和食屋さん
朝LG内で起きると睡眠不足はすっかり解消されていた。ついでにステータス画面を開くとMPが完全に回復している。これは無属性魔法のレベル上げにもってこいだ。
ホテルを出ると、ダガーと初心者の鎧を直し始めた。ダガーの方は特に追加効果など出なかった。初心者の鎧は「胸当て」という効果がついてしまって胸元までしか鎧がなくなってしまった。
そんなこんなで昼時までなってしまった。今日は料理屋さんを探そうと決める。モンスターにやられるとゴールドが半減することから、多少リッチでも美味しいものを食べたいという思いに駆られる。そうすると、お店が立ち並ぶ左の道を行くとするか。雑貨屋さんばかりだと思っていたが案外料理屋も多い。
俺は和食屋さんに入ることに決めた。和食の良い香りが鼻を突き通す。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか」
「はい」
「どうぞお好きな席についてお待ち下さい」
昼時なのに人がそんなに多くない。むしろ閑散としていると言った方が良いかもしれない。空いていたのでテーブル席に座る。
「ご注文はいかがなさいますか?」
コップに水を入れられた。
「じゃあ豚カツ定食で」
「かしこまりました」
おそらく、このお店はNPCがやっているのだろう。リアル換算でサービス開始二日目にこんな大きなお店を持てる訳がない。
待っている間内装を見てまわっているのだが、なんと招き猫が置いてあった。それもたくさん。LGでも招き猫は福があるんだなぁ、と思った。
「はい、豚カツ定食になります」
「ありがとうございます」
空腹になり、スピードが50%落ちたところだったので、ちょうど良かった。豚カツの肉の旨味よ。ほっぺたが落ちるかと思った。これで、リアルと同じものが食べられることが証明された。満腹になると空腹度ゲージが100%になった。
「400ゴールドになります」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございました」
「つかぬことをお伺いしますが、こちらでワイルドボーアの肉等を買い取ってもらうことは可能でしょうか肉五切れ買い取って頂けますか?」
ここはゲームの中。賞味期限など存在しない。
「お待たせしました。では順にホーンラビットの肉2000ゴールド。ピンキーバードの肉500ゴールド。ワイルドボーアの肉1000ゴールドで買い取らせて頂きます」
「ありがとうございます」
「また何か入荷してもらえると助かります」
「その時はまた、ご縁がありましたら」
「お待ちしております」
「では失礼します」
思った以上の買い取り額に懐も喜んでいる。昼食も済んだことだし、スライム狩りに出掛けるか。いつもの草原に出たが、一向にスライムと遭遇しない。なぜだろう、と考えていたら、スライムキング討伐の証が装備したままになっている。俺の30分を返してくれ。
スライムキング討伐の証を解除すると、しばらくしてスライムがやって来た。
「無属性魔法」
MPが9消費される。
「無属性魔法」
まだスライムは倒れない。
「無属性魔法」
やっとスライムを倒せた。
こんなやり取りをこの他に、二回繰り返した。ポーンと頭の中で音がなる。無属性魔法レベル3と書かれたステータス画面が表示される。
今夜もグレズリーと戦うつもりなので、先に仮眠を取って置く。三時間ほどホテルで寝ただろうか?ステータス画面を開くとMPは全回復していた。三時間ほどが目安なのだろうか?昼間満腹度100%まで食べたおかげで、全然腹も減っていない。
グリズリー狩りまで時間があるので、曲芸師ギルドへ行くことにした。
「よう、やってるかい?」
「久しぶりだな。元気にしてるよ」
「今日ソロでグレズリー狩りに行くんだ」
「へー、そりゃ大層なことで」
満更でもない顔をリンが見せる。遂に曲芸師ギルドからもソロでグレズリーに挑む者が出て来て嬉しいのだろう。
「実は昨日も挑戦して負けているんだ」
「そりゃ可哀想に。ゴールドが減ったろう?」
「うん。おかげで今日は準備万端だ」
「一つ忘れてるよ」
そうリンが言うと、例の酒を渡してきた。
「グリズリーなんか丸焼きにしちまいな」
力強いリンの言葉。
「おう」
と短く返事した。