第5話 軍艦島
「完全に廃墟になってるわね……」
秋菜は5人の供を連れて軍艦島に上陸していた。
今回は秋菜が言い出した事のため、上陸グループの隊長に選ばれたのだ。
軍艦島は廃坑になった炭鉱で、1970年代まで人が住んでいたが、それからは殆ど人が入っておらず、建物も大半が老朽化しているため、上陸禁止措置が取られている。
また、あまり大きな島でも無いため本当ならむらさめ型護衛艦のあるポイントまで船で行く予定だったのだが、何故か目撃ポイントに存在せず、と言うより軍艦島周辺にも存在しなかった。
とは言っても、写真があるため最近まで停泊していた事は間違い無かった。
何らかの理由で他の場所に移動した可能性があると考え、一度上陸してみる事になったのだ。
罠だった場合に備え、上陸グループは全員完全武装で軽機関銃まで持って来ていた。
しかし、1番の問題はそんな事では無く、老朽化し、今にも倒壊しそうな建造物であった。
小さな島に最盛期は5000人を越える人間が住んでおり、最盛期の人口密度は東京の9倍だったのだから、建造物も密集していて、倒壊すれば逃げ場は全く無かったのだ。
「隊長。これを見て下さい」
廃墟化したアパートを捜索している最中、隊員が秋菜を呼んだ。
「何か見つけたの?」
「はい。どうやら日記のようです。それもかなり最近の物と思われます」
隊員は秋菜にその日記を手渡す。
確かに、埃も殆ど被っておらず、つい最近の物であることは間違いなかった。
秋菜は日記を受け取ると、パラパラとめくり始めた。
一通り読み終わると隊員に日記を返しながら言った。
「どうやら、幹部自衛官が書いた日記みたいね。3日前に目的の護衛艦は出発したみたい」
その日記は元海上自衛隊3佐が書いた物で、停泊していたのはむらさめ型護衛艦4番艦・きりさめだった事が判明した。
そして、自衛隊解体後、色々な造船業者の手を借りながら元自衛官(乗組員)たちで保守管理を行っていたらしい。
幾度か海上保安庁によって船が捕捉されて、青森、佐渡島、隠岐、境とあちこちを転々として、この島に行き着いたらしい。
また、日記の最後には『3日後に国家公安委員会特殊作戦部隊がこの島にやってくるらしい』と書かれており、その特殊作戦部隊から逃げるためにどこかへ行った可能性が高くなった。
そして、ここで重大な問題が発生した。
「どうしよう……今日だよ。日記の3日後って……」
そう。この日記に書かれた日付は今日から3日前。
つまり、この特殊作戦部隊が来るのは今日なのである。
このままでは自分達が捕まえられてしまう。
秋菜は即刻撤退を決意した。
早くしなければそれだけ捕まる可能性は高くなる。
だから、急いで撤退しなければならない。
「こちら上陸部隊。非常事態発生。本日この島に公安委員会の特殊部隊上陸の可能性あり。至急船を回されたし」
秋菜は無線機を手に取るとかなり速い声でそう言った。
直後に無線機からノイズ混じりの声が聞こえてきた。
『こちら船上部隊。船を回せない。現在本船は海上保安庁の巡視艇による攻撃を受けている。遠慮なく射撃して来るせいでかわすのが精一杯だ。ミサイルもスピードが速いせいで撃てない。一応本部へと連絡を取るが、最低でも30分はかかる。次の連絡まで待機されたし』
秋菜は無線機を切った後、隊員たちに言った。
「これから島の西岸に向かうわ。もしも西岸に到着して30分以上が経過すれば泳いで本土(九州)まで向かうわ。海保がいると言うことは公安の特殊作戦部隊とか言う奴らも近づいているはず……」
そう言っているうちに遠くからヘリコプターのローターが回転する音が聞こえてきた。
「日記を持って、急いで西岸まで向かうわよ! 銃に弾を装填して!」
秋菜が叫ぶと、隊員たちは小銃や機関銃を取り出して弾薬を装填した。
全員が銃を用意したのを見ると、秋菜は西へと駆け出した。
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