リンの気持ち
マグナスに着いたのが、夕方頃なのでお酒を呑むのに適した時間だった。ライトを点けると、色とりどりの光が天井を照らす。
「なかなか良いムードじゃないか」
リンはお気に召したようだ。
「んじゃ、お酒でも頼むかな?オススメで。ユミはどうする?」
「じゃあ私も同じのをお願いします」
「はーい、オススメね。分かった。今日はこれだ」
コップのふちに塩がついている。ソルティードッグだ。なかなか美味しい。
「二杯目はどうする?」
「同じので」
「私はカシスオレンジをお願いします」
「了解」
「何か収穫はあったかい?」
リンが聞いてくる。
「はい。シルバービーというボスモンスターを倒して、それぞれ武器を手に入れました」
「そうかい。ちなみにどんな武器だい?」
「はい、これです。風の弓にしました」
「ほう。良いのを選んだね」
おそらく何を選んでも、リンは褒めてくれるのだろう。
「ケンは何を選んだ?」
「星の剣を選んだ」
と言って、現物を出す。すると
「分かってるねぇ。いやいや、ただの偶然か?その武器を選ぶとはお目が高い」
随分褒めてくれた。
「私は弓士ギルドへ行かないといけないですから、この辺でごちそうさまでした」
1000ゴールド置いてユミは帰っていった。
「リン。星の剣を出した時、分かってるねぇ、と言ったな。星の意味について何か知っているんだな?」
「ああ、知っているさ」
「じゃあ何か教えてくれ。俺は図書館で調べたんだ」
「まだ話すには早いよ」
と言うと、この話は今日はここまでと言うように、ユミのグラスを片付け始めた。
「そうか。まだ早いか。じゃあいつかは教えてくれるんだな?」
「その通り」
「俺にもカシスオレンジくれ」
「はいよ」
甘いカシスオレンジが喉を通り過ぎていく。ゴクゴクと一気に呑めてしまう。
テカテカと天井を照らすライトの色の移り変わりに、見とれてしまう。まずいな、これは酔ってきた証拠だ。一点をボーッと見ながら、そんなことを考える。色か・・・もう少しでつながりそうなのに、酔いのせいか考えられなくなる。ステータス画面を見ると、酔いの表示が出ている。
「色・・・」
と言ってから、テーブルへ突っ伏す。ピクリとリンが動いたような気がしたが、酔っていたし、思い過ごしかもしれない。
危ない、危ない。私はリン。ケンに星の件で何か、気づかれたのかと思った。しかし、酔いが回ってよく考えられないようだ。色について、ケンに聞かれていたらなんと答えていただろう?口を濁しただろうか。
今はまだ気づかれていない。けどこの先は、きっといつかどこかで気づかれるのだろう。図書館にあるヒントに彼は気づいている、と考えた。 彼はまた図書館に行き、証拠を見つけるかもしれない。
「さあ、店じまいだよ。帰った、帰った」
リンの声で、少し眠っていたことに気がついた。
「ああ、今日は世話になったな。はい、これ」
1500ゴールド支払う。
「ゴールド多いくらいだよ」
「良いんだ。手間賃として取っておいてくれ」
「刺身とライトありがとうな。刺身食べてみたけど、凄く美味しかったよ」
「それは良かった。気に入ってもらえて。釣った甲斐があるよ」
そこで言葉が途切れる。
「じゃあ、また来る」
「ああ、そうしてくれ」
ホテルを取ると、シャワーを浴びる。今日は昼間ラクダに乗ったとはいえ、長距離を移動してきた。疲労も溜まっている。アラームをセットしてLG内で睡眠を取ることにした。あまり朝早くてもすることがないと思ったが、瞑想が出来ることを思い出した。アラームは午前六時にセットした。今は夜の十時なのでちょうど良いだろう。
そうして俺は寝た。意識を手放して寝ることでリアルでの睡眠の質も上がっているはずだ。夢を見た。いや、ゲーム内だから、ストーリーに関係する話だろう。
その夢の中では、幼いリンがいた。お父さんとお母さんに、強く何かを言われているようだ。幼いリンは何度も頷いて、理解しようとしている。そこで夢は終わった。