爆骨姉妹オシマイヨー・前編
「今回は、ジョアンヌとクリス、それと照美を連れて行く」
和哉の発表に最も驚いたのは当の照美だった。
「わ、私、何もできませんよ?」
「今回は試したいことがあるんだ」
和哉の思わせぶりな言動に、照美は渋々承諾した。
「それと、南側は守備戦とする。浩の女戦士部隊が使えないのは、本当に痛い」
「仕方あるまい。隣接する砦は三箇所、一人で一つを受け持とう」
佐藤らシュガー四天王の三人も配分に異論はなかった。ラジオはいつも通りの放送だ。
「よし、では出陣」
和哉たちは北方に向かう。これまで相対した人物は佐藤と尾藤の娘たち、和哉の幼馴染み、巴御前、アマゾネス族長、ダイナマイトボディの火炎魔術師だ。
果たして今回はどのような相手が待ち受けるのか予測不能だ。山岡の壁新聞もなかった。
「藤井ラジオによる、藤井ラジオの為の、藤井ラジオのオールナイト藤井!」
「ラジオ、頑張って」
姉の照美の声援も、外からでは届くまい。
「はい、それでは本日最初のお葉書は、大原県辺蘇下郡煙蛇村四十槍幡字六ノ九にお住まいの、絶津倫太郎さんから頂きました」
「とんでもない名前だな」
その意味するところを汲み取って和哉は呟く。
「僕はみんなから『悪い奴』と呼ばれますが、自分としては普通のつもりです。一体どうしたら良いのか、実例を交えて教えて下さい。なお、職業は営業マンです」
和哉はこれから何が起こるか予測できなかった。
「それでは聞いてみましょう。おーい、ふつ男!」(注1)
「御用でしょうか?」
「何か面白い商品ない?」
「弊社の商品ラインナップはこちらです。この中からお選び頂ければ、すぐに用意致します」
普通過ぎるだろ、と和哉は苦笑した。
「じゃあ、次、よし男!」
「話は聞かせて頂きました。こちらの商品をどうぞ」
「これ、面白いね!」
聴取者には何が起きているのか不明である。
「じゃあ、最後はわる男!」
「……ふっ」(注2)
「手ぶらで来た上に、笑うだけ?」
「……ふっ」
「ダメだ、こりゃ」(注3)
聞いていた和哉は悶絶する。
「それでは絶津倫太郎さんのリクエストで『もしくは明日が』聞いて下さい」
和哉は気持ちを切り替えようと、流れる歌に意識を漂わせてこれから先のことを朧気に考える。全ての陣営を倒した暁には、何をすれば良いのか。
「見えて来たな」
ジョアンヌの声で和哉は意識を戻した。北方陣営の砦が見えて来る。相手方は既に布陣を終えて彼らの到着を今や遅しと待ち構えていた。
「ジョアンヌ、どう攻める?」
「そうだな、まずは偵察で情報収集が必要だな」
和哉はその案を承諾すると、クリスをジョアンヌに任せ、自らは照美を伴う。
「まずは、兵たちを率いている人物を確認しよう」
「分かりましたですぅ」
照美に敵の司令官を視認させ、その幻影で混乱させようというのが和哉の考えだった。現在も彼らの姿は見えないよう偽装されている。
「あれが司令官のようだな」
白と黒の衣装を纏った女性二人が見えた。白い方が両手に金属製の棒状武器(注4)を握っている。黒い方はヒラヒラとした中国の道士(注5)のような姿だった。
「バッチリ、憶えました」
「では戻るか」
和哉が照美に撤収を促すが、急に彼女の頭を抑え付ける。
「何をするんですか!」
「見つかった。逃げろ」
文句を言おうとした彼女を庇うように、和哉は立ち上がった。既にその手には金属バットが握られている。
「見つかったなら仕方ない、行くぞ!」
和哉は自陣とは逆の方向に進み出る。その彼に向けて黒い少女が物を投げ付けていた。白い少女は金属製の棒状武器を構えて和哉に突撃している。照美は身体が硬直していて逃げ出すこともできない。
「きゃはははははは」
笑いながら迫る白い少女は、両腕の棒状武器を走って来た勢いのまま突き込んで来た。和哉がそれを避けると、狙い澄ましたかのように黒い少女が物を投げ付けて来る。和哉はそれをバットで打ち返した。
「なかなかの連携だな」
前回の高笑いに続いて、再び哄笑する少女の登場に、和哉は内心で嘆息を禁じ得ない。
「私たち」「鉄器川姉妹の攻撃を」「躱すなんて」「「生意気よ」」
少女たちが交互に喋り、最後は唱和する。顔がソックリなので双子なのだろう。和哉は双子ならではの特性(注6)を考えた。
テレパシー能力。
これはその言動からも持っていると思って間違いないだろう。
「きゃはは、隙あり!」
白い少女の鉄鞭が唸りを上げて迫る。
「双鞭連環衝!」
横薙ぎに迫る一撃を躱した和哉に、更に鉄鞭が迫る。少女は腕を横に伸ばして回転していた。
「いやいやいや」
和哉は大きく後ろに退がって独楽のように回る少女の動きに注意を払う。その彼の視界に何かが飛び込んで来た。
「二人いたんだったな」
黒い少女がその袖から物を取り出して投げ付けて来る。
「レイレイ(注7)かよ」
その姿と攻撃方法から、和哉は学生時代に熱中した格闘ゲームを思い出した。
「ちょっと試してみるか」
和哉はニヤリと笑い、バットを頭の横で水平に構えた。目の前で白い少女が目を回してフラフラしている様子を見て、思わず脱力する。
「そういうところをリアルにするって、どうなってんだ、この世界は」
細かいことを気にしたら負け(注8)である。
不意に和哉の横に影が現れる。それは和哉自身の姿をしていた。どうやら照美が幻影を出したと判断して、和哉はバットを構えたまま少し間を置いた。
「なかなかやるようね」「この鉄器川姉妹を手こずらせるとは」
白い少女が立ち直り、双子の姉妹は声を揃える。
「でも」「これで」「「オシマイよ!」
声の想定
・桐下 和哉 鈴木達央さん
・聖女クリス 小林ゆうさん
・ジョアンヌ 河瀬茉希さん
・モリモット 関智一さん
・武藤 龍 玄田哲章さん
・尾藤 大輔 稲田徹さん
・佐藤 竜也 櫻井孝宏さん
・山岡 次郎 下野紘さん
・藤井 照美 伊藤かな恵さん
・藤井 羅二夫 うえだゆうじさん
・佐藤 由貴 芹澤優さん
・ペンテシレイア 日笠陽子さん
・樋口 鞆絵 喜多村英梨さん
・井ノ元 喜久代 丹下桜さん
・尾藤 弥生 沼倉愛美さん
・長野 恵梨香 原由実さん
・白い衣装の少女 竹達彩奈さん
・黒い衣装の少女 悠木碧さん
・ラジオのふつ男 前野智昭さん
・ラジオのよし男 森久保祥太郎さん
・ラジオのわる男 蒼井翔太さん
注1 おーい、ふつ男
フジテレビの番組『欽ドン!良い子悪い子普通の子』で父親役の萩本欽一さんが息子たちを呼ぶコントで発せられる台詞。
注2 ……ふっ
F.E.A.R.副社長の菊池たけしさんが『コンプRPG』誌上で展開していた『超女王様伝説セント★プリンセス』に登場する聖土姫が、こういうキャラクターだった。
聖土姫の場合はその台詞の後に、意図を察した別キャラが代弁するなどして表現していたが、普通に台詞を喋らせるより大変なので、良い子のみんなは真似しないようにしよう。
注3 ダメだ、こりゃ
言わずとしれた「ザ・ドリフターズ」のいかりや長介さんの台詞。
注4 金属製の棒状武器
いわゆる「鞭」と呼ばれる武器。
古代の戦いで使用されるも、鋭利な刃を持つ武器が普及すると姿を消す。
しかし刃物に対する防御力が上がると、それらの鎧の上からでも打撃を与えられる武器として再評価され、使用が再開される。
これは洋の東西を問わない進化の収斂である。
注5 中国の道士
道士というのは道教の教義に従って活動する者をいう。
衣服は、藍色か緋色であり、黒い道服は有り得ない。
注6 双子ならではの特性
双子が主人公の物語では、外見上は見分けが付かず両者が入れ替わるという話が必ずある。
ファンタジー色が強いと、テレパシー能力や合体技などもあって、連携攻撃も多彩だ。
車田正美さんの漫画『聖闘士星矢』では双子座の黄金聖闘士が性格の丸っきり違う双子で物語のキーマンになっていた。
CLAMPさんの漫画『TOKYO BABYLON』では性別の違う双子が主人公で、その性格の違いが物語に奥行きを与えていた。
克☆亜樹さんの漫画『符法師マンダラ伝カラス』では登場する符法師が双子で、どちらかが死亡すると両者の意識が統一されて符法師として覚醒する設定だった。
しかしやはり双子の物語はあだち充さんの漫画『タッチ』にトドメを刺すのかもしれない。あだち充さんの漫画の主人公が全て同じ顔で、編集者も見分けが付かないのは公然の秘密である。
注7 レイレイ
カプコンのコンピューターゲーム『ヴァンパイア・ハンター』に登場する霊幻姉妹の妹。
禁術でキョンシーに変化し、同じく禁術を使って死亡した母親の魂を救う為に闇の存在と闘う。
空中ダッシュや、移動攻撃などの多彩な技で相手を翻弄できるキャラである。
余談ではあるが筆者は「モリガン」を使ってベクタードレインというコマンド投げを多用した。これは気晴らしに訪れた受験生の心を折る技である。
ベクタードレインが発動すると、モリガンは相手を持って空中に浮かび「落ちろー」の掛け声と共に相手の脳天を錐揉みに地面へ叩きつけるのである。
注8 気にしたら負け
そう、全ては気にしたら負け、気にしたら負けなのだ!




