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階層世界  作者: 如月
1章 第一階層
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002 依頼受諾

 グリードは表通りに通じる道を歩きながら、今後の予定を決めていく。何しろ、今日突然入った仕事だ。今後の予定が崩れることは必至であり、そこの調整なども必要というものだろう。


「ロックバードと銀杏鳥は自分で狩って。市場を見ていくらくらいが妥当かを見てから、その値段に手間賃分をいただくとしよう。あと麺つゆと玉ねぎか。この時期なら玉ねぎは職業案内所の短期の仕事に、玉ねぎ刈りの依頼が入っているはず。麺つゆは買うか。さて、どのくらいの金になるかな。」


 予定を決めたグリードは表通りに出て歩き出した。表通りは路地裏街とは違って騒然としており、客引きの声、値段交渉の声、ひったくりが出たなどと様々な様相が見られ、見ているだけでもわくわくしてくるような、そんな不思議な感覚を覚えるだろう。


「ははっ、毎度のことながらここは賑わっているな。とりあえず、職業案内所に行くか。」


 職業案内所というのは仕事の斡旋をする場所である。簡単に言うとハ〇ーワークでなく、人材派遣会社の方である。職業を紹介するのでなく、仕事を紹介する場所である。ややこしい限りであるのだが。

 職業案内所は街壁の外に出るための門のすぐそばにある。大体の仕事が街壁の外へ向かう仕事であるからだ。一応中央にそれらを管轄する中央営業所も存在するが、利用するものは多くない。




 グリードは職業案内所の扉を開けて入っていった。お馴染みの受付嬢を見つけるとそちらに向かって歩いて行った。受付嬢は特に個人ごとに割り振られてはいないが、暗黙の了解として同じ人を利用するようにとなっている。

 それというのも昔起きた出来事が起因する。簡単に言うと痴情のもつれと言う奴だ。バカな二人の受付嬢がバカな男とバカなことをした、非常にくだらないことである。顛末だけ言うと男は天へと召された。語るほどでもないことだ。


「あら、いらっしゃい。こんな時間に何の用?グリード君。」

「ロックバードと銀杏鳥関連の仕事入ってない?それと玉ねぎ刈りの短期、明日の午前入りたいんだけど。空いてる?」


 グリードは用件のみを言う。受付は忙しいため、これまた暗黙の了解となっている。どれだけ仲がよかろうと、受付に居座っていると後ろから怖いお兄さんが出てくる。商売であるから。

 それに受付嬢にも嫌われる。この世界は金がすべてであるから、不利益を被ることを非常に嫌うのだ。もちろん、仕事以外であれば嫌われるなどはないのだが。なのだが、しつこい男が嫌われるのはどの世界でも共通のことではある。


「そうね。二つを同時に進めるならゴブラの森になるでしょうから、依頼となると薬草の納品。子鬼の討伐。岩鳥の卵の納品。銀杏鳥の羽根の納品。銀杏鳥の肉の納品の5つでしょうね。玉ねぎ刈りの予約の定員は空いてるわ。ただ朝の4時から8時の部しか空いてないわ。」

「とりあえず今日はその5つ受けるよ。あと予約のほうはお願い。明日も来るから、その時はよろしく。」


 依頼には主に三種類ある。常時依頼、指定依頼、指名依頼である。常時依頼はいくらあっても困らないものを中心に、職業案内所が独自に定めた基準によって、いつでも受け付けるという依頼だ。そのため時価が存在する。

 指定依頼は、依頼主が指定したものを指定した分だけこなすという依頼だ。職業案内所への委託業務であり、依頼主によって報酬などが変化する。職業案内所は委託料を依頼主より貰い受け金を得ている。

 指名依頼は依頼主との直接的な契約のことである。リスクは高いがリターンも大きい。難易度が高いものがほとんどであり、失敗する可能性が高くある。しかし職業案内所を介さないという扱いになるため報酬が全取り出来る。ただ、大体は職業案内所と依頼主がグルで、違約金という名目で金を騙し取っているという場合が多い。

 

「わかったわ。それと分かっていると思うけど、よろしくね。」

「任せておいて。もちろん分かってるからさ。」


 何についてかというと、賄賂である。賄賂がないと十全に働いてくれないのだ。また、賄賂が多いほど贔屓にしてもらえて、あらかじめ割のいい仕事を取っていてくれる場合もある。

 受付嬢の報酬のほとんどは賄賂によるものだ。ただ、賄賂といっても現金である場合は少なく、大体は食材や素材である。食費が浮いたり、家具の交換などの時に素材持ち込み分としてまけてもらえるなどの方が喜ばれるのだ。




 依頼を受けたグリードが次に来たのは街壁の外へと続く門である。見知った門番を見つけたグリードは手挙げながら声をかけた。


「よう。お疲れ。」

「んあ?おー、グリードじゃねーか。どしたん?」

「職業案内所の仕事。」

 

その言葉に門番の男はかすかに眉を動かした。その表情からは不信というよりは疑問という方が強いことが伺える。その程度の信頼関係をこの二人は築けていた。それは少し信頼というには違うものかもしれないが。


「この時間からか?」

「頼まれごとでさ。弓と短剣、それに軽鎧を貸してくれ。」

「はいよ。頼まれごとって、さてはハンス爺だな。あの爺さんはグリードのこと気に入ってるからな。」


 武器、防具の貸し出しは無料である。貸し出しを有料にしてしまうと誰も利用しないので、無料として貸し出しては破損分の修理費を払わせて稼いでいる。

 時たま不良品が混ざっているのはなぜなのか。もちろんそれは門番は知らないけど。この世界の誰も知らない不思議だろう。何でだろう?


「爺さんに好かれても嬉しくないね。」

「ははは、確かにな。んじゃ、頑張って来いよ。装備のほうはいつものところから持っていってくれよ。」

「ああ。期待しといて。」


 ここでも賄賂である。貸し出し無料とは言ったが、暗黙の了解で賄賂が必要である。そうでないと、不良品を掴まされる。そして、修理費を支払うことになるので逆に損になるのだ。一定以上の信頼関係を築けば防具の選定などは使用者に任される。


「期待して待ってるぜ。」


 そう言った門番はにやにやと笑みを浮かべていた。このように利益で付き合っている関係はどちらにとっても楽なものなのだろう。それがあるからこそのフランクさであるのだから。そして、信頼でもある。




 グリードが門を出た先に広がっていた景色は緑一色であった。背丈が20cmほどの大きさの草で均等に覆われている大地はまさに草の絨毯のように見えるだろう。その中に道ができてしまっているのは残念というほかない。

 職業案内所の所属の人間たちが歩き、踏みしめたことでできた道は仕事をする者の身としては歩きやすく、便利であるから有難い限りのものでもある。


「何度見てもきれいだな。ここは。」


 思わずグリードは呟いた。何度見てもという言葉の通り、グリードは数えきれないほどには草原の光景を見ている。それでもなお感動する光景というのがそこにはあったのだ。単純にグリードが好きというだけかもしれないが。

 この草原をグリードの足で2時間と少しほど歩くと森の入り口に到着する。ちなみに森のほかにこの草原は海と岩山に面しており、途中の十字路の行き先によって着く場所が変化するようになっている。


「ふぅ。ここまで来るのが長いんだよ。もっと、森の近くまで街を拡張すればいいのに。」


 2時間というのは歩きなれている人間からしたら大したものではないが、軽鎧や武器、道具などを持ち運ぶのは結構きついものだ。とはいえはバテテしまって動けないというほど軟でもないが。だが、疲れることに違いはない。

 そのためか草原と森の境界線には休憩所が設置してある。職業案内所の職員によるものだ。金稼ぎの一環でもある。職業案内所は利用料や現地での買取、荷物の運搬などによって金を稼ぐ。


「やぁ。」

「あ?あぁ、グリードか。なんか用?」

「相変わらずだな。」


 この男は門番である。休憩所は森に向かうものの監視という側面もあるからだ。森で勝手をされると困るのだ。魔物が街にやってくるなどという事態は出来る限り避けたいと思うのもおかしな話でないだろう。それに死体漁りも案外に金になるし。

 ちなみにここで賄賂を稼ぐことは禁じられている。職業案内所のトップの決定らしい。ここでもめ事を起こして面倒になるのを避けたいのだろう。

 その休憩所の門番は大体だらけている。この男もそうだ。先に言ったように賄賂が貰えないので、しかも儲けも少ないようなところでまじめに働くやつがいるはずもなく、寝ていることがほとんどだ。寝ていなくとも門番同士でゲームを講じたり、やりたい放題である。


「まぁな。こんなところで働いても金にならんし。街の門番よりも金が貰えるとはいえ、善意の品のほうがよっぽど儲けられる。今じゃもう罰ゲーム扱いさ。」

「罰ゲームって。また負けたのか?」

「けっ、なんか負けるんだよな。何かは分からんが。不正してるに違いない。」


 このように休憩所の門番という仕事は嫌われており、公然と罰ゲーム扱いされている。それでも定員が埋まるのは、職業案内所の上からの命令に下っ端が逆らえないからである。世辞辛いものがある

 だから職員たちは賭け事を現金の代わりに仕事をどこにするか決めることができる権利をチップに遊んでいるわけだ。手軽に賭けられるものであるし。どこに就くかでもらえる金が変わるため、金を賭けているのと変わらないのだが。


「ははは。まぁ、してるだろうな。今日は森に入る依頼を受けてさ。」

「おう、そうか。分かってると思うから。自分でやって通ってよし。」

「いいのかそれで。まぁ、いいか。行ってくるわ。」


 グリードは呆れたように肩を竦めた後、どっちでも変わらないかと思い直したのか素直に言うとおりにして、一定の手順の後に休憩所を後にした。


「おーう。」


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