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完情者  作者: 緋柄 貴デ亜
4/7

完情的 4

『担任だったモノ』を殺し、興奮が冷めやまない『完情』に支配されていく中、突如現れた女、葵唯あおい 雪奈ゆきなに助けられる。感謝の言葉を投げかけ帰ろうとする勝野を、葵唯は強引に引き留めるのだった。

 女についていき着いたのは、人気の無い喫茶店だった。ここに来るまでも徐々に人の数が減っていた。

 「店長、こんばんは。いつもの二つね。席は奥座るから。」

 店長はうなずいて、準備に取りかかった。

 店内は、レトロな雰囲気で微かに珈琲の薫りがする。広いわけでもなく狭くもない。どこか落ち着いた雰囲気で、家でもなかなかあじわえない感じだ。

 「ここ座って。」

 この店内にそぐわない声が聞こえた。

 いつの間にか座っていた。奥の席まで近づき、女の正面に座る。

 「お金は気にしなくていいよ。払っておくから。あ、もしかして何か頼みたいものでもあった?」

 「……いや…特には……あと…お金は…払うから……」

 「無理矢理連れてきたんだから、お金は取らないよ。それに、経費だからね。」

 何故この女に経費が、と思ったが店長の声でそんな考えも消えた。

 「お待たせしました。」

 二つの珈琲を置いていく。

 「ありがとー」

 「…ありがとう…ございます…」

 頷き、店長はカウンターに戻っていく。

 それを確認して、女は話を始めた。

 「さてと、何から話そうかな。何か聞きたいことはない?」

 話始めたと思ったら逆に質問を聞かれた。

 「……そもそも…仕方なく…付いてきたんですから…聞きたいことも…特にないです…」

 「えー、そう言わずに、何か聞いてよー。」

 やはり、めんどくさい女だったか。

 「……めんどくさい人……です…ね……」

 「めんどくさいなんて言わないでよー!あと、名前。」

 「…名前…?…」

 「そう!名前だよ!ちゃんと名乗ったじゃん。人とか言わないで、葵唯でも、雪奈でもいいからちゃんと呼んでよー。」

 (…なんだ…こいつは……)

 「嫌そうな顔しない!表情に出てるから!」

 「…はあ…わかり…ましたから…落ち着いてください………葵唯……さん…」

 流石に下の名前では呼べないので名字で呼んだら、少し複雑な表情をしたが、

 「…うーん、まあいいか。それで、何か聞きたい事はある。」

 さっさと終わらせないと、時間が無駄になると感じた。

 「…はあ…それじゃあ…あの…担任は…生きてるんですか…?…」

 「?担任?化け物より担任の心配なの?」

 「…まあ…そうですね…」

 …心配…なんてしてない。素直な思いだ。気がついたら、何かが足元に落ちていたので気になっていた。

 「うーん、どうだろう。あれだけ四肢ちぎってたから、流石に『完情者』といえど生きてはないと思うけどね…」

 …まあ、そうだと思う。あれで生きていたらもうどうしようもない。

 「他には!他には聞かないの!今でた『完情者』についてとか!」

 なんともうるさい声だ。これは聞かないと帰れそうにもない。

 「…じゃあ…一様…聞いておきますよ…『完情者』…とやらに…ついて…」

 「うんうん!よくぞ聞いてくれました!『完情者』とはですね、突然発症し始めた精神病の一種で、発症している人の呼び名です。『完情』という病で、特に直す方法も薬もありません。二重人格みたいなものですから。」

 現実味の無い話に頭が痛くなってくる。精神病の一種とかいっているが、あれを病気で済ますとは…

 「…そんなに…一般的なのか…?…今の聞く限り…一般的に知られている…感じに…聞こえたけど…?…」

 「いんや、一般的ではないので、知らない人ばかりですね。知っている人なんて、上のお偉いさんと研究者ぐらいじゃないかな?まあ、『完情者』本人ですら知らないなんて事もあるからね。」

 …公表しなのは確かにと思うが、現実にこんなSFじみたことが起きていたなんて。

 「……ん…?…じゃあ、あなた……葵唯…さんは…何ですか…?…『完情者』を…探していたり…監視したり……」

 この女は今一番怪しい。お金に関しても経費が出るからとか、この『完情』のことを知っていたり。しかも自分を監視対象とかいっている。

 「そうだね、私が今一番怪しかったね。すごい疑いの表情に戻ってるし。」

 そんな顔になっているのか。見てみたいものだ。

 「そういえば私の事まだ何も話してなかったね。私は葵唯 雪奈。『完情者』ではないよ。もちろん研究者でもないし、お偉いさんでもないよ。完者を捕らえる為の役目を持つもの。ようは戦闘員だね。あ、もちろん勝野君と同い年だよ。」

 「……大丈夫か…?…」

 「大丈夫だよ!まさか、信じてないの!?」

 「…まあ…少し…信用できないけど…わかった…」

 ここまでの話が嘘でないなら、こいつの言っていることは本当なんだろうと思った。

 「せっかく、説明したのに。信用度低い。」

 葵唯は落ち込んでいるのか、テーブルに倒れこんだ。

 まあ、何はともあれこれで帰れるな。

 「…落ち込んでいるところ…すみませんが…もう…話は終わった…んだよね…?…帰ります…」

 席を立ち上がり、鞄に手をかけようとするが鞄を葵唯に取られた。

 「…何を…しているん…ですか…返して…下さい…」

 「…だ。」

 「…なに…?…」

 「まだ!終わってないよ!」

 …まだ終わらないようだ。

 仕方なく、席に座り直す。

 「……他には…なにか…?…」

 「…、うん!それでね、今日のことがあったから、勝野君には『完情者』について説明をしなきゃいけないの。」

「…はぁ…」

「まあ、そんな反応にもなるとは思うけど、今日勝野君は『完情者』と出会ってしまったし、自身の『完情』にも目覚めてしまった。『完情者』に目覚めるという事は、自身の『完情』が意思を持ち始めたということ。『完情』は基本その人が内に秘めていたもう一人の自分。だから意思の強い『完情』だと対象者を乗っ取ってしまう可能性が十分あるから、『完情者』を監視しているの。乗っ取られてしまったら抑制しなければいけないから。普通なら、対象者に話はしないけど、君には関わってしまったから…話だけ聞いてほしい。」

 「……」

 真剣な顔でお願いされたので、静かに頷いた。

 「…ありがとう。じゃあ話すけど、『完情』につてはさっき軽く説明してるから大体何の事かは分かっているとは思うけど、『完情者』は『完情』を発症している人の事。『完情者』が患者、『完情』が病原体みたいな感じかな。さっきも言ったけど『完情』はその人の内に秘めていた自分、だから基本的には負の感情がほとんどね。負の感情は具現化すると人を傷つけ、破壊し続け、悪事を働く事が多いの。それでも稀に綺麗な心の持ち主もいて具現化しても普通に共存することもあるけどね。まあ、大体この2種類に分類されるんだけど、負の『完情』に対抗、抑制する為に存在するのが『完情抑制者』の役割、私たちの事だね。『完情』に発症している人を探し監視、暴走した際の対処を主に仕事としているわけ。」

 「……なる…ほど…じゃあ…自分を…監視していたのは……」

 「そう、勝野君は『完情』に発症している可能性が高いと判断されたため、監察対象に選ばれていたということ。まあ、可能性があっただけだから、別の監視対象を追っていたら鉢合わせてるなんてね。」

 「…ん…?…鉢合わせ…ってことは…担任を…監視して…いた…のか…?…」

 「うん。正確には捕獲が正しいけどね。あの完情者は、5年前発症していた人でね、犯罪経歴がすごくてね。監視じゃなくて捕獲対象になっていたんだ。でも、足を残さないから追うのが大変だったのよ。」

 あの、担任がそんなことになっていたのか。

 「…5年…前か…」

 「ん?5年前がどうかした?」

 「…いや…なんでもない……というか…完情者…?…を特定しているの…なら…その人の…過去は…知っているって…事じゃない…のか…?」

 「んーそれが、その辺は個人情報に当たるからって、上の人しか知らないんだよね。」

 「…そう…なんだ……」

 「うん、そうなんだよね。で、過去がどうしたの!なにか知られたくないことでもあるの?」

 「…いや…過去が…わかるなら…教えて欲しえて…欲しかった……だけ……記憶が…無いから、……ちょうど……5年前…から…住んでた…場所…家族の…事とか…声も……覚えてない…から……」

 …あの時、一瞬記憶が甦った用な気がした。でも、そのあとまるでそんなことは無かったかのように、覚えていない。何かに記憶を操作されている感じで消された感じ。

 「…ごめん、デリカシーに欠けるようなこと聞いて。」

 「…いや…別に…いいんだ…過去が…なくても……今の…生活は…変わらないから……」

 それからは特になにも喋らなかったので、コーヒーを飲みすぐに店を出た。その間、葵唯はずっと何か考えている顔をしてたが、無視した。

 店を出ると、空には小さな輝きが広がり始めていた。

 「……今日は…ありがとう…ございました…役目……頑張って…ください……?で…いいのかな……それでは…」

 とりあえず、自分はもう関わることはない。今の生活を乱されるのは困る。

 (…今日は…いろいろ……あった…な…喉が…痛い…)

 「あ……うん。じゃあね。」

 何か、喋ろうとしていたのか、声が消えていた。

 こうして勝野 央晃の日常は夜の街の騒がしさに消えていった。

 ……始まったことに気づかないまま………



とりあえず、こんなところで第1章は終わりになります。

次回から第2章に入っていきます。

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