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階層世界  作者: 如月
1章 第一階層
16/20

016 オークション

「オークションにご参加ですか?」

「はい。」

「では、こちらにお名前の記入をお願いします。」

「はい。」

「はい。グリード様ですね。では、こちらの札を持って会場にお入りください。」


 オークションの手続きとしては呆気ないものだった。これも開催者の自信によるものだろう。まぁ、地下にある時点でそこらへんは問題ないのかもしれない。しかし、名簿に名前を書くだけで済ませるのは何ともざるだとは思う。


「ようこそおいでくださいました。長い挨拶は省いて、さっそくオークションを開始したいと思います。ただ、その前にオークションの参加方法を説明いたします。ルールは簡単。お手元の札を挙げて金額を提示するだけ。では、早速一品目です。」

「一品目は体温調節のネックレス。首にかけているだけで装着者の体温の変化を感じ取って、体温を一定に保つための機構が働きます。また、魔石の交換もE+級の魔石以上で交換できます。では、提示額銀貨1枚から。」

「銀貨1枚。」

「銀貨2枚。」

「銀貨4枚。」


 オークションにはその独自の熱気というものがあった。他の客との競争であったり、一般の店では見かけない珍しい品であったり、他の商法とはなんとも違う様相を見せ人々を興奮させる。

 特に他人との競争というのはその熱気を燃え上がれせるのには十分で、それだけでも人は冷静さを保つことは難しい。だからこそ面白いものなのかもしれない。


「銀貨16枚と銅貨50枚。」

「銀貨17枚。」

「銀貨17枚と銅貨25枚。」

「銀貨18枚。」

「銀貨18枚。銀貨18枚。これ以上はいませんかー?5,4,3,2,1.はいっ。銀貨18枚で落札です。」


 最終価格は銀貨18枚。第一層にしては大金だ。それに一品目にしても大金だろう。最初から高額の商品が落札されたことで会場のボルテージは一層上がり、会場全体の気温が上がったかと錯覚させるほどだ。


「銀貨18枚って。すごい額だな。」

「そうね。おおよそ第二層に上がるために必要な額の5分の1くらいかしら。」

「なんか、普通に働くのがバカみたいに思うな。こっちは一日働いても半分に満たないくらいだぞ。しかも、今回あやつらのせいでマイナスだったし。一回でその何倍を稼いでるんだよ。」

「さぁ、考えたくもないわ。でも、作るのにもそれ相応の時間をかけてるんじゃない?そうでもないと……。いえ、何でもないわ。」

「いや、なんだよ。そこで言葉を切られると気になるんだが。」


 途中で言葉を止めるイリアにグリードは問いかける。言葉を途中で止められると一層気になるのが人の性。グリードも例にもれずに聞かずにはいられなかった。


「聞きたい?」

「聞いちゃいけない理由でもあるのか?」

「それを言ったら、答えたも同然じゃない。」

「それもそうか。」


 グリードの反応は淡白であった。聞かずにはいられないとはいえ、だからと言って本当に絶対に知りたいというほどでなく、なんともなしに流せる程度の事だったのだ。それを聞いても何も変わらないだろうから、そんなものなのだろうけど。


「……それで納得するのね。」

「つい納得してしまったけど、確かに答えを貰ったわけじゃないな。けど、まあいいよ。答えたくないなら、答えなくとも。」

「そう。その言葉に甘えさせてもらうわ。」




「あれから、何も買わずにここまで来たけど、何を買うつもりなんだ?」

「そうね。もうすぐだと思うのだけど。」

「続きまして、八品目。R2のアイテムバックです。品質は並等級。かの有名なより多くの物が入るカバンです。提示金額は銀貨10枚から。」


 アイテムボックスとはよくあるアレである。カバン内に魔方陣を刻むことによりその内部の空間を拡張して、より多くのものが入るようにした魔法具である。等級と品質はおおよそカバンそのものの素材に依存する場合が多く、魔方陣による影響は非常に小さい。

 というのも、そもそも魔方陣を刻めるものが少なく、最初の要求が高すぎるのだ。その分、要求を満たした後の成長性は皆無に等しく、大器晩成型のそれも最後の最後にようやく覚える的な扱いなのだ。


「これだわ。」

「アイテムバック?」

「そう説明にもあった通り、見た目以上にものが入るカバンよ。等級、品質によって違うけれど、今回の級であるとおおよそ1,6倍ほどかしら。」


 ちなみにだが等級というのがRに当たり、ランクを指す。ランクは1~7を基本として、特別枠としてR8を設けられている。R8として該当するのは大体の場合、神器などである。神に最も近き人、神人など神種の内、第一種から第二種に該当する自然発生型のものによる製作物だ。

 品質はそのまま物の良し悪しであり、これも同じく7種+1種である

 劣等級、並等級、優等級、国宝級、秘宝級、幻想級、伝説級、外伝級以上である。

 例によって外伝級のみは特殊である。該当するものは外の世界からやって来たもの。他次元に存在するものなどであろう。分かりやすく言えば、他の作品とのコラボによる物品や、神界などの別次元にあると設定されている物品などだろう。

 もっと言えばDLCコンテンツやENDコンテンツというわけだ。


「1,6倍。」

「正直微妙、かしら?」

「いや、まあ。」

「所詮カバンの1,6倍だから。小さいポーチサイズのものであると、その分拡張量も小さくなる。逆に言うと大きいものだとその分拡張量は大きくなるのだけど。」


 実のところ、アイテムボックスには二通りのものがある。それは先ほどのイリアの発言のものである“元の大きさに比例する”タイプのアイテムボックスともう一つ。“固定値大きくする”タイプの二つである。

 どちらがいいかは何とも言えないが、大きいものに刻印するなら前者のタイプ。小さいものに刻印するなら後者のタイプだろう。ただ、後者のタイプは術者の能力に大きく依存するため、未熟なものがやるとほとんど拡張は出来ない。


「へぇー。」

「現実問題、持ち運びとなるとカバンのサイズぐらいが限界でしょう。大きくても馬車とか他の機能と合わせて使うタイプのものとなるでしょう。」

「確かにね。森に入るとかを考えるとそうかもしれないな。」

「うん。とりあえず、値段にもよるけどこれを落としましょう。」


「銀貨10枚。」

「20枚。」

「25枚。」

「28枚。」

「30枚。」

「35枚。」

「35枚。銀貨35枚です。これ以上はいませんかー?」

「案外安いのな。」

「所詮第一層だから。使える金額も決まっているようなものでしょう。」

「まぁ、そうかもね。」

「はい。銀貨35枚で落札です。」


 こうして、アイテムボックスをイリアは手に入れた。しかし、銀貨35枚を安いという感覚は着実にオークションに汚染されているようだ。


「オークションも終盤に入りまして、ここで休憩とさせていただきます。お手洗いなどはこの間に済ませていただくようお願いいたします。それでは、休憩時間が終わり次第またお会いしましょう。」


 その言葉を境にぞろぞろと客が出ていく。このまま帰るものもいるだろう。もうほとんど品は出されているも同然であり、良い品はほぼ残っていない状況だからだ。品がないオークションに残る意味はなく、帰ろうとするのもおかしくないだろう。


「どうする?」

「待機よ。あなたは。」

「同じく。」

「そう。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……今日はありがと。」

「いや、楽しかったしな。こちらこそありがとう。」

「あなたの言葉は本音か分からないわね。」


 疑いの目でグリードを見るイリアであるが、それも当然なのかもしれない。グリードのほとんどの返答というのは、相手の言葉に対してそうだね。としか言っていないにも同然であり、本当にあなたはそう思っているのか?と疑問を持たれてしまうものだろう。そう言うのを気にしない人間もいるが、イリアはそうではなかったのだ。


「そうか?まぁ、全部が本音なのかもしれないな。」

「そう言うところが、よ。」

「そうかもな。まぁ、でも嘘はあまり吐いてないと思うけど。」

「そうかしら?怪しいものだわ。」

「ホントだよ。嘘を吐く理由がないから。」


 その言葉は真だろう。嘘を吐く理由がないなら、嘘は吐かない。真理だ。意味のない無駄なことをするほど暇でもなく、嘘とばれたときのリスクだけを負うのだ。それほど無駄なことはないだろう。

 逆に言うと、必要であれば嘘であろうが吐くといってるも同然なのだがしかし、嘘を吐かないなんて言う奴よりはよほど信じられるというものだ。


「あー、それっぽい。」

「でしょ。」

「……。」

「……。」

「……。」

「あなたになら、言ってもいいかもしれないわね。私の秘密を。」

「秘密?」

「ええ、それは……。」




 イリアが言葉を続けようとした瞬間に狙ったかのように轟音が辺りを響かせた。それと同時に起こる地震。周りはすっかりパニックになったかのように騒々しくなる。だが、逃げ場が制限されているこの場所だ。

 休憩時間で人が少ないとはいえ、出口はすぐに埋まってしまうだろう。それにこんな事態に誰かを外に出すなんてことは主催者が許すわけもない。すぐに出口は封鎖されてしまう。これでグリードとイリアはオークション会場に閉じ込められたことになる。


「なんだ!?」

「襲撃、かしら。」

「どうする?」

「決まってるでしょ。」

「そうだな。」

「貰えるもの貰っていないのだし、やるに決まってるわ。」


 貰えるものって、買ったものだろうに。すっかりただで貰えるものとでも思ってしまっているのか。まぁ、しかしこの事態を見事解決できれば、貰えるかもしれないからあながち間違いではないのかもしれない。


「じゃぁ、いっちょやるか。」

「ええ。」




 時を少し戻してグリードたちが闘技場を去った後のことだ。レイジとミリアムの二人は引き続き観戦をしていた。しかし、二人が返ってくるのが遅く、レイジたちはグリードたちを心配しだしたい。


「あいつらおそいなぁ。」

「そうねぇ。どうしたものかしらぁ。」

「グリードのやつが付いてるだろうから、戦闘面では問題ねぇと思うがな。」

「あら、あの子強いの。」

「相当、な。」


 相当。と言ったときのレイジは肉食獣を思わせるような雰囲気を漂わせており、自分のエモノを主張しているようであった。


「へぇ、なら安心かしら。あなたが相当というほどなのだから第一層では負けなしかしら。」

「だろぉなぁ。」

「イリアも弱くはないから、どうとでもなるかしら。」

「おぉ。そぉだろうな。それより、気づいてるかぁ。」


 この二人が会話しているうちにも闘技場を囲む包囲網は着々と出来ており、その包囲網ができるにつれて謎の重圧と殺気がより濃いものとなっていく。その中でも気にせずにいられる人間というのはこの二人のような強者か、もしくは何も感じることが出来ない凡夫かだろう。

 客席では所々居心地が悪そうにするものもいるが、ほとんどのものは何も気にせずに突っ立ているままだ。


「えぇまぁ。でも、あまり動かない方がいいわよぉ。」

「ちっ。もったいねぇなぁ。良い殺気してるんだが。」

「たぶんお零れぐらいはあるんじゃないかしら。」

「そう、願っておこうか。」

「動くわね。」

「あぁ。楽しみだぜ。」


 二人の言葉を合図にしたわけではないだろうが、炎の龍の装飾があしらってある灰色のマントを羽織る神官服を着た男が闘技場内のリングに降り立ち、魔術を発動させるとともに宣言をする。


「我らはアーク教会。終末の竜、アーク神の御力により、この世界を正すためにこの地に降りた。神の威光を讃え、地に伏すがいい。竜神の威光(アークカリスマ)。」


 その言葉により一定以下の能力のものは地面に伏した。戦闘に参加することさえ出来ずに一方的に話す権利もなく、ただただ地に伏したのだった。そうでなくとも竜神の威光により身体が地面に引っ張られるように重くなり、動きに制限が出ているものがほとんどだ。


「ふははは。アーク神の威光に屈するとは良き心構えです。褒美に一太刀で殺してあげましょう。あなた方も苦しむのは嫌でしょう?動くとかえって痛いですよぉ。くふふふ。お前たち、やれっ。」




「さて、神の威光の前で伏すことなく立っている不敬者はどなたでしょう。」

「アーク教会といったか?俺はゴードン。お前ら覚悟はできてるんだろうな。闘技場に襲撃してきやがってよ。」

「覚悟、ですか。そんなものが私に必要だとでも?あなた方に負けるなんてことはあり得ないというのに。なかなか冗談がお上手ですねー。」


 マントの男は腹立たしい仕草で首を振ったままぱちぱちとやる気のない拍手をした。その顔には胡散臭い笑みが張り付いており、いかなる感情を抱いているか察することはできなかった。


「そう思っていられるのも、今の内だぜ。お前が口だけでないといいがな。」

「あははは。面白いですね。では、やりましょうか。」




「なぁ、やっていいよなぁ?」

「ええ。いいわよ。私は左に行くわ。」


 一方でレイジとミリアムの方はと言えば、ミリアムがうずうずと身体をしきりに動かすレイジを止めていたようだが、止めるのを無理と悟ったのか止めることをやめたようだ。


「よし、分かった。んじゃ右な。」


 うずうずと戦いたくてたまらない様子であったレイジが、その言葉のすぐに走り出した。その様子を見て一つため息を吐いたミリアムがぼやいた。


「これであの子との戦いがなくなればいいけど。それにしても嫌な世の中になったわね。本当に。」


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