曲芸師初公演
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ポーンと頭の中で音が鳴る。曲芸師師範レベル10、アクロバットレベル19、遠投レベル13になっていた。
これなら、曲芸師師範として、人々を楽しませることが出来るだろう。そう考えて広場の噴水に向かう。俺は雑貨屋で大きなボールを買った。収納しても良いように、空気いれもである。締めて800ゴールドである。そして、
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。曲芸師の楽しい楽しい躍りの時間だよ」
そう呼び掛けるとNPCの人達で、いっぱいになる。それを見て冒険者の人達も集まってきた。
「さあ、まずは玉乗りから・・・よいしょ!」
少し手こずったように見せたが、わざとである。あっちへフラフラ、こっちへフラフラして観客を沸かせる。
次はダガーを使う。玉乗りしながら、ダガーのジャグリングを始めたのだ。これには観客からも
「おおー」
という歓声があがった。
相当難しいことをしているのだが、曲芸師師範レベル10になった俺には、まだ余裕があった。ダガーをしまうと、今度は酒瓶を取り出して
「皆様、少し距離をお空けください」
と言い、観客との間にスペースを空ける。
酒瓶を口にいれグビグビと呑むような動作をすると、ライターを口の方に持っていき、勢いよくお酒を吹き出した。
炎が広場を真っ赤に染める。観客からは
「うぉおおお」
とか
「きゃあああ」
という悲鳴まで頂いた。
これを位置を変えて三回すると、俺はボールから飛び降りて、
「皆様どうもありがとうございました」
と言った。
周囲からは拍手が沸き起こった。NPCの一人が籠にお金を入れてこちらへ渡すと、皆それぞれに籠に向かってお金を投げ入れてくれた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
さっきの芸で俺は5250ゴールドも手に入れてしまった。お金稼ぎが目的ではなかったため、受け取って良いものか悩んだが、
「兄ちゃん、早く籠返しておくれよ」
の一言でお金を懐に入れて、籠をお返ししたまでである。
初めての曲芸披露だったが、上手くいって良かった。そう感じた。
俺が後片付けをしていると、NPCの子供達からサインを求められた。俺はサインなんて書けないから、色紙の真ん中に「ケン」と書いて渡していった。その時、
「特別だよ」
と言うと、子供達に相当喜ばれた。
曲芸師ギルドへ戻ると、
「パンッ」
とクラッカーの音が鳴って俺を出迎えてくれた。
「おめでとう!」
リンの一言に
「ありがとう」
と素直に言葉が出た。
「まずは玉乗り450ゴールドだね」
とリンが差し出す。
「リンも見にきてくれたのか?」
と言うと、
「私は店番があるからね。見に行けなかったさ」
続けて
「だけど、ここへきてケンの活躍を伝えてくれた人達が何人もいたのさ。なかには子供もいたよ」
と言った。
「ああ、大成功だったよ。玉乗りもジャグリングも火吹きも上手くいったんだ」
とちょっと興奮気味に言う。
「それは良かった。これで曲芸師も有名になるだろうさ。間違いなくね」
「それはまだ分からないんじゃないか?広場の噴水の近くでちょっと披露しただけだぜ?」
「冒険者の誰かが動画に収めただろうさ。それできっと有名になる。私達みたいな住人は口コミや噂で広がっていくよ」
リンがどこか遠くを見ている。
「お酒一本補充してもらってもいいか?」
「ああ、ほいっとな」
リンは一升瓶を投げて寄越した。
「危ないじゃないか」
「もうそれだけのスキルレベルになったんだ。そう簡単に落としやしないよ」
と、リンはお見通しだった。
「今日も祝杯をあげていいか?」
「いいよ。付き合う」
とのこと。
ぶっちゃけこのお酒が、曲芸師ギルドの主な収入源になっているんじゃないかと思った。
乾杯すると、いつものお酒より甘い。そして飾り付けにチェリーが乗っている。
「どうした?いつもより甘いカクテルじゃないか?」
「ああ、疲れた後は糖分補給が必要かと思ってな」
「そりゃ、どーも」
二杯目からは度数のキツイ辛口のカクテルになった。
「話がちがうじゃないか。糖分補給はどうした?」
「二杯目からは、もうどうだっていいと思ってね。とりあえず度数の高いお酒を出しておこうって魂胆さ。良いだろ?」
すっかり、リンのペースだ。
「まあ、良いけど」
「そうそう。素直が一番」
なんてリンは言うが、他にも一番にしなきゃいけないものがあるだろう?と思った。具体的には愛とか、正義とかだ。
「んで、どうだった?初公演は?」
「思ったより緊張しなかったな。みんなに楽しんでもらおうって気持ちで一杯だった」
「そか。そのみんなに楽しんでもらえて、良かったな」
「おう。その為にやったんだし」
お代を1000ゴールド払った。
ふとステータス画面を確認すると、曲芸師師範レベル11に上がっていた。
「街中で披露しても曲芸師師範のレベルが上がるのな」
ちょっと驚いた風に言うと、リンは
「最初の頃は、街中で歩いたり走ったりしてもレベルが上がったろう?それと同じさ」
なにやら貴重なことを教えてもらった気がする。
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