瞑想について
「そろそろログアウトしようぜ」
俺はスピアにそう切り出した。
「そうだね。朝だもんね」
「それじゃ、俺とスピアはログアウトするから。ユミはどうする?」
「私はまた曲芸師ギルドへ行ってみようと思います」
「そうか、分かった。お酒呑みすぎるなよ」
「はい、任せて下さい」
何を任せるのか分からないが、大丈夫だろう。
ホテルにチェックインして、シャワーを浴びてログアウトした。
朝、食事は奈央が作ってくれる。今日の朝ごはんは、みそ汁、白米、鮭の塩焼きだった。
「美味しいよ」
「ありがとう」
食べ終わった後は、俺が食器洗いした。その間に奈央はLGにログインしている。俺は食器洗いが終わった後は、食後のコーヒーを飲んでいた。その後、瞑想をしてみた。やはりゲーム内と同じように意識を集中させることが出来た。
これ現実世界まで影響受けてるんじゃねーか。ということは、集中したい時は、瞑想をすれば良いっと。でも日本中で、今みたいなことが起こっていたら、パニックになるんじゃないか?そう考えながら、早めの筋トレを開始した。筋トレを終えた俺は、なんとなくLGをする気になれず、家を出た。
近くの公園で、瞑想を始める。すると子供達のキャッキャという声がした。どうやらサッカーしているらしい。この間も俺は目をつぶっている。ボールを蹴る音がして、こっちに向かって来ているのが分かったので、かわす。
「すみませーん。大丈夫でしたか」
「ああ、大丈夫だよ」
「さっき、お兄さん目をつぶりながら避けてなかったか?」
「そんなわけないだろ?直前で目を開けたんだって」
「そうだよな。そんなこと出来たらエスパーだもんな」
ははは、と笑う少年達。
一方の俺は
「エスパーになった気分だ」
ちょっと遠出して、大型ショッピングモールへ来ていた。目をつぶりながら、人を避けて歩くことが出来た。不審に思われないように、ほんの一分くらいだけど。なんとなくだけど、この力は他人には、おいそれと言えない力だと思った。
肉、野菜、ジュースを買って、家に帰る。あと一時間もすれば、奈央がリアルに戻ってくるだろう。その間に料理でも作っておく。ホントはラーメン屋さんに行きたいのだけど・・・。
出来た。麻婆豆腐だ。
その時、ちょうど奈央がやってきた。
「ちょっと!ログインしないってどういうことなの?」
あっちゃー。やっぱり一瞬でもログインしておくべきだったか。
「すまん。料理の買い出しに行ってたんだ」
「それなら、あたしもついていくよ。今度からは事前に言って?」
あれ?思ったより怒ってないぞ。
「よし、じゃあご飯にしよう」
「麻婆豆腐?楽しみー!」
「どうだ?美味いか?」
「うん、とっても美味しいよ」
「実は報告したいことがあって・・・聞いてくれるか?」
ご飯を食べ終わった時を見計らって話しかける。
「うん。良いよ」
「瞑想のことなんだが、リアルでも使えるんだ」
「へっ?そんなこと?そんなの当たり前じゃん」
「少し言葉が足りなかったな。瞑想中、飛んできたボールを避けれたり、ごちゃごちゃした人混みの中を誰ともぶつからずに歩けるんだ。勿論、目はつぶったままだぞ」
「偶然ってことはないの?人混みも相手から避けてくれたのかもしれないし」
「偶然じゃないと思う。人混みも自分から避けていたし、ボールに至っては飛んでくる軌道すらも分かったんだぞ」
「そっかー。健二は超能力者になっちゃたんだね」
「これからLGで相談してみるけれども、エスパーになってしまった事実は変えられそうにない」
「もう受け入れてるんだ?」
「まあな。マイナス面は特に無さそうだし。いつか役に立つ日が来るかもしれない。なんだったらそこらにいる達人と呼ばれる人達は、出来て当然なのかもしれないしな」