2.始まりは噴水広場
サブタイトルの前に何話目か分かるようにしました。
1話目の最後にステータスを追加しました。
ジューンといた所から転送されたのだろう、今は噴水広場に来ている。
ひとまず友人に連絡しよう。
ステータス画面を確認してみると、フレンドリストにはすでに【ユリアン】という名前が上がっていた。そういえばゲームの招待者からの招待コードで連携されるとか書いてあったか。
β版プレイヤーの特典として、1人につき友人を1人招待できるのだと、このゲームに誘われた。名前もユリアンだと聞いているし間違いないだろう。
タップしてユリアンにメッセージを送っておく。
『おまたせ。スイードって名前にした。翡翠色のなっがい髪してる』
さて、後は連絡を待つばかりである。
待っている間、自分の周りを見渡せば、噴水を中心にして円形の広場から十字方向に大通りが繋がっており、その向こうに街並みが見える。通りの突き当たりに外壁と門がうっすらと確認できるところを見ると、街の中心部に噴水広場があるのだろうか。
ポリゴンっぽい感じもない。遠くがボヤけるのも日常のそれと同じだ。
噴水の水に触ればキラキラと水面が光り冷やりと心地よく指の隙間を流れていく。濡れた指がじわじわ乾く感覚まで分かる。
なかなか感動するリアル感。
指先の匂いを嗅いだら少し生臭かったので、そこまで再現せんでも…とも思ったが。
まさか汗臭さまで再現されるのでは…まさか、そんな…………一応気をつけよう。
そういえば噴水広場には屋台が出ていて、香ばしくて美味しそうな匂いがただよっている。どうも焼き鳥っぽい。
匂い嗅いでたらお腹空いてきたな〜、ん、ってことはお腹が空く仕様ってことか?
匂いもそうだが、お腹の空き具合もリアルだ。お腹まで鳴りそうな気がする。
ガヤガヤとした話し声のような判断のつかない音を感じたので、噴水の周りを見れば、3〜6人のほどの集まりがそこかしこに出来上がっていた。
話の内容が聞こえないのは、パーティ内会話でもしているのだろう。
なんだか高価そうな装備を着ている人もいれば、私と同じ初期装備な人もいる。β版プレイヤーたちが新規プレイヤーを迎えにきたのだろうか?
自分たちも待ち合わせがここであるのだから、考えることは同じようだ。
ちなみに初期装備は、麻のような素材の貫頭衣に短めのズボンで、腰に布を巻きつけて縛っただけという簡易なもの。男女性別に関わらず同じものを身につけるので、例えグラマラスな体型の人であっても全てを覆うだろう安心感がある形になっている。
足元は素足にシンプルな編み上げのサンダルで、走ってもすっぽ抜けることはないだろう。
「ねーねー、君!異邦人だよね?よかったら案内するから一緒にパーティ組まない?」
大きな紅い目をした薄桃色のふわふわとしたマッシュルームカットの少女が声をかけてきた。白いうさ耳がピコピコ動いている。兎の獣人だろうか?
紅色のエプロンドレスは短めで、裾からは大きなかぼちゃパンツがのぞいている。縦縞ハイソにブラウンのブーツで、動きやすそうだなと思った。
目が合っているところをみると、自分に声がかけられたようだ。
「友人と待ち合わせしているので、遠慮しておく」
「おー!イイ声!ってか男の人なんだね!ちょっとどっちか分からなかったんだ〜まぁどっちでもいいんだけど!お兄さんすっごいタイプなんで!」
勢いがすごいな…ちょっと引いた。
「あ!ナンパとかじゃないよ?!いやナンパといえばナンパになるのか…いやでもそういうことじゃなくてね!」
あたふたする姿は小動物のようで微笑ましいのだが…さて、どうしたものだろうか。
ジッと眺めていると目の前の少女は落ち着いてきたようで。
「突然ごめんね?僕はシーリー!見ての通り兎の獣人、あっ、僕一応男だからね!」
少女ではなく少年でしたか。
シーリーは服飾ギルドのお針子さん兼デザイナー見習いだそうで、服は趣味と実益を兼ねた自作なのだと言う。
新しい異邦人(新規プレイヤー)がここに集まってくると聞いて、創作意欲が湧きそうな人物にツバをつけ…スカウトしに来たそうだ。
異邦人には美形の人物や見た目にお金をかける人が多く、冒険者になって素材採取もしてくれるため、最初に仲良くなっておこうと思ったらしい。
なるほど、賢い。
だいぶチャレンジャーな気もするが。
異邦人たちを見て、やっぱり1人で話しかけるのは危険かと思い直していたところ、私が現れたのだと言う。
「紅い目をしてるからなんか嬉しくて。君1人だったし」
怖くなさそうだし、自分と同じ色をした目を見て親近感が湧いたのだと本当に嬉しそうに笑った。
「そうか」
私は私でキャラクリが褒められたようで嬉しかったりした。思わず顔が綻ぶのを感じる。頑張った甲斐があります。
「あー!何それ!反則!!!」
「ん?」
何が?
うあ〜〜とかなんとか言いながら、突然うさ耳を伏せるように頭をかかえたかと思うと、意を決したように顔を上げて、今度はうさ耳がピーンと伸びている。耳って表情(?)豊かだな。
「これ!」
こちらに片手の拳を突き出して言う。
「お近づきの印にこれあげる!いつでもいいから時間が空いたら会いに来てよ!」
「え、ちょ…」
「服飾ギルドにいるから!待ってるからね!絶対来てね!」
返事をする間もなく、アイテムを渡されて(押し付けられ?)彼は脱兎の如く去っていった。兎の獣人だけに。
というか、私は自己紹介すらしてないのだが、スカウトしにきてそれでいいのかシーリー!
呼び止めようにも最早後ろ姿さえ見えない。それにしても走るの早くないか?
……仕方ない。生産職も気になるし、服飾ギルドには後で立ち寄ろう。
つやつやとして肌触りのよい紅い組紐を眺めながらそう思った。
【シーリーの紅い組紐】
〈魔力で紅く染められた綿糸を組み上げた紐。手足に括りつけたり、髪を縛ったりもできる。製作者:シーリー〉
[素早さ+3]
[耐久制限無し]※魔力のある者が身につけていれば劣化しない
[譲渡不可]
お読みいただきありがとうございます!