かみにーさま
挿絵を差し替えました
和哉たちは究極の唐揚げを堪能した後、今後について相談していた。
「ヘファイストス陣営の主だった能力者は、誰がいる?」
「後は藤井姉弟ぐらいだな」
山岡はビールを飲みながら答える。
「姉の照美は幻影を、弟の羅二夫はテレパシーみたいな能力を使う」
「ほお、幻影は厄介かもしれないな」
佐藤の感想を受けて、和哉が質問を重ねた。
「どれだけの人数に幻影を見せられるかは分からないのか?」
「藤井は気分屋だから、その日によって範囲の変動が大きい」
山岡の情報も宛てにならない。
「それでも、直接的な攻撃能力はないようだし、二手に分かれよう」
和哉は以前から計画していた内容を語った。
和哉、ジョアンヌ、クリス、山岡で南方のヘファイストス陣営の城砦を攻略し、シュガー四天王の三人とモリモットで北方からヘファイストス陣営に通じる拠点を奪ってゆく作戦だ。
「シュガー四天王の三人がいるんだ、モリモットも後方支援すれば負けることはないだろう」
「北方の戦力は未知数だからな、それが良かろう」
武藤はやる気に満ちた表情で不敵に笑う。他のメンバーも納得した表情だ。
「よし、では出陣だ」
和哉たちは意気揚々と出陣する。ジョアンヌ率いる部隊を先頭にして進軍すると、行く手を阻むように敵軍が出現した。
「早速、おいでなすったか」
砦の前に敵兵が展開して待ち構えている。和哉は山岡と共に偵察しようと部隊を離れた。小高い丘から見下ろす二人の眼前には、砦の前に布陣する敵部隊が丸見えだ。
「まさか、あれが幻影ということはないよな?」
和哉は隣の山岡に尋ね掛ける。
「さあね、藤井の幻影を見破る方法は俺も知らないんだ」
「そうか」
和哉は考えた。幻影を見破る方法があるとすれば、それは何か。だが、その思考は女性の叫び声で中断させられる。
「かみにーさまー!」(注1)
「ぶふっ」
山岡に向けて若い女性が走り寄って来た。かみにーさまと呼ばれたのは山岡のようだ。
「かみにーさま、見つけましたぁ……? わっ」
走って来ていた女性は何かに躓いて、両手を大きく振り回しながら山岡を巻き込んで派手に転倒する。
「大丈夫か?」
和哉が心配して覗き込むと、山岡はグッタリとしていた。
「かみにーさま?」
「死んでるな」
山岡は転がっていた大きな石に後頭部を強打して絶命している。すると若い女性が和哉を睨み付けて来た。
「かみにーさまを殺すなんて、絶対許せません」
ブンブンと両腕を振り回して殴り掛かって来るが、和哉は左腕一本でその攻撃を受け止める。
「山岡が石に頭をぶつけたのは、お前が押し倒したからだ」
「そんな言い逃れは許しません」
どうやら彼女が聞く耳持たないと和哉は判断すると、右手を首筋に持って行った。
「か弱い女性をバットで撲るつもりですね。そんなの許しません。これでも喰らいなさい!」
画像提供 猫屋敷たまる様 拝
「ぶはっ」
和哉は鼻血を噴いた。瞬殺、悩殺である。その血飛沫は偶然にも目潰し(注2)のように女性の顔面に掛かっていた。
「目……、目が、目がー」(注3)
女性は目の中に血が入って視界を失っている。しかし和哉も止まらない鼻血で貧血気味の目眩に襲われていた。
「こ、こんなこともあろうかと、回復剤がポケットにある」
左手でポケットを探ると、硬い感触があった。それを取り出して、一気に飲み干す。カルピスソーダ味のエナジードリンク(注4)で活力を取り戻した和哉。そこへ颯爽と駆け寄る影が一つ。
「和哉、後は私に任せろ!」
ジョアンヌだ。彼女の白刃が煌めいて空を切り裂き、目潰しに悶えていた女性の首を刎ね飛ばす。
「どうせお前のことだ、女性には手を挙げられないだろう?」
「ああ、真の男女平等(注5)を体現できないからな」
和哉は悔しそうだが、どこか安堵の表情でもあった。
「それに、『カスや』とか『クズや』(注6)とは呼ばれたくない」
「何だ、それは?」
ジョアンヌは和哉の言葉の意味が即座には理解できない。
「しかし、この場合、次郎はどうなるのだろう?」
駆け寄って来た若い女性に押し倒され、後頭部を強打して絶命した次郎。その元凶となった若い女性はジョアンヌの手で討ち取った。初めての事態に次郎が夕方、どちらの陣営に所属しているのか判然としないのだ。
「それよりも、砦を落としてしまおう」
ジョアンヌにとって重要なのは砦の存在だ。一つでも多く落としておきたいと考えている。和哉とジョアンヌの二人は部隊の指揮に戻った。
「よし、一気に蹴散らすか」
和哉が突撃の合図を出そうとしたその時、彼らの頭の中に男性の声が響く。
「聞こえますか、聞こえますか? 今、あなたの心に直接語り掛けています」(注7)
声の想定
・桐下 和哉 鈴木達央さん
・聖女クリス 小林ゆうさん
・ジョアンヌ 河瀬茉希さん
・モリモット 関智一さん
・武藤 龍 玄田哲章さん
・尾藤 大輔 稲田徹さん
・佐藤 竜也 櫻井孝宏さん
・山岡 次郎 下野紘さん
・藤井 照美 伊藤かな恵さん
・頭に響く声 うえだゆうじさん
注1 かみにーさまー
漢字で書くと「紙兄様」になる。
間違っても『神のみぞ知る世界』の「神にーさま」ではない。本家「神にーさま」を聞きたい人はアニメを見よう。伊藤かな恵さんの声で「神にーさま」が聞けるぞ。
注2 血飛沫は偶然にも目潰し
あろひろしさんの漫画『ふたば君チェンジ』の登場人物、ブラッド地真の技である。
注3 目が、目がー
アニメ『天空の城ラピュタ』で……、説明の必要あるのか?
なお千倍にしてウザくするというネタで「ギガ、ギガー」というものがある。
注4 カルピスソーダ味のエナジードリンク
エッセイジャンルで日間一位を争うエッセイストたちが愛飲している「ZONE DEEP DIVE」ではない。
これは松千代の樹液を精製して得られる「マッチョナミンD」である。
注5 真の男女平等
暁なつめさんの『この素晴らしい世界に祝福を!』の主人公、佐藤和真が言及している。
彼は真の男女平等を体現していて、女性であろうとも容赦なく暴力を振るう人物である。
注6 『カスや』とか『クズや』
上記『この素晴らしい世界に祝福を!』の主人公、佐藤和真に対する周囲の評価が「カスま」とか「クズま」だったりする。
和真の場合、勝つ為に手段を選ばないことも加味されての評価。
注7 あなたの心に直接語り掛けています
中村光さんの漫画『聖☆おにーさん』の登場人物、ブッダが風邪を患って病院に行き、痰が絡んで発声できなくなった時に、医者に対して直接語り掛けた。