PvP 夜の部 決勝
俺は退屈していた。アイテム作成所の通りには、コウより強い相手は一人もいなかったからである。簡単に説明すると、ダメージを負っていたのか、初心者の鎧で一撃死する奴。アップルマンゴーの木刀を受け止めきれず、武器を折られながら、脳天にくらい、転送される人。ダガーで攻撃すると両目が見えなくなり、相手にもならなくなってしまった奴。
大体こんな感じだ。だから俺は退屈していた。
初心者の鎧を修理して、火花属性というのがエンチャントされた。そしてポーンと頭の中で音が鳴り、鎧職人が-12レベルになったのを知った。
仕方ないので、宝石商の通りへと移動した俺。だが人っこ一人いないようだ。
次は料理店の通りへ向かう。すると、アックスと中年男性が争っているのが見えた。見学させてもらおう。この試合が準決勝に違いないと思った。
残念ながら、アックスは負けてしまった。
パチパチと拍手をしながら、姿を現す俺。
「俺の名前はケン。そっちは?」
初対面だけど、PvP中だから、少し強気で言った。
「私の名前はジュンジです。よろしくお願いします。ケンさん」
「こちらこそよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる俺。結局敬語を使うんなら、最初から使っておけば良かった。多少後悔の念に駆られる。
「そちらさえ良ければ、今すぐ決勝戦といきたいんだが?」
「多少息を整える時間が欲しいですね」
「分かりました。少し待ちます」
「随分とお優しいですね。その甘さが敗北に結び付かなければ良いのですが」
「安心してもらって大丈夫です。勝つのは俺なので」
「随分と余裕ですね」
「アックスがやられるのを見ていたから、そんなに余裕ではないですけど、今は夜なので」
「アックスさんとお知り合いですか!それと今が夜なのが、一体どういう関係があるのですか?」
「アックスとはパーティー仲間なんだ。夜であることの優位性は教えられないな」
「そうですか。残念です」
「息も整ったので、もう大丈夫ですよ」
「それじゃあ、始めるか」
料理店のガラスが壊れるのは心配しなくて良い。さっき試しにアップルマンゴーの木刀で叩いてみたが、割れる気配は一向になかったからだ。これがPvP中だからなのかは分からない。もしかしたら普段から壊れないようになっているのかもしれない。真っ昼間だろうが夜間だろうが、アップルマンゴーの木刀でガラスを叩く度胸はないが。
俺は初心者の鎧を取り出す。ジュンジさんに怪訝な顔をされる。もう慣れっこだ。
「それがケンさんの武器ですか?」
「ああ、そうだ。初心者の鎧だぜ」
「それが本命の武器とは思えないので、違う武器になるまで、ちょっと相手をしますか」
「良いぜ」
ゲームマスターの真似をしていたのだが、全く相手にされなかった。寂しい。
「せいっ!」
ジュンジさんの声が、こだまする。
ギリギリのところで初心者の鎧で防御する。これじゃダメだ。
初心者の鎧を投げつけ、怯んだ隙にダガーを投げつける。
ダガーはジュンジの右目に突き刺さった。それも毒状態のダガーだ。毒状態がじわじわとHPを奪っていく。
「なんてことだ。視界の半分が奪われるなんて!」
ジュンジは嘆いていた。投げられた二本のダガー、どちらも避けきるつもりだったらしい。
「これで勝敗が決まるほど、やわじゃないよな」
「当然です」
すぐに落ち着き払ったジュンジも怖い。何か奥の手を持っているんじゃないだろうか?
今度はアップルマンゴーの木刀を取り出して、ジュンジの槍と戦っていく。鎧のある部分にだが、俺の剣技が当たっている。それでもなお、ジュンジは冷静だった。
その時、ジュンジの体が緑色に発光し、
「風の力を借りる」
と言ってきた。
素早い槍の動きに、アップルマンゴーの木刀では対応出来なくなった俺は、慌てて星の剣を取り出した。そして、
「わし座の力を借りる」
と言って、ジュンジを一太刀で倒した。
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