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完情者  作者: 緋柄 貴デ亜
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完情者の宿命 3

 完情抑制者の葵唯にパートナーになれと言われしぶしぶやらされることになってしまった勝野。具体的な内容を聞けずに昼休みは終わり教室に戻ると、勝野の机は落書きだらけになっていた。面倒ごとが嫌いな勝野はそれを無視するが、それに気づいた葵唯は勝野を心配するも声をかけることができなかった。そして時間は経ち放課後へ。

 放課後になると部活に行く人、帰る人、おしゃべりを楽しむ人それぞれが個々の目的で動き始める。

 そんな中、自分はというと、強引に交わされた約束の下、教室に一人残っていた。

 (……遅い……)

 かれこれ、20分はこの教室で座り続けている。

 いつもなら終わりの鐘とほぼ同時に立ち去っていくが、あの女の約束だ、どうせ素直には帰してはくれないだろう。

 そこからは特に何も考えることなく待っていたら30分も経っていた。

 (……ハア……帰るか……)

 帰ろうと思って席を立ちあがると同時に後ろの扉が開いた。

 「ごめんね!遅くなっちゃって!」

 活発な声と共に、待たされた原因の葵唯はやってきた。

 「………」

 席に座りなおす。

 「いやー、他のクラスの子とも話してたらいつの間にか時間が過ぎててねー。本当にごめんね!約束取り付けておいて待たせちゃって。」

 謝りながら葵唯は、隣の椅子を自分の前に持ってきて座った。

 「…………」

 「いやーほんとね、なんで話が長くなってしまったかというとね、なんか私と勝野君が付き合ってるんじゃないかって噂が流れてるらしいんだよね。立川さんが教えてくれたんだけどね、本当に困ったものだよね。」

 「…………」

 「お昼一緒に食べてただけでそんな噂になってしまうなんて、みんな頭の中はお花畑なのかな、もう。」

 「…………」

 噂にされてしまう行動をうかつにとった葵唯が悪い。

 「…それとさ、その噂の話を聞いてるとき思ったんだけど…」

 「……?……」

 「…勝野君はさ…もしかして……嫌われてるの…かな?」

 「……………」

 「…いや、そう思っただけだから勘違いかもしれないけどさ、よく考えてみたら今日1日誰とも会話してないし、なんかお昼戻ってきた時も、なんかあったっぽいし…」

 「…………………」

 『もう、自分に関わらないでくれ。』と言うだけ。それだけですむが、出てこない。

 「…ごめんね…私の…せいかな…迷惑なら…これ以上は……」

 「……それが……話したかったこと……なのか……?……」

 「え?」

 葵唯の言葉を遮った。

 「……それが……話したかった……だけなら……帰る……けど…いいの……?……」

 なぜ葵唯の言葉を遮ったのか、自分にはわからなかった。でも、誰かが落ち込んでいる姿が浮かんだ。泣かせてはならないと、落ち込ませてはならないと思った。

 少し驚いたような顔でこちらを見て黙り混んだのち、笑い始めた。

 「くっ…ッハッハッハッハッハッハ~!ごめんごめん。おかしくてね、つい笑っちゃった。」

 「……!……帰る……」

 「あー!ごめんねってば。本当にごめん。それと、ありがとう。」

 「……早く……本題に……」

 「はーい。わかりました……って言いたいけど一ついいかな?」

 「……?……」

 面倒な事を聞かれる気がするが頷く。

 「……あのさ、さっきの質問。勝野君は嫌われてるの?」

 ……嫌われてると言えば、嫌われているのかもしれない。ただ、それは今日の出来事があったから嫌われてしまった。存在を認識されてしまった。だから答えが、定まらない。

 「……嫌われては……無かった……と思う……そもそも……誰とも……関わらずに……静かに……暮らしたかった……それだけだから……」

 「…そう、なんだね。」

 葵唯は顔を下げてしまった。

 (……何か……声をかける……べきか………わからない……どうすれば……)

 なぜ、ここまで迷わされるのかわからない。誰かが自分を乗っ取っている感じだ。自分が自分じゃない、そんな感じ。

 「………あ……のさ……」

 声をかけようとしたら葵唯は顔を上げた。

 「うん!もう大丈夫。今、どんな状態か、理解したから。」

 「……?……」

 何をいっているのかわからないが、大丈夫そうで安心した。

 (……?………安心……したのか………?……)


 とりあえず、本題に入っていなかったので、説明をすませ、現在は学校を離れて街にきていた。

 (……人が……多い……)

 葵唯の話によると、学校に転入してきたのは自分をパートナーにしたからには近くで監視できた方が良いということに加え、元々この地域が観察対象であるゆえ、馴染めていた方が情報収集がしやすいらしい。

 そして今回は、この地域に流れ込んできた完情者の捕獲だそうだ。捕獲というのだから何か行った不当な輩なのだろう。「だろう」なので、何をしてきた奴なのか教えられてはいない。……知る必要もないが。

 「それにしても、学校の坂を下りてくると本当に雰囲気変わるよねーここは。」

 「…………」

 「いやーほんと、飽きないね。」

 「…………」

 「こんなにお店があると寄り道したくなっちゃうねー!」

 「…………。」

 なんてことを言いながら雑貨屋に寄り道をしていく葵唯。それを無視して帰ろうとするのをまるで読んでいたかのように手を引っ張られ、雑貨屋に引きずり込まれていく。

 そんな感じで目的地に向かったので、通常より30分もかかってしまった。

 しかし、場所に着いたものの、目的の完情者は一向に現れないままさらに時間が過ぎていった。

 

 「…………」

 「あれ?情報だとここで間違いないのになー。」

 現在時刻、19時33分。学校を出てからすでに1時間半以上経っている。

 「……本当に…いる…のか…?…」

 「いや、情報に間違いはないから。」

 「……大体……その…情報…は…誰から……の…なんだ……」

 「それは…どうしても言えない。」

 「…………。」

 ……帰ろう。こんなことは不毛すぎる。自分の、やることじゃない。

 静かに、ゆっくりと、いつも通りの仕草で立ち上がる。顔を伏せ何も言ってこない葵唯の横を、通り過ぎる。そうして路地裏を出ていく。

 ……ドカッ!……

 路地裏を抜けようとした体はいつの間にか壁に叩き込まれた。知らない体と共に。

 「!……痛い…!…」

 「オイオイ、一般人がこんなとこにいたなんて気が付かなかったわ。死んでねーよな。」

 誰かが喋っているが耳に入ってこない。体のあらゆるところが痛む。

 「…ち…君!…大丈…!?……ちや君!…勝野君!」

 「……いた…い……ゆらす……な……」

 「よかった!意識はありそうだね。私は分かる!?」

 「……慌て…すぎ……だ……あお…い……ちょっ…と……体…が…痛む…程度……だから……」

 葵唯は安堵の表情を見せ、すぐに切り替え、状況を確認する。

 「この人は、今日捕えようと思ってた完情者で間違いなようね。でも一体どこから、」

 そこまで言って、別の声にかき消された。

 「そいつを仕留めたのは俺だよ葵唯!まったく、早く帰りたかったのによ!」

 「その声は朱雀山(すざくやま)先輩!」

 「その通りだ!久しぶりだな。」

 砂煙が消え始め視界が良好になってくる。すらっとしていて、声の割に厳つくもない顔立ちの男がそこにはいた。黒いコートに身を包み、両足と両腕が何やらおかしい。

 「お久しぶりですが、先輩はどうしてここに?」

 葵唯は問いかける。男は近づきながら答える。

 「そこに吹き飛ばした物を回収するためだ。」

 少しづつ近づいてくる。

 「でも、この完情者はここに逃げてきたのだから私の管轄では?」

 さらに問う。

 「いや、俺が逃がしたのだからケジメさ。後輩に任せるわけにはいかんよ。」

 近づいてくる。

 「それは、ありがとうございます。感謝していますので後のことはお任せください。ですから、先輩はすぐに戻られたらどうですか?」

 葵唯は自分を後ろに動かしながら述べる。

 「何を言うか。葵唯は次のターゲットを観察していたまえ。そいつは俺が回収しておいてやるから、ナッ!」

 「……!」

 「勝野君!」

 近づいて来たと思ったら、男は突然殴りかかってきた。葵唯が横に飛ばしたことで、よけることができた。

 「葵唯。なぜそれをかばった!」

 男は大声で言う。

 「先輩!彼は私のパートナーです!手を出さないでください!」

 葵唯は叫ぶも無駄だった。それどころかさらに声を荒げ言い放つ。

 「パートナーだと!笑わせるな。そいつは人間などではない!醜いバケモノだ!俺が始末してやる!」

 「……!………」

 「避けて!」

 避けようと動くも、男はすでに目の前。

 「フンッ!」

 拳は腹部をとらえる。

 「…ッハ!……」

 地面に倒れ、意識が遠のいていく。

 (……また……か……)

 意識が遠のく中、声が聞こえてきた。

 

 『ドウヤラ 出バン ダナ !』

前回の投稿から大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

やっと落ち着いてきたので、また投稿を続けていきたいと思います。

「完情者の宿命」は次で終わりの予定で、また次の章に入ります。

これからもよろしくお願いします。

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