第β1話 日本国内閣総理大臣
αは味方側での視点変更、βは敵側への視点変更です。
「総理! 緊急事態が発生しました!」
話は少し戻って、秋菜たちが脱出を開始する4時間前、すなわち爆破開始から1時間後、時の総理大臣である大西和昭の私室に一人の男が飛び込んで来た。
「どうした?」
男の名は平野則和、総理の主席秘書官である。
則和は蒼白な顔で言った。
「少し前に入った情報ですが、横須賀、九十九里に上陸した人民解放軍が正体不明の武装組織によって攻撃を受けているようです。恐らく、右翼の連中でしょう。武装組織はかなりの弾薬を所持していると見られ、遠隔起爆式の爆弾や地雷などが多数設置されております。共和国政府(中華人民共和国)からはお怒りの連絡が……」
その言葉に和昭の顔色は目に見えて青色に変わり、テーブルに置かれていた灰皿を地面にたたき付けた。
「公安と警察、治安維持軍、全て使って、その団体を捜せ。そして、構成員を一人残さず殺し尽くせ。共和国の機嫌を取らなければ、私が殺される。それで、被害は?」
もしもそれが100人を越えていれば、確実に殺される。
恐怖に震える声で目の前にいる秘書官に聞いた。
「具体的な被害は不明ですが、最低でも300人以上が死傷している模様です」
和昭の思考は停止した。
終わりだ。
犯人を捕まえて処刑しても共和国の怒りは収まらないだろう。
きっと、和昭の命を求めて来る。
それは駄目だ。
自分の命を永らえ、富を築くために国を売り渡したのだ。
殺されれば本末転倒である。
どうすればいい?
自分はまだ死にたく無い。
そもそも、右翼の馬鹿がやらかした事を何故自分が償わなければならないのだ?
そのような事、ふざけている。
自分とは関係ない。
そう、関係ないのだ。
「くそ! くそ、くそ、くそぉ! 右翼の糞どもめ……やってくれたな!」
和昭は頭を抱えながら、窓際に向かい、やり場の無い怒りを窓ガラスにたたき付けた。
そして、あることを思い付いた。
捕まえた犯人を中国に送ればいい。
交換条件として自分の命を助けてくれ、と言えば恐らく大丈夫だろう。
右翼などと言う異端者は、中国で惨たらしく殺されればいい。
そうだ、そうに決まっている。
それを思い付くと、捕まってもいないのに気分が高揚し、中国軍の出迎えに行こう、などと思い立った。
「平野。ヘリの用意をしろ。九十九里の人民解放軍の司令官に会いに行く」
「は? 九十九里は現在戦場です。のこのことヘリで出て行けば、右翼の連中の恰好の標的です。どうか、思い止まって下さい」
「ふん。右翼の連中がどうした。どうせ旧式のボロ装備ばかりだろうよ。そもそも、人民解放軍が守ってくれるに決まっているでは無いか。私は中国にとって、最重要人物なのだからな」
そう言うと和昭はヘリの手配を強行した。
それが最悪の選択だった事も気づかずに。
ヘリの準備が出来たのはそれから2時間後だった。
和昭は則和を帯同して政府専用ヘリに乗り込んだ。
扉が閉められるのとほぼ同時にヘリは空へと舞い上がる。50分もあれば九十九里に到着する。
操縦士は海から迂回するルートを提案したが、和昭が最短距離での飛行を主張したため戦場の真上を通るルートとなってしまったのだ。
50分が過ぎ、もうもうと黒煙を巻き上げる九十九里が見下ろせる位置まで到達した。
その光景に和昭は息を飲む。
この様子では、死傷者は1000人を越えていてもおかしく無い。
それでは許して貰える可能性は限りなく低い。
ヘリはまっすぐに進んで行き、急旋回した。
「な、危ないじゃ無いか!」
和昭が操縦士を怒鳴りつける。
操縦士は青ざめた顔で言った。
「当機はミサイルにロックオンされています。このままでは、撃墜されてしまいます」
「な……っ!」
和昭、いや、このヘリに乗っている全ての人間の思考が停止した。
少しの間を空けて和昭が叫んだ。
「戻れ! 戻るんだ!」
和昭の言葉に操縦士は頷き、再度の急旋回を行った。
しかし、このヘリは所詮民生品、軍用ヘリのように無茶な挙動は出来なかった。
旋回に手間取っている間に、浜から少し離れたコンビニから白煙を吹き出す『何か』が射出される。
それが何であるか分かった操縦士は顔面蒼白になりながらも必死でヘリを旋回させていく。
しかし、命中精度世界最高とも言われるスティンガー携帯地対空ミサイルを振り切る事は出来ず、メインローターが吹き飛ばされ、コントロールを失ったヘリは総理らと共に道路へと墜落、大爆発を起こした。
勿論、和昭ら乗組員の体は粉々に吹き飛ばされていた。
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