第7話 ブラックホーク
最初の嵐から2分が経過した。
現在ミニガンは銃芯冷却のためになりを潜めている。
一時的な休息の時間、秋菜は水を飲みながら考えていた。
遮蔽物は無くなってしまったのだ。
ミニガンの射撃速度の前では老朽化した建物の壁では防ぎきれない。
既に壁には無数の穴が空き、次の嵐では使い物にならないのは明白だった。
対空ミサイルも持っていないためブラックホークの撃墜は不可能だ。
隊員たちの進言があったのに『ただ調査に行くだけだから必要無い』と言ったため持ってこなかったスティンガー地対空ミサイル。
あの言葉を言った自分を殺したくなった。
隊員の1人が死んだのは自分のせいだ。
スティンガーを持って来ていれば、ブラックホークを撃墜出来て、隊員が死ぬ事も無かった。
自分のせいだ。
しかし、そのような事を考えても仕方が無い。
過ぎ去った時間を戻す事は出来ないのだから。
秋菜はまずミニガンを無力化する方法を考え始めた。
ブラックホーク撃墜は不可能でも、ミニガン単体の撃破は可能だと思ったからだ。
ミニガンを無力化する方法は幾つかある。
まず、銃口に小銃弾を叩き込みミニガンの弾薬に誘爆させるもの。
しかし、銃口は小さいため小銃弾が入る可能性は低い。
次に、ミニガンのバッテリーパックを破壊する方法。
ミニガンは作動のためにかなりの電力を必要とする。
その電力源であるバッテリーパックを破壊すれば使用は不可能だ。
だが、そのバッテリーパックが何処にあるかが分からない。
最後はガンナーの狙撃。
簡単に見えるが、一番難しい。
まず、スコープ付の小銃が1つも無い事。
スコープが無ければ狙撃は難しい。
そして、ガンナーは機内の他の人間が務める可能性があることだ。
つまり、1人倒しても他の人間が出てくるのだ。
ガンナーが代わって居場所がばれれば終わりだと言うことだ。
ここで、一つの方法を思い出した。
ブラックホークの撃墜は不可能だと思っていたが、一つだけ撃墜する方法がある。
それは、ローターの破壊だ。
ローターを破壊すればヘリは飛ぶことが出来ない。
軍用ヘリだと言うこともあって、ローターは何発かの銃弾の直撃に耐えうるようになっているが、全方向からの射撃には耐えられないだろう。
それに、ブラックホークがいる場所は超低空で、銃弾の威力が弱まる前に着弾する。
ただ、本当に撃墜出来るか分からない。
この小銃にはグレネードランチャーは装備されていない。
もしもグレネードランチャーがあれば全ての作戦を同時に行う事が出来た。
持って来なかったばかりに、こんな事になってしまった。
「皆。よく聞いて。これから私たちはブラックホークを撃墜するわ。私の合図と同時に全ての火器をブラックホークのローター部分に集中させるの。本当に撃墜出来るかは分からないけれど、なんとか撃墜しないと私たちは全員蜂の巣にされる。いまからブラックホークを狙える場所に向かって。出来れば下と上から同時に攻撃をかけれればいいんだけど、上昇されたら終わりだから、どこでもいいわ。それぞれ連絡を取り合って十字砲火になるように調整して。以上、通信終わり」
秋菜は無線機を手にとって隊内用の周波数に合わせた後、隊員たちに命令を下した。
それから30秒後、配置完了の通信が入った。
後はブラックホークがやってくるのを待つだけだ。
ブラックホークの機体は見えているが、中々こちらに来る様子が無い。
再配置の命令を下そうとしたその時、ブラックホークがこちらに向かって来るのが見える。
爆音を響かせながら、秋菜たちが待伏せている場所へ……入った。
「射撃開始! 弾切れまで撃ちまくって!」
秋菜も小銃を構えると、セレクターレバーをフルオートに合わせて引き金を思い切り引いた。
物凄い反動と共に89式小銃の5.56ミリ弾が発射されていく。
他の隊員たちも一斉に射撃を開始し、ブラックホークのローターに大量の銃弾が着弾する。
ブラックホークの操縦士が慌てたのか、ブラックホークは右へ左へ極端な振動を始めた。
そのせいでミニガンも照準を合わせられずに発射不能となって戦闘能力を失った。
残ったのは死にかけの黒い鷹。
秋菜たちは更に銃火を多くするが、止めを刺したのは秋菜たちでは無かった。
スティンガーミサイルだ。
ブラックホークはコントロールを失って大きく後退しながらかつて病院だった廃墟に墜落した。
その上からやって来たのは『海上自衛隊』の文字と日の丸が描かれた白い機体、SH-60K・シーホークだった。
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