完情者の宿命 2
非日常からつまらない日常に戻れると思っていた、勝野の学校に葵唯 雪奈は転入してきた。担任の不在に落ち込んでいたクラスに活気が溢れた。昼になり、食堂に行こうとした勝野に葵唯は付いていくと言い、強引に食事をとることに。そこで、パートナーになるよう言われる。
「……えっと…なんて……言った……」
女の言葉に問い返す。
「いやね、私の仕事のパートナーとして手伝ってほしいのよ。」
「……なんで……嫌だ……やらないよ……」
「え。それは困ったよ。」
「…困ってる…のは…自分…だよ…」
「…そうだね、困るのは勝野君だよね。うん。」
…なんだろう、何か隠してる気がする。
「……何…?…ただでさえ…困っているのに……さらに…自分が…困る…?…」
すでにここに来るまでに困らされている。この上さらに困らされるんだから、ろくなことではないのだろう。
(……はあ……めんど…くさいな……)
最近ため息は多くなったし、この言葉が口癖になりつつある。この女に出会ったから、変な怪物に出会ったから。
「…あのね、大事なことを話すから聞いてほしい。」
女は口を開いた。向きなおす。
「この話の前にまず簡単に私達、『完情抑制者』について話すね。私達『完情抑制者』は『完情者』の捜索、監察することを任せられてるって昨日話したよね。」
頷く。
「うん。で、暴走して、犯罪を行った『完情者』に対しては上に報告をして、捕獲あるいは殺害の連絡が完情抑制者に通達されるわけ。」
「……それで…担任は…捕獲の……命令が…出た……と…」
女は頷く。
「ここからだけど、命令が出るのは対象地域にいる抑制者とその近く、大体その地域から半径20キロメートルほどの円の中にいる抑制者に連絡が回るの。でも、ほとんどその地域以外の人は動かないけど。それで、対象を捕獲、殺害したら、上に報告する。これが、規則なの。」
「……なる…ほど……」
「でね、今回の監察対象だった、君。勝野君は暴走して、私に襲いかかった。つまり、捕獲対象になるわけ。でも、このことを私は上に連絡してないの。つまり、規則に違反した状態なのよ。」
「……それで…伝えない…代わりに…手伝え…と…」
「話が早くて助かるよー!」
…なんてめんどくさいことを。
「…何で…報告…しない…めんどくさい…ことを…やらされるなら……捕獲された方が……ましな…気がする…」
「えー、捕獲されたいの?捕獲されると、生きてるのか死んでるのかわからないような実験の対象ってことだよ。絶対、パートナーの方が楽だよ。それに、研究者のおっちゃんやおばちゃんといるより、私みたいな可愛い女の子といたいでしょ!」
「……可愛いか…どうかは…知らない…でも…確かに…一理ある……」
「えー!そこは、『可愛い女子と一緒がいいに決まってる!』っていうとこだよ。」
自分でいうのか、この女は。
「……そういえば……なんで…自分の…立場を…下げる…かもしれないのに…報告…しないんだ…?…」
そこが、謎だ。日々がつまらなく、坦々と過ぎている日常でも、流石に生きてるのか死んでるのかわからなくなるような実験に、使われるのは最悪だ。だが、なぜ自分を報告しないのか。いずれは見つかるのに、なぜ匿うのか。わからない。たかが昨日、今日の出会いだ。何をそこまでさせるのか。
「…うーん、何でだろう?昨日の表情から、そう思ったのかな。なんか、悲しそうな顔、してたからかな。君が。」
「……気のせい…だと思う…」
…気のせいだ。悲しい表情なんて、思うはずがない。…そんな顔、するわけがない。
「でも、今さら報告したら、私も処罰の対象だから、手伝ってはもらうからね。」
「………はあ……わかった……手伝いは……する……でも…馴れ馴れしく……するつもりは……ない……」
「はいはい。わかりましたわかりました。」
本当にわかっているのだろうか。
「あ!それと!」
何か思い出したように、こちらを見る。
「私のこと、ちゃんと名前で呼んでよね!今日ずっと呼んでくれなかった。あと、他人行儀だった。パートナーになるんだから、連携大事だよ!」
本当にうるさい女だ。
「……わかったよ………葵唯………」
名前呼びは、なんか変だ。
「うん!よろしくね、勝野君!」
あー、さっきよりうるさくなった。
「…もう…いい…?……戻る…から…」
「そうだね。戻ろうか。」
席を立ち上がり、トレーと食器を洗い場の人に渡す。教室は一緒なので、葵唯は何か話ながら後ろを歩いている。たまに反応を求めてくるので、適当に頷いて返す。
「…それじゃあ、放課後ね。」
「……え…?…」
何かを約束されてしまった。
教室の席は葵唯は一番後ろで、自分は一番前だ。ちなみに、どちらも窓側の席になっている。
「………」
…何かしてくるだろうとは思っていたが、まさか、机に落書きとは。
「…クスクス」
「…いい気味だ。」
「…てか、よく席わかったな。」
…机が無くなっていると思ったが、ただ落書きなら大したことでもない。
(……はあ……やることが…小さい…この程度…なら…普通……だな……)
席に座り、次の授業の準備をする。机の落書きはそのままにして。
「…チッ、平気面してんじゃねえよ。」
「…もっとやるべきだったんじゃない。」
斜め後ろの方で、言い合っている。
「ねえねえ、何話してるの?」
「あ!葵唯さん!?」
「い、いや、特に何も、面白いことじゃないよ。」
「えー、でもでも、笑ってたよー。」
「あ、葵唯さん!聞きたいことが、あるの。」
「ん?何々?」
「あ、葵唯さんは、あいつとは、どういった関係なの!?」
…これは、どう返すつもりなんだ?
「ん?あいつって、勝野君のこと?そうだなー、ただの友達だよ。」
(………問題が……増えていく………)
「……、そう、なんだね。」
「うん。そうだよ?」
(……あー……自分は……友達…思って……ないから……)
一体、誰に反論しているのか。
「…あ、もうすぐ授業始まるから、席に…戻るね。」
「?うん。そうだね。」
(………)
葵唯の周りから人が離れていく。距離を置かれたのだろう。
(……はあ……)
これから、めんどくさいことになりそうだ。問題は増えていくばかりのなか、午後の授業の始まりを告げる鐘は鳴った。
話が進むごとに勝野君が柔らかくなってる気がします。キデアです。
この感じでいくと、勝野君は最終的にクラスメイトと打ち解けられそうですね。
次はバトル回ですか。お楽しみに。