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階層世界  作者: 如月
1章 第一階層
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005 夜

「はぁ。今日はどこに食いに行こうか。」


 職業案内所を出たグリードは夕食にいい時間なのもあり、外食することを決めたようだ。ふらふらと表通りの道のりを人の流れに従って歩き出した。

 店を探すために街を歩くグリードは、そのなんとも香しい匂いにつられて一軒の店の前に来ていた。そこにはらーめん屋赤狼という看板が立てられていた。半開きの扉から熱気が立ち昇り、その熱気と共に食欲をそそる様な匂いが辺り一面に広がっていた。


「おっ、ここにしようかな。らーめん屋赤狼。」

「いらっしゃい。席は17番です。」

「分かりました。」


 店員の指示に従って指定された席に向かって歩き出す。道を歩く中で人の話し声がところどころからして、繁盛していることが伺える。騒々しい空気に当てられてグリードもわくわくとした気分になった。


「うお。」


 そこにあったのは山とも見違えるような巨大な男であった。今日会ったレイジをも優に超えているほどだ。また、男は非常にふくよかな体型をしており、妙な威圧感と可愛らしさのようなものが両立していた。

 食事をしている男のにこにこと笑っているさまは、元来のものであろう優しげな雰囲気と合わさり、周りをも笑顔にして癒すようなそんな気さえする。


「ん?」

「すみません。言い食べっぷりだったもので。」

「おっ?そうかい?君いいやつっぽいな。ここの店でオススメなのは醤油ラーメンだよ。食べてみて。損はしないからさ。」


 その言葉からこの男がいい奴であることが分かる。ただそういう反応に成れているだけの可能性もあるが、グリードの反応は初対面に対してよい反応ではなかったのは確かなのだから、それに怒らないのはこの男の懐の広さというものかもしれない。


「はぁ、そうなのか。じゃ、醤油ラーメン食べるよ。」

「おっ?そうかい?僕はこれでも一応記者をやっていてね。評判なんだよ。特に食に関する記事のは人気が高くてね。食べてよかったって言われることが多いんだよ。ああ、ちなみに僕はグランって言うんだ。君の名前は?」


 グランという記者は第一層においてはかなり有名であり、第一層内の記事の中ではダントツで人気が高い。食に関する的確なコメントと正当な評価が高い評判を得るきっかけとなっている。

 ただ、すべての店で最後に一文、ただし量は少ない。と書くことからそういう芸かと思われている風がある。グラン基準で少ないなので普通の人には適切な量であることは、毎回感想コメントに書かれることになる。それがお約束というものだ。


「そうかい。見ておくよ。俺はグリードって言う。よろしくな。」

「ふーん。君がグリードね。覚えておくよ。それはそうと、そろそろ頼んだらどうだい?」

「そうだな。すみませーん。」


 グランの言葉に注文をしていなかったことを思い出したグリードは店員を呼んだ。その声に店員がすぐに駆け寄ってきて、注文をくく準備をした。それを確認したグリードはさっそくとばかりに注文をする。


「はいよ。」

「醬油ラーメン一つ。」

「醬油ラーメン一杯。そっちのはどうする?」

「僕は醬油ラーメン特盛と豚骨ラーメン特盛二つで。」

「は?」


 思わずといった風にグランのほうを向くグリード。グランはにこにこと先ほどと変わらない様子であり、冗談を言っている感じではなかった。固まったグリードに笑って声をかけるのは店主のおっちゃんである。


「気にすんな。兄ちゃん。そいつのそれはいつものことだから。」

「いや、は?三杯?しかも、特盛?」

「大丈夫だよ。汁まできちんと食べるから。残したりはしないから、安心して。」

「いや、そこじゃないんだが。あー、意味わからんが、まぁいい。」


 グリードは早々に突っ込むことを諦めた。賢明な判断である。どれだけ普通を説こうが理解されることはないだろう。グランにとってはそれが普通であるわけだから。


「以上かい?」

「うん。僕はいいよ。」

「こっちも大丈夫だ。」

「はいよ。待ってな。すぐ作るから。」


 そのすぐという言葉の通り注文の品はさほど時間がかからずに席に届いた。グリードはグランの前に三杯置かれたラーメンを見て、おかしくないかと再度思ったが何もいうことはしなかった


「どうだい。醤油ラーメンはおいしいだろう?」

「おう。あっさりしてて美味いな。」

「ははは。最初はやっぱりね。次からこってり系とかがね。いいと思うんだよ。」


 そんなことを言いながら、グランは目の前のラーメンを飲み物のように食べていく。グリードが一杯食べるころにはもう三杯食べ終えており、メニュー表を見ているほどであった。まだまだ、食べる気みたいだ。




 食事が終わり店を出た二人は最早、親友のようでさえあった。そもそも二人がコミュニケーション能力が高いというのもあるが、うまい飯を共に食えば仲が良くなるのも必然だろう。

 そこに酒が入るとさらにいいのだろうが、この二人の間にはその無粋なものは必要ではないらしかった。二人が精神的に大人であるのだし当然の結果と言えば、当然というものだろう。


「いい食いっぷりだったな。それに奢ってもらったし。」

「いやぁ、大満足だよ。楽しいひと時のお礼だよ。気にしないで。」

「まぁ、そんだけ食ったらな。あれから7杯もさらに頼んだらさ。」

「ははは。どうもお腹がすいちゃうんだよね。ある人が言うには体質の問題らしいけど。英雄体質だってさ。それが食欲に振れた場合のパターンだって。」


 英雄体質というのは何らかのデメリットを背負い、そん代わり強大な力を得るその体質のことである。グランは異常な食欲、燃費の悪い身体をデメリットとして、高純度な肉体性能を得た。

 その範囲は単純に肉体の性能に筋力や知力、抗体などのあらゆる性能。また気力、魔力に関してのあらゆる性能と他には第六感ともいえる感覚などそこまでを言う。グランは肉体性能としてはこの世界で最強であろう。


「へえ。強いのか?」

「ほどほどだよ。しかも力を使うと疲れるんだよね。お腹もすいて死にそうになるし。あんなのもう勘弁さ。必要になったら使うけどね。」

「そうなのか。」


 グランのほどほどなんて言葉は嘘である。先も言ったが肉体の性能としては最強である。その一点のみで考えたとしても上位の実力は保証されているし、事実として普通以上に強い。

 しかし、戦闘技術などではほかの者に大きく劣っているのは違いない。グランは疲れるからと戦ったことが過去に2度しかないからだ。だが、それでも常人よりは断然に強いであろう。グランは戦闘感も才能も並外れているのであるのだから。


「うん。なんだか君とは長くやっていきそうな気がすな。」

「確かにな。またうまい飯でも教えてくれよ。」

「もちろんさ。今日は楽しい一時をありがとう。」

「ああ、そうだな。またな。」

「うん。じゃあね。」


 そうして二人は夜の街へと消えていった。




 グリードは目を覚ました。太陽が窓から差し込んで清々しい朝である。なんてことはなく部屋の位置関係上、窓などなく光が入ってこないため薄暗く肌寒くと最悪な空間であった。とはいえ、それは路地裏街では当たり前のことなのでどうということでもないのだが。


「くわぁ~、ねむっ。」


 グリードの朝の日課は顔を洗うことから始まる。路地裏街で顔を洗うなんてことは贅沢なものだ。部屋に水が出るなんてことはなく、わざわざ魔道具を買わないといけないわけで、魔道具はたいていは高額なのだ。

 その後は着替えである。パジャマを洗濯籠の中に放り投げ、洗面所に用意してあった着替えに替えていく。今日の予定には玉ねぎ刈りがあるため、土で汚れてもいいようなラフな服装にする。


「ん~。」


 このくらいになってようやく目が覚めてくる。寝ぼけていてもここまで行動できるのは、習慣化されているのか、もしくは訓練の賜物か。どちらにせよそうなるように体に浸み込んでいる行動だ。

 次は料理である。昨日狩ってきた銀杏鳥の肉と、岩鳥の卵を適当に焼く。塩コショウでも振ればそれで食えるだろう。そんな男飯とでもいうような料理であるが、グリードにとっては十分であろう。


「さて、行こうか。」


 いよいよ家を出る準備が整ったらしいグリードが最後のチェックに入る。それは罠の確認である。部屋に泥棒が入るのを防ぐためだ。路地裏では泥棒が入ろうが自己責任なため自分で防犯をしなくてはならない。

 罠が解除された痕跡はないかや罠が正常に反応するか、侵入者に対し罠が有効的かなどそれらを順に確認していく。ところどころ罠を修正しながら確認作業が終了する。いよいよ外出の準備が完了である。


「罠を仕掛けなくちゃいけないってのはな~。」


 自分の家に罠を仕掛けなくてはならないなど、グリードにとっては好ましくないものなのだろう。不満がありありと伝わる声音であった。それでもやらなくてはならないなら、やるのがグリードというものだ。


「行ってきます。」


 グリードの言葉に返答するものはなく、部屋の中にグリードの言葉だけが反響した。その音も扉が閉まると少しの時間の後に消えた。


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