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悩みの旅

作者: 藤原

 その日は雨が降っていた。それに呼応するように私の心も重く淀み、視界に入るものも全て黒く濁り、霞んでいた。

 それでも私の乗る電車は止まることはなく、大勢の乗客を乗せながら、静かに進んでいく。窓は開いていないし開くこともない。だが、外から汚れた空気が流れ込んでくるように、車内の空気は汚れきっていた。これなら私は焚き火をして煙が立ち込める場所にいた方が良いと私は感じていた。今すぐに逃げたいとも感じていた。

 私は不意に隣の席に座っている男を見た。彼がどこに行こうとしているかなど、私には分からない。まして、彼が何者かなど知り得る筈も無い。だが私は彼に対して強烈な興味が、ふつふつと湧いた。

 彼は恰幅は良かった。だが彼の肩すくんでおり、その姿は妙に小さく見えた。彼も私と同じであるかのように思えてならないのだ。彼は私の隣で殆ど動くことはなかった。こちらに興味を示すこともなかった。

 だが私はその彼から放たれているその辛気臭い空気を放っておくことなど到底できるはずもなかった。


「どちらまで行かれるのですか?」


 私は聞いた。これに彼が反応してくれるかは分からないが、私は自分で可能な限り明るい声で、そして何気ない会話を装うようにした。放って置けないから、語りかけるというのならもっと違う口調で言っても良かったのかもしれない。だが私にはそれはできなかった。そこで私は周りの目を気にしてしまったのだ。私の悪癖だ。周りを気にしすぎる余り自分の思っている通りの行動ができないことが多々あった。それは子供の頃からの事で今も克服しきれてはいない。昔より幾分か改善されているとは言え、まだまだ自分の思うように言葉が出てくることは少ない。

 彼は私の言葉に反応は強く反応することはなかった。一般的な旅の会話として彼も捉えたのかもしれない。彼は私の方を向くこともなく素っ気なく答えた。


「伊勢ですよ」


 彼の言う伊勢は間違いなく三重県の伊勢だろう。私の乗る電車は今東海道本線の三河安城付近を通過していた。もうすぐ名古屋の都会が見えてくる頃だ。彼はここから近鉄に乗り換えて伊勢に行くのかと思うと少し興奮していた。私は過去に一回伊勢神宮に参拝したことがある。綺麗な場所だ。心が洗われるような場所だった。彼はそこで心身ともに洗われようとしているのだと勝手に思い込むことにした。相変わらず彼は微動だにしない。だが、私はその姿に軽微な光を感じた。私が勝手にそう思っているだけなのは疑いようのない事実だ。しかし、私は彼は当初から希望を持っていたのでないかと彼を見れば見るほどに思うようになっていた。

 私もその淀んだ心を洗われたい。


少し本気で固い文体で書いたらどうなるかを実験してみました。

この文章についてどれほどのものか、感想をいただけたら幸いです。

これは短編ですが、もし評価が高いようであれば、連載にすることも考えています。

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