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魔剣戦記 序  作者: せの あすか
12/17

9月1日 魔法都市ペ・ロウ 鍛冶ギルド

「ああ、これは武器じゃないだろうな・・んー古い型のプレートメール・・・?

ちょっと肩を見せてもらえるか?んー無えな。


どうも、手甲だけをつけてたみたいだな。覚えてねえのか?」



ユリースはかぶりを振る。



ここはペ・ロウの鍛治ギルド。

ダリとビッキーは、鉱石の納品を済ますとさっさと飲みに行ってしまった。

クラウとカールは何やら用事がある様で、納品の時に既に姿がなかった。



特段やる事を思いつかなかったユリースは、自分の手にある謎の痕跡をこの職長に見てもらい、質問攻めにしていたのだった。




「ここまでガチガチに固定するのは普通は全身鎧なんだが、腕以外にはなんの跡もねえ・・・

悪いがわからねえなあ。親方なら解るかもしれねえが、あいにく今日はいねえんだ。すまねえな。」




わからないものは仕方がない。

職長に礼を言い、その足でユリースは街の図書館に向かう事にした。





------------------------------------------------


外に出ると、塗り込めたように立体感のない青空がのしかかってくる。

もう秋になったはずなのに、まだまだ雨は降りそうにない。




ぺ・ロウの街の北側には大学があり、図書館も併設されている。

各国から秀才が集まってくるこの街は、学園都市とも魔法都市とも呼ばれ、文化民族の異なる連中が各地から集まってきていた。

この街には他にない独特の雰囲気・・・自由で将来有望な若者が集まる場所特有の、軽やかな空気の流れがある。

ユリースはこの街に来るたびに、いつもそれをくすぐったく感じていた。




図書館には似つかわしくない無骨な石の建物に入ると、予想以上にひんやりと涼しく、昼間の太陽に晒されて吹き出した汗がすっと冷える。

ユリースはひとつくしゃみをしてから、膨大な量の書物と埃が積み重なる棚のあいだを廻り始めた。



歴史書と武器、防具に関する専門書・・・

適当に5冊ほど見繕って、それらを大きなテーブルに広げる。




古代からの武器や、魔法の武具の伝説、歴史的な大戦、各国の騎士団の正装、戦闘鎧。

興味はある。だがそこは歴史書や専門書、ユリースを楽しませようとはしてくれない。

だから睡魔は断続的に、容赦なく襲ってくる。




2冊目、西方各国の武器防具の製法や性能を記した書物。

ユリースはその真ん中あたりを開き、その上に突っ伏したまま穏やかに寝息をたてはじめた。




---------------------------------------------




職員がカーテンを引いた音で目を覚ます。


厚手のカーテンの隙間から赤みを帯びた一筋の光。



目の前には白い布。



「おはよう。」



突然の声にユリースは飛び起きる。


「貴重な本がよだれだらけになるのが忍びなくてね、取り上げさせてもらったよ。」


はっとして今まで自分の顔があった場所を見ると、そこにはこの若者のものだろうか、

凝った刺繍の入った布が置いてある。

若者が手にしているのはさっきの歴史書だ。



ユリースは申し訳なさと恥ずかしさで赤面しながら布で口を拭う。

そしてその布が自分の物でないと思い出し、また狼狽えた。



「調べもの?物騒な本が多いけど。」



こっちの様子はどうでもいいようだ。

長めの金髪。ずいぶん細い体。青くて綺麗な装束。


貴族の子弟?

学生にしては少し歳が上に見える。


「防具とか・・装備の事が知りたくて。」


恥ずかしくて立ち去りたい気持ちを抑えつつ、答える。


「どんな?もしかしたら役に立てるかも知れない。」


どうやらそのあたりの知識があるようだった。



ユリースは若者に手と腕の痕跡を見せ、ギルドの職長の見立てを伝える。

過去の記憶がない事も自然に伝わったようだ。




「んー複雑なんだね・・・待って・・・」

記憶を辿るように中空をぐるりと見回す。




「ひょっとしたら・・・」


おもむろに立ち上がり、近くの棚に向かう。


なんとなく、ついていった。


”歴史書”の棚。


豪華な装丁の本が並ぶ。





若者は手早く何冊か見繕って取り出す。

ユリースにも何冊か手渡して持たせ、さっきのテーブルに戻る。




1冊目をパラパラと早い速度でめくる。


信じられないが、この速度でもどうやらある程度内容が確認できている様で、時々戻ったりめくるのを遅くしたりしている。

最後まで見たが、お目当てのものはなかったらしい。


2冊目。同じく恐ろしい速さで中身を確認する。やはり何もない様子。




「あった。」




3冊目の最初の方に何かを見つけ、ユリースに本を向けた。






1枚の大きな挿絵 ―どこかの街が燃えている。

石造りの建物。川のほとり。

逃げ惑う人々を庇う戦士。


戦士の腕にはかなり長く幅広の両手剣と、通常よりかなり大きい、

丸みを帯びたガントレットのようなもの。


手甲と腕部分はかなりボリュームがあり、手首部分は締まっている。

花瓶に腕を通してるみたいだ、とユリースは思った。


戦士は、腕以外には防具をつけていない。




そして





「ドラゴン・・・」




戦士の正面には、腹部から血を流し猛り狂うドラゴン。








ツキン、と頭が痛む。




若者が説明書きを指さす。



「これは8年前、近隣の国で起こった悲劇だね。突如ドラゴンの大群に襲われ、街も城も全て燃えてしまった。国自体がなくなってしまったんだ。」


(8年?そんなに近い話・・・?)


ユリースは少し混乱した。


歴史書の重厚な表紙と挿絵の雰囲気から、かなり前の時代という気がしたから。




「で、ここ見て。これね、この手甲と剣が、この国の騎士独特でね。

大きな手甲が盾や鎧の代わりもするし、この少し曲がった両手剣を扱うための補助もする。

でも扱いが難しくて実戦で使える様になるにはかなりの鍛錬が必要だったようだね。

戦闘技術はこの騎士団以外には全く伝わっていなかったので謎も多いけど、相当強力だったようだよ・・・・でも」



少し考えてから戸惑いを見せる。


「おかしいよね。君はいくつ?8年も前にこの騎士団にいたわけが無いもんね。ここの騎士団はこの時に全員死んでるはずなんだ。」


「歳はわからない。覚えて無くて・・・」


「ああそうか、ごめんごめん。まあ、なんにせよこれでは無さそうだね・・・他になにかあるかなあ・・・」


他の書物に目を移す。








「ううん、多分これ・・・だ。」





ユリースは自分に語りかけるように呟いた。




若者は驚いてユリースを見つめる。





ユリースは絵から目が離せない。


自分はこの場面を知っているのではないか?

そんな予感が止まらない。





そこからユリースは事件について矢継ぎ早に質問をし始めた。

若者はたじろぎながら、本をめくりながら、なんとか答えていく。





前触れもなくドラゴンの群れが襲ってきたらしい。

城も街も焼け落ち、王族・貴族・騎士・兵士はほとんど全員死んだらしい。

住民も多くが死んだが、生き残った者は別の場所に移り住んだ。

周囲の街や国の助けもあり、難民達は現在まで生き延びている。

両手剣の製法は鍛冶屋に伝わっており、現在も使われている。

手甲は扱えるものが居ないので、今では作られていない。

手甲の他に、胴に鎖帷子を巻いていたらしい。

その後ドラゴンは人里にほとんど姿を現していない。



今に伝わっている内容を聞いても、何も思い出せない。



自分とは関係ない事件なのか?

初めて手掛かりらしきものに出会って、それにしがみつこうとしただけなのか?



もう思いつくことは全部聞いた。


質問が途切れる。





「ごめんね、なかなか謎が多い事件で。わかっているのはこれくらいみたいだね。」


若者は最後にと、地図を広げてその街のあった場所を指さした。



ユリースははっとして全ての動きを止める。



「この間の、あそこだ・・・」


「え?」


「そっか・・・だからあの鉱石があんなに沢山・・・」


呟きながらユリースは、もう一度あの廃墟に行くことを決めていた。




もう一度行けばきっと何かわかる。

そんな気がした。





------------------------------------





ギルドの長の家。


隣の鍛冶場の熱のせいだろうか、石造りの家だが、なかなかに暑い。




「なにかの間違いじゃないのか。全滅してる騎士団だからなあ。

しかもその娘はまだハタチそこそこだっていうしなあ。」



ギルドの長、スパロ。頭に白い布を巻き、赤い髭面をさらけ出している。

長年高熱にさらされヒビ割れた、職人の肌。




「そうなんですよ。10歳ぐらいで騎士団員?ってのも考えにくいし、壊滅後に誰かから教わった・・っていうのも辻褄が合いませんし。

まあどこかに生き残りが居るのかもしれませんが。」



青装束の若者が首を捻る。



「本人がそんな様子じゃ何か聞いたところで無駄だろうしな。

ただ、仲間に聞いたところだと、その娘相当な手練らしいぞ。」



「そうなんですか・・・図書館では私が近づいても全く気づかないで熟睡してましたが・・・

まあ私は武術に長けているわけではないので警戒する必要もないのでしょうか。

長、あの娘の事をお願いしても良いですか?

私は明日の朝には発たねばなりませぬ故。」



「おう、そうだったな。大変だな大国の参謀さんもよ。

娘の事はなにかわかったら次来た時に話すからよ!期待しときな。」



若者は軽く微笑んで頷く。


「ああ、それから頼まれたモノは出来てるからよ。

まあ出来は悪くねえとは思うが、何しろ初めて作るモンだからよ?

お望み通りかどうかは分からんぜ?」



布にくるまれた大きな筒状の物を渡す。


「組み立て方は中に書いてあるからよ。まあ、あんたなら見ればわかると思うけどな。」


「ありがとうございます。持ち帰って試させていただきます。

これが上手く行けば、敵を殺さずに無力化できるかも知れない。」



「短くて弱いけど、連射ができる弓と矢ねえ。

わざわざ殺せない武器をご所望とは・・・まああんたの事だから考えがあっての事だと思うがな。

気をつけなよ?敵は迷わず殺しに来るんだぜ?」




「殺せば、必ず遺恨を残す。そうやって戦は繰り返されます。

それを、私は繰り返したくない。

やるならば圧倒的な力で、しかも殺さずに勝ちたいのです。」




「オルドナを相手に、圧倒的に、か。難しいな。」


「難しくとも、やらなければならないのです。幸いメルケルもこの街も協力してくれる・・

ああすみません、もう行かなければ。長、ありがとうございます。これでお暇します。

娘の事、お願いします。」



「おう、弓はまだ試射してないからな。国に戻ったら調整してみてくれよな。

それと・・量産はかなり時間がかかる。

ちょうどいい木材の調達がなかなか難しいんだ。早めにな。」




返事と礼を言い、若者は慌てて出ていく。



「戦を終わらすってなあ。そうなると俺ァ食いっぱぐれちまうかもな。」


独りごちて、スパロは地下の作業場に戻って行った。


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