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階層世界  作者: 如月
1章 第一階層
13/20

013 闘技場

 闘技場。それは血で血を洗う戦場の場。向かい合い対峙する戦士たちが己の命と技術をかけて誇りを競う場所。そんな心躍る場所である。第一層では闘技場は一か所しかなく、入場券を得るのに苦労するほどだ。

 しかし、時にチケットを買ったことを後悔することがある。単純に第一層では選手の花が足りないのである。最下層であるのだからレベルはお察しのものだ。レイジなど一部例外は存在するのが、大体は思った通りのレベルである。


「今日は観戦のつもりだったのだけどぉ。」

「あぁ?んな、もったいないことすんなよ。どうせなら、参加しようぜぇ。」

「受付終了ているはずだわぁ。飛び入りなら最後の方にイベントがあると思うからぁ、それで我慢して頂戴。」


 娯楽という意味が強いのなら、それこそイベントなどは多く存在しており、人を楽しませる余興も多く考えられるものだ。それが利益に繋がるのだ。その一つに飛び入り参加型のものもあり、そういうものも好評なのである。


「まぁ、いいか。前座としてと考えるならそれぐらいで大丈夫かもなぁ。んじゃあ、行くか。」




「いらっしゃいませー。本日は観戦ですか?それとも参加ですか?」

「観戦ですぅ。」

「かしこまりました。では、こちらに代表者様のお名前を記入をお願いします。それと、お名前の横に人数を書く場所があるので、そこへの記入もお願いします。」

「はぁい。」

「はい。ミリアム様ですね。確認ができました。料金はお一人様、銅貨30枚です。四名様で銀貨1枚と、銅貨20枚となります。」


 銅貨30枚はおおよそ3000円程度である。観戦のチケット料という意味では安い方だろう。ただそれはチケット料のみの場合の話である。ここでは賭け事が合法、公式に行われており、そこで闘技場は収益を得ている。

 つまりは賭け事で負けている客の方が多いということだ。賭け事で破産するものもいるほどだ。それはどこの世でも変わらない部分だろう。だからこそ、チケット料は安くすることができているのだ。

 入場は簡単にでき、しかし賭け事の大本を締めて集金する。それがこの闘技場である。その分、賭け事を楽しめるようにと考えられているわけで、客としても純粋に楽しむことができるようになっている。


「はぁい。どうぞぉ。」

「確かにいただきました。では、こちらからどうぞ。」

「ありがとぉ。」

「よし早く行こうぜ。」


 流石レイジである。自分の欲望を優先すること右に出るものなしと言われるだけある。さっきまで観戦はあまりって感じであったはずなのに、今ではそれをすっかり忘れたように率先して動こうとするくらいだ。


「そうだね。お姉ちゃん早くいこ。」

「そうねぇ、行きましょうかぁ。」

「おっ。ようやくか。いつから始まるんだ?」

「ええとぉ、残り20分くらいかしらぁ。」

「まだ20分もあるのかよ。待ち遠しいものだな。」


 一番に楽しみにしているのがレイジというのもどうなのだろう。レイジはただ道の途中で捕まっただけなのだが、その人がが一番楽しんでいるというのはなんとも言えないものだ。


「移動しているうちに時間なんて過ぎてるものよぉ。ほら、行きましょ。」

「そうだな。」




「ここみたいですねぇ。」

「いいところだな。ちょうど、全体を見渡せるところだ。」

「ああ、そうだな。だが、ここからじゃ乱入しにくいなあ。」


 乱入することを前提に話すレイジである。戦闘狂か何かだろうか。いや、まさしく戦闘狂であった。普通の客というのは当たり前のことながら乱入を前提にしないものだ。そのため、席の場所などはそのように考えられて配られてはいない。基本は見やすさなどである。あとは来た順番で振り分けられていく。

 まぁ、席といっても移動とかは自由であるし、実際に移動は頻繁に成されるものだ。それに席の交換などに関しては特に禁じられているわけでもないため、普通にあることだ。

 そもそも乱入するかというのはあらかじめ連絡などをするというのが一般的であって、当日に急に乱入するという例は少ないぐらいだ。あるにはあるが、それは酒の勢いとかである。


「マジで乱入する気か?」

「ルールの範囲内でだぞ。もちろんだがな。」

「説得力のない言葉だな。」


 実際にレイジは規則ギリギリのことをやっているわけで、それに遭ったグリードはその言葉に嫌な説得力を感じた。あの時はレイジのテンションが上がっていたというのも大きな理由があるが、しかし、それでも規則をぎりぎりで破りそうになっているのだ。。

 本当にルールの範囲内で収まるか怪しいものだ。


「出禁になっても困るだろ。」

「そういうこと。なんか納得だわ。」

「嫌な納得のされ方だがまぁいい。それよりも乱入イベントとやらは、本当にあるんだろな。」

「実のところ分からないわぁ。毎回毎回イベントの内容というのは違うものだから。」


 そう、ミリアムの言葉の通り闘技場ではイベントというのが開催されるが、その内容は実にさまざまである。レイジが言う乱入もその中の一つであるが、魔物同士の戦いや一対多の嬲り殺し、他には海上戦などイベントの内容は様々である。

 その中でミリアムは今日、この日が乱入イベントだという保証などは出来ないのだ。一応は闘技場から日程などが発表されているが、日程変更があることなど普通にあることであるし、ミリアムはその日程を知らないのだ。

 ミリアムの知らない方が楽しめるという考えのもとである。


「なんだよ。絶対あるわけじゃないのかよ。」

「でも、無くても、ちゃんと私が相手してあげるわぁ。」

「くはははは、それは楽しみだなぁ。」


 この二人は非常に相性が良いのだろう。レイジが感情というものに素直であり、ミリアムがそれらすべてを背負いきれる器を持っている。レイジが拘らないものに限って細かいことを気にしないという理由もあるだろう。

 二人の重要視する部分というのが嚙み合った結果である。




「そう言えば、最終的に何でイリアはここに来たかったの?」


 一方でこちらの二人はというと、二人から離れた場所で立ち止まり話し始めた。あの二人の空気の中に入っていくのは、二人からしたら嫌だったのだろう。理由はそれだけではないもだろうが。


「別にここに来たかったわけではないわ。」

「えっ、ここじゃないの?」


 グリードの驚きようも当然のことだ。ミリアムが闘技場に行くといったときも特に否定する様子もなく、そのまま着いてきていたのだ。グリードが闘技場こそが目的地だと思ってもおかしくないだろう。

 でも、グリードは薄々とここじゃないと感じたからこそ、今話しかけたのだ。ここが目的地だというのなら、別にグリードを連れていく理由はないのだ。入る条件にそんな要素は一つもないのだから。


「えぇ、本命はこの後。地下オークションに行きたかったの。」

「地下オークション?」

「そう。そこで出品される品に興味深いものがあったから。それが欲しくてね。それとは別に上に行くための必需品が出品されるから。それを買うために参加したかったの。」


 地下オークションとはその名の通りである。わざわざ地下でオークションをやる必要はないとは思うが、しかしこれにも理由がある。それも単に防衛のためというだけであるのだが。防衛というのはオークションで出品する品を守るための、ということだ。

 金で買うよりも奪う方が早いと思うやつは、どの世界にもいるものだ。そういうやつから品々を守るために地下という場所でやっている。地下というのは侵入経路が限定され、逃走するというにも厳しいところだ。


「そうなんだ。まぁ、ここまで来たんだし、付き合うけど。」

「付き合ってくれて、ありがと。」

「どういたしまして。」

「オークションはいつからなの?」

「もう少し後。闘技場の場が温まって来た頃。」

「その中で黙って抜け出す、と。」

「そう。お姉ちゃんはレイジさんに掛かりっきりだろうから。」


 グリードはあの様子ならそうだろうと納得の様子である。それほど二人の相性はよく、気兼ねのない関係のように見えたのだろう。そこはイリアにとって今回の件での最大の味方となることだ。

 

「だろうな。俺はイリアがいないのを誤魔化しておけばいいのか?」

「いや、着いてきて。参加に必要だから。」

「参加に?」

「そう。私は一応、子供だから。」


 イリアの子供という言葉の通り、どれだけイリアの口調やら雰囲気やらが大人びていようが、子供である。その一点は変わりようもない事実であり、その一点が違うだけで状況がどうにもならなくなることは往々にしてあるものだ。

 だからこそ、グリードという大人を連れて行くのだ。そうすることで万が一でも断られることはないだろうと考えたのだ。


「なるほどね。分かった。」

「それに、荒れるかもしれないから。その時はお願い。私も協力する。」

「うん。分かった。」


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