺りが閃光に包まれる。すると、“それ”や、人々は悲鳴をあげ、次々に倒れ伏した。少年はそれに少しばかり驚きながらも、人々を避け、走り去って行った。それを横目で見ながらカバンの中から続けざまに銃を取り出して“それ”へ発射し、注意を引く。あえなく避けられてしまったが、目的は達成できた。

視界の端で既に回復した“それ”が立ち上がる。瞳は憎悪で燃えていた。

「…お兄さん…!いいよ、そんなに死にたいなら殺してあげる!」

戦いのゴングは高らかにならされた。


side数井

倒れ伏した人々を押し退け、飛び越え駆ける、駆ける。人生で今までここまで走ったことがあっただろうか?被害を免れた人々が追いかけてくる。足がもたつく。精一杯の意識で足を動かしたが、それより村の人の方が速い。差がどんどん縮まり、村の人の手が少年へ届こうか、という時、果たしてそれは現れた。少年に届こうかとしていた村人たちが一呼吸の内に吹き飛ばされる。

「よう、少年!大丈夫か?」

その人を仰ぎ見れば、にこりと笑った。


side辻村

“それ”が操る影が針となって襲いかかる。それを“視て”避け続けるが、やはり限界があり、避けきれなかったいくつかが体を貫く。その度によろけ、回避速度が下がっていき、貫く影の数が増えていく。すると“それ”はしびれを切らして影を操り私を吹き飛ばした。受け身も取れず家屋に突っ込む。

「…が、はっ…」

それでも何とか立ち上がるとパタパタ、と血が垂れて地面に斑模様を描いた。ハイになっているのかあまり痛みを感じないが、上手く動かない部位が有るためなかなかひどい事になっているだろう。口からはもはやヒュー、ヒュー、というか細い呼吸音しかならないが、それでもやらねばならない。少年は逃げられただろうか。“視て”いても体が動かずされるがまま、打ち付けられる。本当なら銃を打ちたいところだが、何度目かの衝撃でふっ飛んでしまった。意識を保つことすらギリギリで漠然とあぁ、死ぬかも知れない、と思った。その時、唐突に“それ”が吹き飛んだ。

「辻村ちゃん!」

どこかで私を呼ぶ声がした気がして、私の意識は沈んだ。


side東条

「辻村ちゃん!」

とそう叫んだ男_東条_は、素早く倒れ伏した辻村を持ち上げて後ろにいた男_後藤_に預け、早く応急処置をしに行け、と指示をした。後藤が頷き、次の瞬間には消え失せたのを確認し、“それ”に向き直る。

「選手交代、第2ラウンドってね!」


side後藤

瞬きの内に仲間の元に戻ると

「大地!怪我してるから応急処置お願い!」

と叫んだ。大地、と呼ばれた男性は怪訝な顔をして後藤をみると

「唾でもつけとけ」

ととりつく島もなく追い返した。

「ちーがーいーまーすー!!!辻村さんですー!」

すると大地は血相を変えて詰めより、

「早くそれを言えよ馬鹿」

と吐き捨てると辻村さんを抱えて応急処置を手早く始めてしまった。

「ねーぇ、先生?俺と辻村さんとの差がありすぎやしませんかねぇー?」

「あたりめーだろーがバーカ」

「ひどーい!!」

そんなコント染みた掛け合いを成しつつも辺りへの警戒はお互い解かない。大地は手を振りあおぎ、炎で周りを取り囲み人々が近づけないようにしている。俺はそのなかで心配そうに辻村さんをみる少年と少女_俺たちの仲間で陽菜ちゃんという_に近づき

「大丈夫だからね」

と言った。少年は心配そうに頷いた。


side東条

はっきり言えば俺にとってはそうたいした相手ではなかった。いくら《名有り》と言えどもそう年数はたっていないし、経験も積んでいないから甘い。まあ、普通の人にとっては脅威に違いないのだが。

「くっそぅ!!なんなんだ!なんなんだよお前!」

ギャアギャアと煩いな、とどこか冷めた目で見下ろしながらそれでも食らい付く影をいなす。まぁ、随分とやってくれたものだ。おかげで辻村ちゃんは死にかけてるし、もう少しで一つの村が消滅するところだった。すぐには殺してやらない。俺は仲間が好きなのだ。

「スーパーデラックスなんかめっちゃすごいパーンチ!」

敢えて気の抜けた声でそう言えば“それ”は面白いほどに飛んで行った。体勢を崩したのを見逃さず追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃。追撃の度に地面にクレーターができ、“それ”は小さくなっていった。四肢が跡形もなくなくなったところで頭を潰し、それまでだった。死体がサラサラと風に浚われるように消えていくのを見て仲間の待つ所へ向かって空中を移動する。

「仕事おーーわり!」

そう、高らかに宣言した。


side七島

後藤とのやり取りをしながら辻村の応急処置をしていると、不意に人々がさながら糸の切れた操り人形のように地面へ倒れ伏した。

「あの…」

少年が話しかけてくる。その瞳は揺れている。

「これが終わったら、戻れるんですよね…?」

「は?」

思わずそんな気の抜けた声が出た。戻る?今さら?あぁ、なるほど。こいつは“違う”のだと思った。なら、教えてやる。俺は“優しくない”から。

「教えてやるよ。もう遅い…」

「先生!」

途中で後藤が割り込んで来たが知ったこっちゃねぇ。偽善なんてうんざりだ。それに、どうせすぐ知るのだ。

「何か勘違いしてるみてぇだからいうが、俺たちはヒーローなんかじゃねぇ_人殺しだ。お前は元の生活には戻れねぇよ_もう二度とな」

「…ぇ」

少年が瞠目する。

「良く見てろ」

俺たちの所業を。


倒れ伏した人々がサラサラと風に浚われるように消えていく。そして、跡形もなく消え去った。

「……」

少年は瞠目したまま動かない。後藤は既に西宮_少女だ_と共に帰る準備をしている。西宮はチラチラと少年に視線を投げている。と、そこに東条が帰って来た。東条は周りに視線をやると倒れている辻村さんを俺から受け取り

「帰るぞ」

と俺たちに言った。


見慣れたオフィスに瞬きの内に帰って来た俺たちは呆然とする少年をとりあえず南さんに見ててもらい、辻村さんを医務室へ運んだ。

「お帰り、お兄ちゃん」

そんな声に振り向くとそこには奏_俺の妹にしてこの事務所の医療担当だ_が仁王立ちで待っていた。

「どういう事か説明してもらえるよね?」

有無を言わせぬ物言いに、俺たちは頷くより他に無かった。


辻村さんの治療を終えた奏はすぐに俺たちの待つ会議室_ほとんど休憩室と化している_へやって来た。

「どういう事か説明して、お兄ちゃん」

そう言う奏に俺は一呼吸置いた後話始めた。


「ひどーい!!お兄ちゃんの冷血漢!薄情!人でなし!」

「そこまで言うか…」

「まあまあ」

妹の容赦のない物言いに少しだけ救われたような気がしながら、俺は口を開く。

「…でも」

あれより他に無かった。

「…」

後藤が黙り込む。部屋の重苦しい空気に耐えられなくなったのか、奏は

「じゃ、私辻村さんの様子見てくるから!」

と飛び出して行った。


side南

仕事の後始末の為残っていた私に少年をみるという仕事が追加されてから数分。どうにか少年をソファーに座らせましたが、これからどうしましょう…。少年は微動だにしないし、私は何をするべきなんでしょう。うーん。と悩みつつとにかく人数分のお茶をいれにキッチンに立っていると、お茶がのったお盆を横から出てきた手に掠め取られる。

「うわっ!?…辻村さん!?」

そこには、今医務室で寝ているはずの辻村さんの姿があった。


side辻村

南さんからお盆を受け取り、私は少年の隣へと腰掛ける。

「…隼さん」

少年へ呼び掛ける。

「…お兄さん…おれ、まだ信じられなくて…

_全部夢なら良かったのに…」

ハハッ、と少年_隼_は痛々しい笑みを浮かべた。普通ならここで慰めの言葉をかけたりかけれなかったりするものだが、私は全く別の事を言わねばならなかった。酷い事だ。奏さんの言葉を借りるなら正しく人でなしだろう。それでも。

「…隼さん。今、貴方の前には選択肢があります。…私達と共に戦うか、否か。どちらでも構いませんが、今、決めて下さい」

「…」

隼さんは私の言葉に少しだけ顔をあげた。そして緩慢な仕草で目を閉じると、覚悟を決めた顔で私に向き直った。

「…俺は、戦うよ。

___もう二度と、俺みたいな人を出さないように。だから、よろしくお願いします」

それは、美しいまでの決意だった。


side_

がちゃり、と社長室の扉が開かれる。その音と共に入ってきた来客を認めると、その部屋の主は笑顔で迎え入れた。

「どうだった?」

口火を切ったのはこの部屋の主_目の覚めるような美形だ。染めた肩までの金髪を前髪のみ上で纏めている。

「【視た】通りです」

そう、来客_腰ほどの黒髪を下の方で纏めている細身の青年はそうこたえると少々辛そうにふう、と肩で息をした。金髪の青年はごめんね、といいつつ決意を固めた顔をして、言った。

「…君が今回した選択は間違いなく人助けだ。_結果だけをみるのならね。けれど、君は違うだろう?だから、言うよ。_忘れるな。君の選択を。結果を。犠牲を。_俺たちは人殺しであり、同時に人を救済していることを。そして、君には、仲間がいることを。背負うなとは言わないし、君が抱えている事のほんの一部分しか俺は知らない事は知ってる。だから、頼れ。」

「…」

そう言われた黒髪の青年はその黒曜石の中に複雑な色を映したが、すぐに混じって黒の中に押し込められた。


「失礼しました」

「うん、お疲れ。早く医務室で休んでおいで」

そう言って黒髪の青年が出ていくと一人残った金髪の青年は扉に向かってひとりごちた。

「_君は、辻村ちゃんはもっと人を頼るべきだよ」

その声は誰にも届かずに消えていった。


プロローグ「とある村の少年」       完


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