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第11話 中国軍上陸前夜1

秋菜が目覚めた場所は『救国連合』本部にある病室だった。

起き上がろうとすると身体中が激しく痛む。

その時、横から声がかかった。

「起きては駄目よ。貴方は最近働きすぎだわ。使命感に燃えるのは結構だけど、自分の身体とも相談しないと」

秋菜が声の方向に頭を向けると、そこにいたのは白衣に身を包んだ20代後半と思しき女性だった。

秋菜はその女性と幾度か話した事がある。

彼女の名前は秋月加奈子。

防衛医科大学校の首席卒業生であり、現在は『救国連合』の衛生部隊隊長を務めている人物だ。

そして、秋菜にとっては命の恩人でもある。

「ですが、このままでは本当に日本はこの世の地獄となってしまいます。それを防ぐことが出来るなら、私の身体がどうなろうと問題ありません。そもそも人手不足なのですから、私は他の方に比べればまともに仕事を出来ていません。軍艦島でのおおっぴらで派手な銃撃戦や救出作戦での不手際、この頃私は失敗ばかりです」

秋菜の言葉に加奈子は大袈裟な溜め息をついた。

「それは失敗では無くてミスって言うの。それに軍艦島の一件はそもそも想定外の事よ。それと、残念ながら日本がこの世の地獄になるのは避けられないわ」

加奈子はリモコンを掴むと、病室にある液晶テレビの電源を入れた。

そこに写し出されたのは中国の急造輸送船の大群だった。そして、画面右横のテロップには『中国軍、明日昼にも横須賀上陸か』と書かれている。

秋菜は息を飲んだ。

これだけの大船団なら最低でも8万人の兵士を積載しているだろう。

上陸されたら自分達に勝ち目は無い。

「分かったでしょ? 彼らの目的は陛下……と言うより皇室の血を途絶えさせること。今工作部隊が横須賀港付近に大量の地雷や爆薬を敷き詰めてるけど、3000人殺すのが限度でしょうね。つまり、上陸を許した時点で日本は崩壊する。しかし、私たちには輸送船を撃沈する術が無い。『きりさめ』もミサイルの弾数制限があるし、主砲射程内に輸送船を入れようとすれば相手のレーダーに引っ掛かり、ミサイルの飽和攻撃にて撃沈される。つまり打つ手はもう殆ど無いわ。諜報部隊が陛下をここまで連れて来るとは言っていたけど、そもそも皇居に入れるかすら分からない。それでもまだ抵抗するならば一つだけ方法があるけどね」

秋菜は加奈子が何を言いたいのかを悟った。

かつて却下されたゲリラ戦だ。

あれを使わなければもはや勝機はゼロ。

そう言いたいのだろう。

日本を崩壊させないためには、ヒューマニズムや情は捨て去れ。

この事態を招いたのは無知な日本国民自身なのだから。

加奈子の目はそう語っていた。

そして、どちらにせよ取るべき方法など一つしか残っていない。

秋菜は『きりさめ』を味方に引き入れた功績として『救国連合』の12番目の理事となっていた。

発言権も持っているため、前のように扱われる事は無い。

「行って来ます」

加奈子に言うと、秋菜はベッドから降り、立ち上がった。

またも激痛が走ったが、それも何処か遠い物に感じた。

「待ちなさい。貴方はまだ絶対安静よ。右大腿骨はひびが入っているし、肋骨も一部破損、そもそも筋肉痛の究極版でまともに動ける訳が無いでしょうが」

加奈子の言葉をまともに聞く事は無く、秋菜は病室の扉を閉めた。

向かう場所は『救国連合』本部最下層にある会議場だ。

秋菜は思った。

自分達が抵抗を続けている限り、日本は崩壊しない。

本当の崩壊は全ての抵抗勢力の剣が折れた時だ、と。



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