対スモール・コング
「この船って借りられますか?」
「ええ、大丈夫ですよ一時間当たり300ゴールド一日だと3000ゴールドですよ」
「じゃあ、一日借りるわ。」
そう言って、スピアは船をレンタルする。
「あっ!」
「どうしたの?」
スピアに聞かれる。
「日課の筋トレをし忘れた」
「そんなの明日で大丈夫よ」
「そうかな?」
「一日休むと三日の遅れ、だぞ。ケン」
アックスが会話に入ってくる。
「やっぱりそうだよなぁ」
「でも、もう今日はLGだからね。夕飯まで落ちちゃダメだよ」
「分かってるって」
そう会話をしながら船に乗る。
船に乗り込むと若干揺れる。アックスがエンジンをかけて、進ませる。アックスはリアルでは漁師なのかな?と思わせる手付きで船を動かしていく。船は天井有りのものだ。
「アックスさんは船舶免許でも持っているんですか?」
「ああ、趣味で取ったんだ」
ユミの質問にアックスが答える。そうか、漁師ではなかったんだな、と一人で納得する。
この船は結構スピードも出るようだ。潮風が気持ちいいけど、寒い。
「アックス、スピードの出しすぎじゃないか?」
「うーん、確かにそうかもな。少し緩める」
ハイスピードで海を走行させていたのをやめて、ちょうど良い速さに変えてくれる。
「あと二十分もあれば、島に到着する。船酔いした奴はいないか?」
アックスを除く全員が首を横に振る。
「いいや、大丈夫だぞ」
俺が代表して答える。
「そりゃ、良かった」
アックスも安心したようだ。
島が見えてきた。思った以上に大きな島だ。熱帯雨林のように、木々が海から生えている。だが、船は木々の隙間を通り、上陸した。
「いよっし、これで大丈夫だな」
俺はアックスに声をかけた。
「ああ、帰る時は船を逆向きにすれば良い」
「それで、この島には一体何があるんだ?」
「漁師さんに聞いたんだけど、ボスモンスターとお宝があるらしいよ」
「なにっ!?お宝だとぞ」
アックスに先導される形で、冒険は始まった。島の外周をぐるりと一周する。特に変わったものはなかった。クラブという蟹のモンスターに出会ったくらいだ。ユミが倒してくれた。
「じゃあ今度は森の中だな。みんなはぐれないように儂の後ろをついてくるのだぞ」
「「「了解」」」
森の中は葉が生い茂っていて直射日光の届かない暗い森になっていた。隠密のスキルを持っていれば、それこそ見つからないくらいに。
俺が倒木をかがんで、通り過ぎようとした時だった。石が飛んで来て倒木に当たった。すると倒木が頭の上から落ちてきた。とっさにアクロバットで、大ジャンプをして事なきを得たが、危なかった。石が飛んで来た方角を見たが、何もいない様子だった。ポーンと頭の中で音が鳴る。反射神経がレベル8に上がっていた。
「さっきのはなんだったんだ?」
俺はポツリと口にする。敵意ある存在から投げつけられたのは、間違いなかった。しかし、見つからないまるで隠密のスキルを持っているかのように。そこで俺はピンときた。相手がモンスターでも隠密のスキルはもっているのだと。
「気をつけろ。相手は隠密の使い手だ」
「じゃあモンスターじゃなくて、人ってこと?」
「いや、十中八九モンスターだ。それでも隠密が使えるんだ」
そこから俺達は進むのではなく、モンスター探しに躍起になった。
すると、また石が飛んで来た。鉄の鎧で受ける。今度はモンスターの位置が分かった。
「あそこだ!」
ダガーを投げる。
「キキー」
と声がして、モンスターを倒したのを知る。ダガーが手元に戻る。
「モンスター名はスモール・コングだ。ダガーで一撃だったから、相当体力は低いと思われる」
「了解した。注意して進もう」
アックスが返事をする。
スモール・コングのドロップ品は200ゴールドだけだった。隠密という強さを持っているにも関わらず、ドロップ品はショボい。おそらくは体力の低さからきているものだと思われる。
森を探索していたはずなのに、いつの間にか山登りをしていた。体力を奪われる。HPは90のままなのになぁ。
「あの、少し休憩しませんか?」
スモール・コングを積極的に倒していたユミが言う。周囲に気を配りながらの登山は、よっぽど堪えたのだろう。俺もスモール・コング探しをして疲れていた。それでもユミが九体、俺がさっき倒したスモール・コングも含めて四体だ。ユミの方が負担が大きいのが分かる。
「そうだな。休憩にしよう。ユミは疲れたろう」
とアックスが労いの言葉を返す。
みんなでスライムゼリーを啜る。こんなことなら、刺身でも残しておくんだった、と思った。今まで水分補給について触れなかったが、冒険者は皆水筒を持っており、無限に水が飲めるのだ。だから、砂漠でもヤシの実から水分補給しなくても良かったのだが、そこは気分である。あまりにも便利過ぎて、水縛りはやっていない。