第4話 救国連合緊急総会
「やはり、中国軍の到着と同時に決起するのがいいのでは?」
「いや、それでは全滅は目に見えている。暫く潜伏し続け、米露の支援を取り付けてから決起するべきだろう」
「それでは手遅れだ。その間に中国は日本を対米の前線基地にしている」
「かと言って、今決起するのは時期尚早だろう。まだ武器や兵員の準備が出来ていない」
「しかし、3ヶ月もあれば日本は中国に併合され、天皇陛下は処刑されてしまう」
会議は紛糾していた。
中国軍の兵員規模が不鮮明な上に突然の安保締結だったため、『救国連合』の足並みは乱れていた。
即座に行動を起こして総理大臣以下閣僚を抹殺すべしと言う意見、暫く潜伏して米露の支援を取り付けてから中国排斥を行うべきと言う意見で対立し、会議の行方は全く分からなくなっていた。
どちらの意見も正論だったからだ。
今すぐに動けばまだ間に合うが、潜伏した後に動けばその時点で手遅れになっている可能性は高い。
しかし、現在、武器は小火器しかなく、兵員の数も少ないため、すぐに動けば全滅する可能性は高い。
反面、米露の支援を受ける事が出来れば戦車さえもを入手出来る可能性がある。
非常に難しい問題だった。
武器を手に入れても手遅れの可能性があり、今すぐ動けば全滅する可能性が高い。
これでは決まる訳が無い。
と、ここで、これまで沈黙を守っていた『救国連合』創設者であり、『救国連合』最高齢(78才)の赤井直茂が口を開いた。
「一つだけ方法がある。動かず、潜伏するよりも行動的で、全滅する危険性が低い方法が、な」
「「それは一体?」」
双方から疑問の声が上がった。
「ゲリラ戦じゃ。あの方法を使えば、被害を最小限に抑えつつ、米露の支援を待つ事が出来る。最大にして最悪の問題は、民間人に被害がでることじゃが」
確かにゲリラ戦は効果的かつ兵員への被害が少ない。
しかし、ゲリラ掃討戦を発動された場合、周辺住民が皆殺しにされる。
それは最悪だ。
『右翼団体憎し』の風潮になった場合、国民を敵に回してしまう。
マスコミは率先して煽るだろうし、遺族は怒る。
そのような事になった場合支援者は減り、『救国連合』は消滅してしまう。それは絶対に避けたかった。
「私は支持します」
ここで、秋菜が爆弾発言を投下した。
『救国連合』の殆どの理事はゲリラ戦術を取りたく無いと考えている。
そもそも秋菜は緊急総会発動権限を持っておらず理事のポストでも無い。
嘉弘の副官として出席しているため発言権すら無かった。「発言権も持っていない小娘風情が発言しようと……」
理事の一人が声をあげようとした所を直茂が遮った。
「いや、よい。どう言う事かね?」
その言葉に、秋菜は自信満々の顔になりながら言った。
「地上でのゲリラ戦には私も反対です。中国軍が日本人に対して手加減するとは思えませんから。ですが、自衛隊が存在した頃、最も強力なのは一体何処でしたか? 海上自衛隊です。航空自衛隊も十分強力でしたが、海上自衛隊はその上をいっています。私は、海でのゲリラ戦を提案します」
「海でのゲリラ戦? 海賊と言うことか?」
別の理事が尋ねた。
「いいえ。そうでは無く、入港しようとする中国軍艦艇を片っ端から撃沈するのです」
「撃沈? どうやって撃沈するのだ。我々は小型のクルーザー位しか持っていないぞ」
『救国連合』は殆ど水上戦闘能力を保持していなかった。
艦艇は維持費がかさむ上に本体価格も高いからだ。
とてもでは無いが中国の艦を撃沈出来る程の戦力は持てない。
「私の知り合いが最近、長崎県にある軍艦島の沖側でむらさめ型護衛艦が1隻放置されているのを見たそうです。怪しいと思って近付いて見れば、海自の制服を着た人がなにやらよく分からない作業をしていたと言っていました。それを使えば、東京湾付近での待ち伏せ攻撃が可能になると思われます」これには理事たちも息を飲んだ。
これまで廃棄されたのか解体されたのかすら分からなかった海自の艦船の在りかが判明したのだから。
理事たちは顔を見合わせ、頷くと、直茂が代表して言った。
「これからの作戦の最重要目標は長崎県端島(軍艦島の正式名称)に放置されたと思われるむらさめ型護衛艦の接収、又は戦力化である。総会はこれにて終了。次回総会は10日後の午後2時より」
そう言うと直茂は会議室を出ていった。
それとほぼ同時に他の理事たちも立ち上がり、会釈した後会議室を後にした。