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魔剣戦記 序  作者: せの あすか
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8月22日 山中の廃墟 2

夜の廃墟。既に夜は更けていたし月もないのだが、かまどの煙がはっきりと形を成す。

それほどに星が明るい。


ここも少し前までは魔物の巣窟だったらしいが、今は屋根も崩れた建物ばかりで魔物も居心地が悪くなったのか、ガーゴイル以降は何も出ていない。




報酬を考えると楽な仕事だったと言えなくもないが、かと言ってやはり誰にでも出来る仕事ではない。


こういう時に馬鹿正直に「楽だった」などと報告してしまうと、今後の報酬に影響があるし、次回実力のない奴らが請け負って今度はドラゴンが出て全滅しました、と言うことにもなり兼ねない。

ダリは今回、出来るだけ大袈裟に道中の苦労を報告するつもりだった。

そう言う駆け引きも、彼は難なくこなす。




ユリース達は、いつ崩れるかわからない建物の中は避け、街の外れにあった大木と城壁の窪みに厚手の布を貼って即席の屋根とし、そこで寝ることにした。

少し離して石積みの、こちらも即席の竃を作り、火を起こしてある。




「うひゃーひさしぶりだな、このマズさ!」


食事は干し肉と干した穀物を湯で戻した簡素なもの。

普段から味にはうるさくない・・・ビッキーに言わせれば「味音痴」 のユリースには全く苦にならないが、他のメンバーにはなかなかにつらいようだ。


思い思いに悪態をつきながら、味気ない食事をさっさと終える。




ユリースが茂みから何やらつたのようなものを取ってきて、おもむろに齧る。


「なんだそれは?」

とクラウ。


「蛇舌草っていう草。栄養がある。穀物と肉だけでは体が動かないから。」



「へえ。おもしれえな、少しくれよ」


顔を伏せて笑いをこらえるビッキー。


ユリースが葉の棘を取り除いてクラウに渡す。


クラウは豪快に蛇舌草の葉を口に入れ、噛む。





もぐもぐと動いていた口が歪む。




「・・・・・・・ぐぇっ!!???なんだこれ!

苦い・・辛い??・・・おええええ」




「ぷっ」


ビッキーが吹き出す。


「ばあちゃんがこれ体にいいから食べろってよく言ってたなあ。懐かしいよ。

未だに食ってるやついるんだなあ」


ニヤニヤしながらビッキーが珍しく自分の話をした。




「食事は身体を作る材料だから。

これを食べとくと集中力もあがるし持久力もあがる。

食べて損は無い。」


ユリースはもう一つクラウに差し出す。


「いや・・・もういいです。」


「ぶははははは」




ビッキーはおかしくて堪らない顔で、ユリースに言う。


「あんたの味音痴、なかなか筋金入りだねえ!

そうだ、あんたこのパーティの料理番やるかい?

無敵のパーティになれるよ??」


「勘弁してくれ!おれは抜けるぞ!!」


これにはダリも腹を抱えて笑う。



カールは考え事をしていたようで、うるさそうに顔をしかめた。





ユリースにはなぜ皆が笑うのかがわからない。


食は武の基本だ。

体の材料が良ければ思うように体が動く。

頭で考えた通りに体が動かなければ、それだけ負ける要素が増える。

だから、必要なものを食べる。

それだけだ。


不思議そうな顔で、皆の会話がどう流れるのか眺めていた。








「さすがにちょっと疲れたな。ドラゴンが居なかっただけマシだけど。」


ダリが伸びをする。


「ああ。もう朝までは大丈夫だとは思うが見張りは立てといたほうがいいな。」


幸いドラゴンは夜活動する事が少ない。

こんな時むしろ怖いのは盗賊だが、近くで名を挙げていた有名どころは、全部ユリースが捕まえてしまった。

街道沿いが安全になったことでペ・ロウの街の人々は喜び、ユリースを「戦姫」などと讃えるようになっていた。




ユリースは炎に自分の手をかざす。手の甲の跡が目に入る。


「気になるか。」


クラウが酒瓶を渡す。


「うん。やっぱりこれ何かの武器かなって。

こんな跡が付くまでまで使い込んであるんなら、手に入れられれば今使ってるやつよりずっと上手く使いこなせるんじゃないかな。」


酒瓶には口をつけず、そのまま返す。


「フフフ。おまえ戦闘はそんなに好きじゃないっつってたのに、武器の扱いは大好きなんだな。

まあわからないでもないがな。


・・・戻ったらそういう跡がつく武器が実際にあんのか、探してみるよ。」



クラウはそう言いながらドワーフの火酒をあおって、咳き込む。

火をつければ激しく燃える事で有名なやつだ。


よくあんな物を飲む、とユリースは思った。




クラウにそんな話をした事は忘れていたが、確かにユリースは戦闘、特に人との戦闘があまり好きではない。

人を傷つけたいとは思わないのに、戦えば必ず傷つけてしまうから。


武器を上手く扱いたい、というのはまた別の話。

体と武器を一体化して思うように動かすは、この上ない楽しみだった。




「それなら、いい考えがある。」


ダリ。


「今回の依頼主さ、武器鍛冶ギルドの長なんだよな。

石を洗って引き渡すのは専門のヤツらに任せようと思ってたんだけど、引き渡しまでおれらで請け負っちまえば、その長に会える。

武器については誰より詳しいんじゃないか?

もちろん洗う作業と引き渡し分の報酬は多少なり上乗せされるしな。

戻ったら話してみるよ。」



「いいね。私もどうせならたくさん稼ぎたいし。

明日の朝もう少し石さがそうよ。

馬車だけじゃなくてクラウにも持たせればいい!」


「ちょっとまてよ荷馬扱いかよ!」


「あんたを置き去りにして馬をもう一頭連れてきた方がまだマシだったよ!

少なくとも文句を垂れないからね!」


「山道で文句たれてたのはお前じゃねえかよう!」



皆が笑う。

今度はカールまで吹き出した。




ユリースだけは、やはり笑わなかった。

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