朝焼け
早朝の街にはまだ夜の帳が下りていて、ぼんやりと日の光が滲む東の空を星々が見守っている。
藤崎美璃は、今日が誕生日である幼い一人息子の葵を連れて自宅近くの高台に来ていた。
「寒くない?」
日が昇り切らない内はまだ少し肌寒いこの季節。美璃は葵の体調を気遣う。
「うん!全然平気」
元気に返ってきた声に安心して、彼の頭を撫でた。
東天から差し込む朝日が徐々に明るさを増していく。
「葵、見て」
美璃の指差す先の空に、明けの明星がキラリと輝いていた。
「わあ……」
と息を呑む葵のつぶらな瞳に、星の姿が煌めく。
「綺麗でしょ。あれは金星だよ。それから……」
美璃は指先をスーっと空に滑らせて、
「金星の上にいるあの星が火星、その上にいるのが土星。で、金星の下にいるのが木星……」
と説明した後、
「皆んな葵に会いたがってたと思うよ」
と言って微笑んだ。
不思議そうに見上げてくる葵の傍らにゆっくりとしゃがみ込んで、目線を合わせる。
「葵が生まれたのも、大体この時間なの。朝焼けが綺麗なこの時間。その時はお父さんの車で病院に行ったんだけど、私は体が強くないから、無事に生まれて来てくれるかずっと心配だったんだ……」
でもね、と美璃は思い出を続けた。
「何となく……本当に何となく車から見た空に、あの星たちが4つ、綺麗に並んでて。『ああ、あの星もこの子に会いたいのかな』って、何だか見守られてる気がしてね。きっと大丈夫だって安心して、私は葵を産めたんだよ」
整列した4つの星は遥かなる宇宙の高みから二人を見守り続けている。
美璃はそっと葵を抱き寄せて、再び朝焼けの空を見た。
「だから私はあの星たちに約束したの。子供が大きくなったら、必ず顔を見せに連れて来ますって。今やっとその約束が果たせたよ、葵」
大きな瞳にはやはり星の光が反射して煌めいている。
その瞳の中に広がる朝焼けの空と星の煌めきが、葵には何よりも美しく見えた。