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魔剣戦記 序  作者: せの あすか
15/17

9月9日 トラギア近郊の街道

謁見の翌日、トラギア王は使いの者を通じて、3人を密使ではなく客人として扱う事、そして王子と王女に剣の手ほどきをしてほしいという希望を伝えてきた。



もちろん3人は快諾した。ただやはり「オルドナ」がバレるのはまずい。

身分は隠し、西方の小国の使者と言う事にした。




その日から王の望みに従って、王子や王女に剣の手ほどきをしたり、騎士団の連中と手合わせをしたりして過ごした。


コビと王子はずいぶん気があった様子。

木刀で仕合をしたり、じゃれあったり。


王女は恥ずかしがりやで、なかなか打ち解けようとはしてくれなかった。


ふたりとも剣技のスジはかなり良く、ジャンが教えるオルドナの正規軍の剣技や考え方を、砂が水を吸うように吸収していった。





王と子供たちは3人揃って綺麗な赤毛だった。

トラギア王家の人間は何故か赤毛で産まれることが非常に多い。

王妃は西方出身で黒髪らしいが、やはり千年続いた王家の血と言うのは濃いものなのかもしれない。


その王妃は病弱で居室から出ることは滅多にないらしく、ジャン達は結局会えなかった。




トニも訓練に参加はしたが、どちらかというとラグアス等重臣と話をすることに時間を割いていた。

特に交通の要衝に位置する国を支える貿易の話は、彼の好奇心をくすぐるようだった。




夜は夜で、兵士や家臣たちと街に出て酒を飲んだ。

軍、兵、剣技、装備、貿易、産業、作物の出来、魔物。

話題は尽きない。

酒場では顔なじみもできた。


トラギアでは深夜まで酒を飲むことは法で禁じられていたので、ジャンには少し物足りなかったようだが。




そんなこんなで、飛ぶように4日間が過ぎ、3人はついに帰路に着く事になった。








「あーあ、もう帰るのかー。楽しかったね。」


街を出てしばらく経った街道沿い。

トニは手綱をもちながら、大声で後ろの荷台のふたりに話しかける。


「そうだな。任務も無事終えたし、親交を深めるって意味じゃあいい仕事したんじゃないか?まあ任務なんてさっぱり忘れてたけどな。」


ジャンは馬車の荷台に寝転がってどんよりとした空を見ながら、楽しそうに答える。


「ボクも楽しかったよ。アンリ王子とまた会おうって約束したんだ!」


「よかったねコビ。だいぶ剣のウデも上げたみたいだし、街も面白かったよね。」


「うん、見たものは集落のみんなに自慢しなきゃ。

剣はボクはまだ教えられないから、ジャンとトニがまた来て教えてくれればいいね!」



「そうだな。帰りに集落に寄れるかな・・・ちょっと考えないとな。」




帰りは、ラグアスが手配してくれた馬車に乗って帰ることになった。

トラギア王国の通行証も貰っているし、来る時のような怪しげな荷物もないので、たぶんメルケルを通ることに支障はない。

逆に、馬車で炎の森を抜けることはできないので、コビをどうやって送り届けるか、決めかねていた。





馬車だと海沿いまで1日、メルケルまではもう2日。そこから街道沿いにまっすぐ戻れば2日。炎の森を経由するよりかなり早い。


ちょっと長旅になりすぎた。

本国ではふたりの穴埋めで苦労しているに違いなかった。



楽しみすぎると、罪悪感が首をもたげてくる。

だがコビを放置する訳には行かない。


トニはひとしきり考えてから、結論を先送りにする事に決めた。






少しだけ気温が下がってきた。雨が降るのかもしれない。

長引いた乾季も今日で終わりかな。少し急ごう。





「ねえ、天気が怪しいからさ、」





後ろから蹄の音。





「ジャン殿ーーー!トニ殿ーーーー!」



ジャンが跳ね起きる。トニは馬車を止めた。


「どうした!!!」





見ると先日の女の門番。城に出入りしていた時も何回か会っている。


ずいぶん慌てていて、馬の息も荒い。



門番は泣きそうな顔で言う。



「王が・・・ペテロ王が居られないのです!!」





何を言っているのか理解するのに、ずいぶんと時間がかかった。


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