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第一章 崩壊 第1話 武器廃棄施設

西暦二○一二年五月二十七日午後十一時。


雨が降る中、長野県と群馬県の県境沿いに位置する山、浅間山の麓にある森に三十人前後の男たちがいた。


「ここが、その?」

彼らの中で一際の異彩を奏でる少女が小さな声で隣にいる中年の男に尋ねる。

「ああ。ここが、自衛隊の武器廃棄場だ」

中年の男は確かにここだ、と確認し、少女に言った。

彼らがいる場所は、3ヶ月前に完全解体された、自衛隊の兵器廃棄施設の外壁だったのだ。


4年前の総選挙で大勝利を収めた民進党は、経済対策こそ真面目に行ったが、外交、防衛、治安維持には全くの無関心で、『外国人参政権付与法案』と言う国家運営外国人委任法案や、『人権擁護法案』と言う人権擁護とは名ばかりの、人権の美名による言論弾圧法案を成立させたばかりか、自衛隊の解体までもを行ったのである。

それらは全て、中国の支援を受け、中国に忠誠を誓った『平和市民団体』の望みである、『日本崩壊』計画の最終段階であった。

民進党の議員の六割は『平和市民団体』の構成員かその支持者であった。

残りの四割も六割の議員たちに洗脳され、中国のスパイと成り下がった。

そして、人権擁護法が施行されると同時に保守・右翼団体の一斉摘発が始まった。

人権擁護法による摘発は警察の管轄外であり、人権擁護委員会と呼ばれる組織の独断で摘発が行われる。

また、人権擁護委員会は民間人への委託さえもが可能であり、この場合『平和市民団体』へ委託された。

これによって人権擁護委員会と言う第4の権力による保守・民族的言論が弾圧される事となる。

保守系識者はその殆どが逮捕され、監獄に繋がれた。

ネット上での言論も統制が開始され、掲示板での自由な議論の場さえもが奪われた。

しかし、マスコミの統制された偏向報道によってほとんどの国民は人権擁護法が良い法律だと誤解したのである。

保守・右翼団体は殆どが地に潜り、一部は言論を革新的・左翼的な物に変更して『平和市民団体』の偵察と監視を行った。

そして、この日彼らは『日本奪還』のための武器調達にこの浅間山まで赴いたのである。

そしてあの少女は武器調達実行部隊の副隊長、吉野秋菜その人であった。

容姿が子供なのでとても活動家には見えない、とよく言われるが、実際は強烈な反共主義者で、小学生の頃から過激な発言を繰り返しては教師の顰蹙を買っていたと言う経歴の持ち主である。

ちなみに中年の男の方は武器調達実行部隊の隊長にして保守・右翼団体『日本愛国者連合議会』の議長である高橋嘉弘だ。

こちらも四十二歳で組織を纏めているのだからかなりの大物である。


彼らの目的は、自衛隊武器廃棄施設に潜入し、発見されずに武器弾薬を持ち帰ることだ。

その際に最大の脅威、問題点となるのは施設内部に大量設置された監視カメラである。

カメラと、高圧電流柵をかい潜るために講じた策。

それは雷雨の夜に落雷を装って停電させることだった。

雷雨の日なら停電しても雷が落ちたと思わせる事が出来る。

真夜中ならば警備は少ないし『落雷』の目撃者が出る可能性は低い。

しかし、これでもまだ一つだけ問題があった。

廃棄施設には自家発電装置が存在する事だ。

自家発電装置が動き始めるのは停電から丁度十五分後。それまでに施設に潜入し、武器弾薬を外に運び出さなければならない。

トラックで搬入口から侵入する予定だが、搬入口付近には十数個の監視カメラが設置されており、一瞬でも脱出が遅れた場合確実にトラックのナンバーが記録されてしまう。そもそも、この施設に誰かが侵入したと言うことがばれるだけでも致命的なのである。

失敗は即、命取りとなる。

そのため、武器調達実行部隊の殆どは元自衛隊員、それも特殊作戦群や第一空挺部隊などの精鋭で固められている。『落雷』の実行部隊は電気の専門家やエンジニアで構成された。

これが失敗すれば、その後の計画は全て頓挫してしまうのだ。だからこそ、万全の態勢かつベストな日時を選択し、出来る限り失敗の可能性を下げたのである。


彼らは武器の奪取が犯罪だと知っている。

彼らに罪悪感が無い訳ではない。

しかし、手段を選べる状況では無かったのだ。愛する祖国を守るために。


捕まる訳にもいかない。

捕まれば芋づる式に他の活動家にまで危害が及ぶ。

そうなれば、もはやこの理不尽かつ不自由な状況を打開しようとする人間は消え去り、日本は中国の属国……いや、直轄領となる。

中国の直轄領となる事を防ぐには力が必要だった。

言論はもはや打ち捨てられた。

残るものは、自然が生み出した力のみ。

この状況を打開するために、あらゆる方法を使う必要があったのだ。

彼らは最初に集った時に決めていた。

日本が正常な姿に戻った時、それまで行って来た非合法的手段の罰を受ける、と。

それが法治国家としてのあるべき姿だと。



そして、覚悟を決めた人間による、最期の抵抗が始まる。



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