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北方戦線異状有り

「今日あったことを報告しよう」

 酒盛りが終わり、和哉たちは別室に集まっていた。

「今日から新しく仲間になった藤井照美と羅二夫だ」

 和哉は姉弟を紹介した。

「照美です。よろしくお願いします」

「羅二夫です。よろしく」

「山岡はどうした?」

「かみにーさまは私が……」

 照美は山岡が石に頭を強打した顛末を話す。

「それでは仕方ないな」

「しかし何故、かみにーさまでござるお?」

「新聞部部長ですから、紙ですよ」

「その紙か」

「それで、竜也に何があった?」

「話せば長くなるでござるが……」

 モリモットの語る出来事は以下の通りだ。


 北方の勢力に攻勢を仕掛けるべく、モリモットの作った女戦士と共にシュガー四天王たちは出陣した。

 モリモットは普段着、武藤は赤い胴着、尾藤はレスリングコスチューム、そして佐藤は銀色のメタルスーツに身を包んでいる。

「砦が見えて来たな」

 砦の前には敵の軍勢が待ち構えていた。

「では、俺の破力拳で吹き飛ばすか」

 武藤が前に出ようとすると、敵勢の中から単身で進み出る者がいる。

 シャー、シュルシュルシュル、パシーン。

 左手で何かを操っているその姿は、今時珍しいセーラー服(注1)姿の女子高生だ。

「バ、バカな……」

 武藤の隣で佐藤が愕然としている。

「知っているのか、佐藤?」

 彼が答えるより早く、進み出て来た少女の左手から何かが飛来した。真っ直ぐに飛んで来たそれは武藤の鼻先で止まり、少女の手元へと戻ってゆく。

「ヨーヨー?」(注2)

 円盤状の板に挟まれた紐に巻き付きながら戻ってゆく様はヨーヨーだが、人の頭ほどもある巨大なヨーヨーなど現実的ではない。

「歌いながら攻撃(注3)して来そうでござるお」

「父ちゃん、情けなくって涙が出て来るぁ」(注4)

 呑気に構えるモリモットとは対照的に、佐藤は地面に膝をついて嘆いていた。

「知り合いか?」

 尾藤も気になったが、肝心の佐藤は答えない。そうこうしている間に、女子高生が近づいて来て、互いの顔が見えるぐらいの距離まで縮まった。

「佐藤由貴が何の因果か落ちぶれて、今じゃ神の手先。笑いたければ笑えばいいさ。だがな! てめえらみてぇに魂までは薄汚れちゃいねえんだぜ!」

 気合の入った口上を決めて、由貴は左手に握ったヨーヨーを見せ付ける。大きさは掌に収まるほどで、先程のような大きさではない。

「佐藤って……?」

「あれは、娘だ」

 武藤が尋ねると、佐藤は顔を上げた。

「由貴、バカな真似はやめて投降しろ。父さんは悲しいぞ」

「親子揃ってバカでござるお」

 (いささ)か芝居がかった態度の親子に、モリモットは辛辣だった。

「そこにいるのは、父さんなの?」

 メタルスーツで顔が見えない為、由貴は訝しむ。特に生前の佐藤は警察官という職業柄、厳格な父親として振る舞っていたので、現在のような姿は想像できない。

「そうだよ、由貴!」

「父さんのせいで、私は死んだんだよ!」

 由貴の左手からヨーヨーが勢い良く飛び出し、円盤が回転しながら迫った。円盤からは鋸刃が飛び出して(注5)丸鋸よろしく佐藤のメタルスーツの頭部を切り裂く。

「また壊されたでござるお」

 レーザーブレードでも傷付かないはずのメタルスーツが、ヨーヨーの回転鋸刃で切り裂かれる光景は異常とも言えた。尾藤が咄嗟に後ろへ引っ張り倒さなければ、佐藤は絶命していただろう。

「こうなった以上、戦うしかないな」

 武藤が気合を込めて構える。その足元に佐藤が縋り付いた。

「娘には、娘にだけは手を出さないでくれ!」

「離せ、佐藤!」

 足を封じられた武藤に向けてヨーヨーが飛来する。地面に倒れることでどうにか避けた武藤ではあったが、この状況は危険だ。

「アマゾネス部隊、左側から展開して矢を浴びせかけるでござるお」

 モリモットの命令に従って、女戦士部隊が矢を射掛けると、武藤らに向けて放たれていたヨーヨーは軌道を変えて飛来する矢を薙ぎ払った。モリモットは女戦士部隊を三つに分けて正面と左右から敢えて時間差を設けて斉射させる。

 由貴は払い落としても次々と飛来する矢を、順番に対応させられ動きを封じられていた。一度に全ての矢が飛んで来るのであれば一挙に払い落として間合いを詰められるが、時間差で飛来する為に行動を制限されてしまう。

「尾藤殿、今の間に佐藤殿を後ろへ」

諒解(オーケー)

 尾藤は佐藤の両脇に腕を差し込んでズルズルと引き摺る。その頃には武藤に蹴られたのか佐藤の顔面はボロボロになっていた。

「助かった。よし、それでは破力拳で……」

 武藤が立ち上がって構える。そこへ敵部隊が突撃を仕掛けて来た。

「ならば、そちらから」

 武藤が迫る敵部隊に破力拳を撃ち込む。多くの敵兵が吹き飛んだが、先頭を走る戦士は避けたようだった。

「面白い」

 武藤はニヤリと笑って、改めて破力拳を撃つ。それを躱して迫って来たのは美しい女性だった。

「覚悟せよ!」

 雄叫びを上げながら、剣を大きく振り被って突進して来る女性の気迫に、さしもの武藤も僅かに気圧(けお)される。

「くっ……!」

 武藤は辛うじて剣撃を躱して、後ろへ跳び退(すさ)った。その彼に向けて女剣士は切っ先を向けて突撃して来る。

「やああ!」

「来い!」

 武藤は左前に構えて、女剣士の動きに集中した。

声の想定(ボイスイメージ)

・桐下 和哉   鈴木達央さん

・聖女クリス   小林ゆうさん

・ジョアンヌ   河瀬茉希さん

・モリモット   関智一さん

・武藤 龍    玄田哲章さん

・尾藤 大輔   稲田徹さん

・佐藤 竜也   櫻井孝宏さん

・山岡 次郎   下野紘さん

・藤井 照美   伊藤かな恵さん

・藤井 羅二夫  うえだゆうじさん

・佐藤 由貴   芹澤優さん

・女剣士     日笠陽子さん


注1 セーラー服

 我が国ではセーラー服は女子生徒が着用する衣服であるが、元々は水兵が着用する戦闘服である。

 起源はイギリス海軍で、特徴的な襟のセーラーカラーは防風機能と集音機能を兼ねていると言われる。

 スカーフは手拭いや緊急時の包帯代わりとしても用いられるなど実用性も加味している。

 我が国でも帝國海軍の発足当時から水火夫服として制服に採用して以来、現在の海上自衛隊でも着用されている。

 イギリスではヴィクトリア女王がセーラー服を気に入って子供服として(あつら)え、王族が着用したことで国民全般にも普及するに至った。

 端的に言ってミリタリーファッションのはしりと言えよう。


注2 ヨーヨー

 ヨーヨーの起源は古代中国とも言われるが、確かなことは不明である。

 古代ギリシアでは紀元前六世紀頃には、ヨーヨーに似た玩具で遊ぶ様子を描いた花瓶が存在するという。

 我が国には江戸時代に入って来て、享保年間に大流行したとされる。当時は手車、釣り独楽と呼ばれた。

 昭和初期にも再ブームが訪れ、戦後にも飲料メーカーの販促キャンペーンや、スケバン刑事(デカ)、ハイパーヨーヨーなどでブームを起こして来た。超電磁の時はブームにならなかったのに。

 なお武器として使用されるのは創作の世界だけである。


注3 歌いながら攻撃

 アニメ『戦姫絶唱シンフォギア』のG(二期)より登場する「月読(つくよみ)調(しらべ)」が用いるシンフォギアシステム「シュルシャガナ」がGX(三期)以降の攻撃方法としてヨーヨー化している形態がある。「シュルシャガナ」そのものは鋸刃の武器。

 シンフォギアを起動させるには特定の旋律を持った聖詠が必要で、更に機能向上には特定の振動が必要な為、装着者は歌いながら戦う必要に迫られる。


注4 父ちゃん、情けなくって涙が出て来るぁ

 テレビドラマ『あばれはっちゃく』にて、主人公である息子を東野英心演じる父親が「このぉバッキャロー!」と言いながら張り飛ばした後、「てめぇの馬鹿さ加減にはなぁ、父ちゃん情けなくて涙が出てくらぁ」と言う特徴的シーンがほぼ毎回繰り広げられた。


注5 円盤からは鋸刃が飛び出して

 ヨーヨーの構造上、このような仕掛けは使用者をも傷つけると思われる。

 ヨーヨーが創作物でしか武器にならないのは、あまりにも荒唐無稽だからである。

 『魁!男塾』の巨大ヨーヨーの使い手「独眼鉄」の攻撃も全く命中しなかった。

 スケバン刑事(デカ)では、金属製ヨーヨーの負担が主人公の身体を蝕んでいる演出がある。

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔のAVのタイトルで「ス○パン刑事」というのがありました(笑)。 あばれはっちゃくは「痛えな、何すんだよ」と返すのもお約束です。
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