8.神官長とご挨拶
【ジャイアントキリング】
<格上の勝てる見込みのない者を倒した者に与えられる称号。ステータス上位者との戦闘時ステータスにプラス補正がかかる。>
【創造する者】
<今までにないスキルや魔法を世界に生み出した者に与えられる称号。スキルや魔法の創造、発現確定率があがる。>
「覚醒Lv.1」
<効果:ステータスが10倍に強化される。覚醒時間15秒。>
<反動:覚醒時間終了後、LP・MPが0になり、30分間気絶状態になる。気絶回復不可。>
<クールタイム:24時間>
[アクティブスキル]
「連撃Lv.1」
<効果:連続攻撃が可能になる。与える攻撃が連続するほど攻撃威力が増していく。>
[アクティブスキル]
「観察眼Lv.1」
<効果:物事を注意深く観察できる。>
[パッシブスキル]
「足捌きLv.1」
<効果:移動をスムーズにする。>
[パッシブスキル]
なんか色々増えてるなぁ。
MPとLPが0になったために、気絶したのか…。
行動そのものがトリガーになって、スキル化したということなら、スキルや魔法は無限に広がっていくのでは?
「レベル5もあがってる…!」
「そりゃそうだろう、あれだけ無茶すれば」
ユリアンが呆れ顔でこちらを見ている。
私はというと、あれから近くの神殿に運ばれて救護室の一室である個室のベッドの上にいた。
助けた女性がここの神殿の神官長だったらしく、そのまま連れてこられたのだとユリアンが言う。
モンスターのどす黒い返り血を浴びただろう服は、いつの間にやら着替えさせられ、今は麻のシャツに麻のズボンを履いていた。
返り血で汚れた髪などは、神官たちに服を着替えさせられた時に同じく清められたらしい。
0になったMPとLPはポーションで回復しておいたとのこと。
「それにしても、なんでセーフティエリアにモンスターがいたんだ…」
てっきり暴漢の類いと思ってかけつけたら見たことのないモンスターだったため、半ばパニックだった。
「あー、それなんだが、さっきのギルド長に呼びつけられた件と関連してると思う。最近、連続殺人事件が起こってるらしくてな。犯人を探せってクエストが発生した」
「へー」
「それで…どうもこれ、パーティクエらしくてな」
「ん?」
「スイがモンスター倒した後、クエスト進行してた」
とんだ巻き添えクエストである。ステータス確認してみると進行中クエストに、チュートリアル以外に1つ増えていた。
本来なら、パーティで戦闘するはずだったが、私が1人先走って倒してしまったのか。
「うわぁ…ごめん」
「いや。こっちこそ来た早々巻き込んで悪い」
転移で私のもとに飛ぼうとしたら、戦闘が始まってしまったため、合流できなかったらしく謝られた。
転移は戦闘時は使えないらしい。便利なスキルだからこそ使用制限があるようだ。
「強制クエストで、いつ起こるとも分からん殺人事件なんて嫌な話だ。あの人も無事でよかった」
「なんとかなって私も正直ホッとしてる」
「体は大丈夫そうか?」
「特に痛みもないし、30分経てばバッドステータスも特に無いっぽい」
さくさくっとアクティブスキルとパッシブスキルに新しいスキルをセットしておく。
そのタイミングで、トントンと控えめにドアをノックする音とともに声がかけられた。
「どうぞ」
ベッドからひとまず出て軽く身なりを整えてから入室を促す。
「失礼します」
白い布地に灰色の刺繍を施した清廉な神官服に身を包んだ女性が、その長い裾を華麗にさばきながら入ってきた。
モンスターに襲われていた女性だろう。今はあの青白くなっていた面影はなく、その凛とした姿からは想像できないくらいだ。喉元を覆う包帯だけが痛々しい。
ぞろぞろと、後から他の神官が入ってきそうになるのを「そのように大人数ではご迷惑です」「しかし荒くれ者の冒険者風情しかいない部屋におひとりでなど…!」「お下がりなさい」とドアの向こうに押しとどめていた。
「お加減はいかがですか?」
「もう大丈夫だ。世話になって申し訳ない」
「そんな…!私の方こそ、命の危ういところをお助けいただき、本当にありがとうございました」
2人して頭を下げ合った後、近くにあった椅子に座り直して話を続けた。
「改めまして、私、リリアーヌ・フォン・ディールと申します。こちらの神殿では神官長を務めております」
「スイードという。ただの冒険者だ」
ドアの向こうで「神官長に何という口の聞き方を!」とざわめきが聞こえてくるが、無視である。こちらでは敬語を使えないという程で過ごすのだ。
「その首の包帯はあの時に?他にもどこか怪我を?」
「少し…内出血の痕が残ってしまって。しばらくすれば良くなるでしょう。他はかすり傷程度です」
問題ないと微笑むので、正直ホッとした。
「スイード様、こちらで勝手にお召し物を換えさせていただきました。あのままでは休めるものも休めないだろうと…お体も、その、清めの水にて一緒に清めさせていただきました」
頬を染めて報告されたので、なんだか居心地が悪い気になるが、心遣いに感謝すると伝えた。
セクシャル関連OFF機能によってそういった部分は見えない仕様のはずである。それともプレイヤー同士のみに反映されるものなのだろうか?分からん。今後確認するつもりもない。
「新しいお召し物もこちらでご用意致しました。宜しければ、こちらにお着替えくださいませ」
控えていた神官姿の側仕えらしき人が頭を下げて入室して、カゴをそっと置いていく。
中には、差し色に紅色を使ったバーントアンバー色のカソックコートと、質の良さそうな白いシャツ、若草色のズボン、冒険者用ブーツが新しく用意されていた。
「こんなに、貰えない」
受け取ったカゴを返そうとするが、すぐさま押しとどめられた。
「これはほんの感謝の気持ちです。もちろんこれだけで済むとは思っておりませんが…寧ろ受け取って頂かないと『命を助けられたにもかかわらず、あそこの神官長は礼の一つも用意できないのだ』と周りから言われてしまいます」
困ったように頰に手を当て首を傾げる。NOと言わせない言い回しだ。
「では、ありがたく。よいものをありがとう」
苦笑いしつつお礼を言うと、リリアーヌも表情に幾分安堵を混じらせた。
「元のお召し物は調査のために必要だとお聞きしましたのでこちらに」
「それは俺が預かろう」
そう言って、挨拶はとっくに済ませていたのか壁の花になっていたユリアンが側にやってきて、汚れた私の初期装備を受け取る。
「ユリアン様、お聞きしたとおり洗わずにおきましたが宜しいのですね?」
「あぁ、寧ろ洗われては困る。ギルドに報告せねばならないのでな。証拠は多い方がいい」
「それは連続殺人事件の…あれが犯人ということでしょうか?」
「可能性は高いだろう。貴女も事情を聞かれるだろうが、協力願いたい」
「もちろんです。冒険者ギルドへはいつご報告にいかれるのですか?」
「まぁ、早い方がいいだろうな」
チラリと気遣わしげな視線を向けられる。私の準備が出来次第向かう予定なのである。
はいはい。今すぐ着替えますよっと。
「では私もご一緒に。説明は一度で済む方が良いでしょう」
「それは…少し休まれた方がよいのでは?」
ユリアンが気遣う。ドアの向こうでも心配げな雰囲気が漂っている。
「体は問題ありません。1人で冒険者ギルドへ招かれるより、命の恩人のお2人が一緒にいてくださる方が心強いのですが、ご迷惑でしょうか?」
それもそうかと、私も着替えを済ませ、3人で冒険者ギルドへと報告に向かうことになったのであった。
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