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完情者  作者: 緋柄 貴デ亜
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完情者の宿命 1

葵唯雪奈から無理矢理話を聞かされるはめになった勝野は人気の無い喫茶店で『完情者』『完情抑制者』についての話を聞かされた。自分にはもう関係の無いことだと思い、話を聞き終わり帰路につく。翌朝、いつもと変わらない光景に感心していた。

 昨日の出来事は特に何もニュースに取り上げられていなかった。あれだけ派手な音は鳴っていただろうに、テレビどころか、新聞、雑誌にも載っていない。本当に不思議なものだ。

 学校についても一緒だった。校舎裏の地面のへこみ、血の跡はきれいに消えていた。驚きや不思議よりも、感心してしまった。たった一晩で何事もなかったかのように元どうりに戻っているのだから。

 しかし、これでようやく通常の日常に戻れると、そう思っていた朝の自分がわからない。


 原因は1つだが、朝から変わったことが2つある。

 1つは担任が不在になったことだ。いつもなら、朝の余鈴がなるとほぼ同時に担任は教室に入ってくる。しかし、今日は担任ではなく別の教師が入ってきた。少し教室内がざわついた。すると、教師は言った。

 「担任は朝から連絡が取れなくて居場所も不在です。なので現在は長期休暇という扱いになっております。その間、このクラスは私が担当することになりました。」

 そう言った。案の定、クラスはざわついた。どうして、連絡をしてないのか、自分達に何も言ってくれないのか。様々な意見が飛び交った。あれでも学年問わず生徒から好かれていたのだから、ショックの声は多かった。

 ……戻ってくることは…無いだろう。

……そう昨日…殺しているのだから……自分ではない…『完情』…が、

 そして2つ目は……あの女が来たから。


 「担任が休みに入ってしまい、ショックを受けている人もいるだろうけど聞いて、連絡はもう一つあるから。」

 そう言うとドアが空いた。

 「この時期ですが、転入生がいるの。入ってきて。」

 女子だった。髪が長く、立ち姿と歩く姿がきれいで整っていた。ほとんどの男子と女子がその容姿に声を失っていた。

 しかし、自分は知っている。あの女が誰であるか、あの姿が偽りの姿だということを。

 「自己紹介をしてください。」

 そう言われ女は頷き、こちらをチラ見し笑った。

 「葵唯(あおい) 雪奈(ゆきな)です。5月という変な時期の転入ですが、どうか仲よくしてほしいです。よろしくお願いしまーす!」

よく響く声だ。

 「席は後ろの窓側が空いてるわね。」

 この挨拶とともに勝野の日常は消え去った。


 そして、現在昼休み。皆それぞれ昼食を買いに、食べに行動している。寝ていた勝野は目を擦る。

 転入生、葵唯 雪奈の周りには女子が集まっている。質問攻めを受けている。

 男子達は話しかけるタイミングを窺っている。

 (……腹減った…昼飯でも…買いに行くか……)

 席を静かに立ち上がる。重たい足取りで静かに廊下へ出ていく……が出来なかった。重りでも付いたようだ。足元を見ると自分の足の後ろにすらっとした足が見える。振り返ると転入生の女…葵唯 雪奈が制服を引っ張っていた。

 「……動け…ない…ので…放して……下さい……」

 「食堂行くんでしょ。私も連れてってよ。」

 抵抗するが、ビクともしない。自分の力はここまで非力だったのかと痛感した。

 「お昼持ってないし、お金ないから奢ってよ。」

 「……他の…方を…当たって…下さい……」

 「いいじゃん、昨日色々説明してあげたんだし!」

 …あれは、半ば無理やり説明してきたのに、なんて言い草なんだ。

……それよりも、これはまずい。

 「…何であいつのところに。」

 「…知り合いなのかな?」

 「てか、あいつ誰だ。いたか?」

 …やはり話し始めた。こうなるから、関わりたくないんだ。

しかしそんなことはお構い無しに、ずっと服を掴んだまま時間が過ぎていこうとする。今までの平穏がとられる。

誰からも認識されない状況を作ってきたため、何が起ころうとも話題にはあがらなかった。だからよかった。だが、この女は違う。女子達は友達になろうとしたがるし、男子達からはかわいいと思われている。つまり、今の話題の中心人物だ。

 そんな女が、存在を潜めていてよくわからない実態の人物に、親しげに話そうものなら周りはその人物を確実に非難をし始める。こうなるとめんどくさい。

 (………ハァ………)

 …どうしよう。このままだと、明日から自分の私物、机、椅子もろもろがなくなったり、呼び出されたり……

 …無視しよう。それが一番だ。ちょうど、手が制服から放れて何か話しているので、いつも通り静かにゆっくりと動き出す、いつもよりさらに静かに歩き出す……がダメだった。この女を振りきるのは時間の無駄だと確信する。

 「ねーえ、食堂の場所わかんないんだから~、つれていってよ〜!」

 「…はあ……ついて…来て…下さい……あと…離して……下さい……」

 この女はやはり、

 「……めんどくさい……」

 「めんどくさいっていった!酷い!」


 「わぁー!食堂広いねー!本当に広い!」

 結局食堂までずっと話ながら付いてきたこの女は今、食堂で騒いでいる。

 「……うるさい…です……こっちで…食券を……買う……」

 「はーい。」

 ここの食堂は券売機で食券を買ってからおばちゃんに渡すという仕組みになっている。

 「うーんとね、私はこのうどんでいいや。」

 「………」

 この女によると、昨日持っていたお金はあくまで仕事で必要な時に使っていいお金の為で、仕事ではない学校では使う事はできないとの事だった。

その為、お金を持ってくることを忘れていたらしい。

…全くもって迷惑だった。

 「ありがとう!」

 昨日のコーヒー代も頭をよぎったので今回は仕方なく自分が払うことにした。

 「…明日…からは…奢ら…ないから…」

 「わかってるよ〜」

 席を探していると、ちょうど空いたので座ると、正面に女は座った。

 「………」

 「いやーほんと広いね。こんな広いのははじめてだよ。」

 「…………」

 「うん、おいしいねぇ、これだけおいしいと学生なら嬉しいね。皆ここに集まるのも納得するよ。」

 「……………」

 「ん?食べないの?冷めちゃうよ。あ。一口ちょうだい!」

 ……なぜ、まだ付いてきているのだろうか。

 「おーい、どうした?本当にもらっちゃうよ?」

 「……なんで…正面に……座って…るのですか…?…」

 「なんでって、まだ勝野君としかちゃんと会話できてないし、クラスメイトは質問責めで大変なんだよね。」

 「……ちゃんと…?…会話……してない……」

 「そんなことないよ。話は聞いてくれてるし。」

 ……流していたことが、聞いていた事にすげ替えられている。どこまで、自由気ままなのか。

 「それに、昨日の件で話したいことがあったからね。」

 「……?…昨日の…事は…もう……話した…んじゃないの…?…」

 「いや、あの喫茶店で話したこととはちょっと違うかな。今回の話はここに私が来たことと関係するんだ。」

 ……嫌な予感がする。

 「あのね、君に私の仕事のパートナーになってほしいの。」

 「……ハ……?……」 

何を言っているのか分からず固まってしまった。

…予感は最悪の方向へと動き始めていた……

第2章、入りました。第1章でタイトルの回収もしてしまったし、どうしようかと悩んでいて書き進めました。とりあえず第2章では、戦闘シーンを詳しく組み込めるようにしていきます。

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