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完情者  作者: 緋柄 貴デ亜
3/7

完情的 3

『担任だったモノ』に殺されかけた勝野に、無くなっていた記憶がよみがえった。

その時、心の中で語りかけてきた「恐怖」と「絶望」。

二つの完情により無残な姿になり果てた『担任』。

終わったかに見えた虐殺の果てに、勝野の心に再び「恐怖」と「絶望」が語り掛ける。


 落ちているものを拾い、眺めていると次第に頭から気分が高まっていく。

 雨がいつの間にか降っていて、頬を赤い雫が流れ落ちていく。顔を上げ空を見上げると頭の中で声が聴こえる。

 (…満足…シテル…?……終わらナイ…終わってナイ…マだ…満足……シナイ…)

 (……!!)

 亀裂の入るような痛みが脳を駆け巡る。細胞の1つ1つが、意思をもっているかのように暴れ始める。体の制御が効かない。流れる汗と涙。本能が恐怖と絶望、死と復讐を求めている。

 ( 足りナイ足りナイ。支配サレルのハ、人間のツトメ。完情コソ。ホンシツ。 )

 意識が遠のく。深い海の底に沈んでいく感覚。

 (…深い……苦しい……もう何もない……家族が……復讐が……恐怖が……消えて…いく……)

 さっきまであった感情が消えていく。心と体が消えていく感覚。

 (……暖かい)

 そう感じた。死を感じ取った。これで、一人ではなくなると。

 「目を醒ましなさい!」

 突然、頭に強い衝撃が走った。鈍器の様なもので殴られた。

 「 痛イだろうガ! てめぇ、コロスゾ!イや コロス! 次の エモノダ! 」

 言葉と同時に『完情の体』が飛びかかる。それを、いとも簡単に弾き返す女。

 「 !! ナンなんだオマエ 突然 殴ッタ フキトバシタ オマエ ニンゲンダ ナゼ カワセタ ? コロ コロ コロシテ 殺ル !! 」

 復讐が暴走する。女の恐怖を絶望を獲るため、死を与えるため。

 しかし女は殺意に怯えることも無く冷静に対処し、着実に『完情体』を弱らせている。

 「 アガッガガガガガァ グハァ ナンなんだ  ホンとに  オカシイゾ  コイツは  オガジイ クフゥ 」

 「…ナンで避けテルの…?…ナンで…避けれルの…?…体…イタイヨ……傷ガ…モとに…戻らナイ……恐怖……シナイ……」

 戸惑いと恐れを感じ始める。意識が遠のいていくなか、女は声を張り上げて言った。

 「目を覚ましなさい!」

 そして、手に持っていたものを、頭蓋骨が割れるのではないかと思う程の勢いで振り下ろした。

 「 ガァ !! …… 」

 『完情の体』は地面に倒れた。その衝撃で消えかかっていた『意識の自分』は元の体に引き戻された。

 戻りつつある意識の中で、「…マ…だ……消え…ナイ……」と黒い影がそう呟いたのと同時に意識が暗闇へと落ちていった。


 目が覚めた。見掛けない天井から家では無い事に気付く。ここ最近はいつも記憶が安定していなかったので、どうして気絶していたのか憶えている感覚が不思議に感じた。

 「目が覚めたようね。」

 女は優しい口調で話しかけてきた。

 「……誰ですか…?…」

 「警戒するよね、正しい判断が出来てる証拠だよ。」

 納得して立ち上がる。

 「私は、葵唯あおい 雪奈ゆきな。勝野 央晃、あなたを探し、監察していたの。」

 と、女は言った。

 「……監察…?…もしかして……朝……感じた…視線……あなたですか…?…」

 「朝?朝は知らないわ。監察はしていたけど、視線を感じ取らせるへまはしないわ。多分、彼の、欲望の視線を無意識に感じていたのね。」

 「……そうですか……とりあえず…ありがとう…ございました…それでは…」

 立ち去ろうとする。

 「いやいや、ちょっと待って。私はあなたに会うために来たのよ。なんで探してたの?とか、監察してた理由とか、あの化け物が何なのとか、知りたくないの?」

 めんどくさい。

 「……監察…される覚えも無いし…化け物とも、もう関わること…ない……と思うので…失礼…します……」

 帰ろう。そう思って歩きだしたのに、

 「待って!お願い!あなたがどんな人間で、どんな生活なのか、把握はしてる。私みたいな人間が一番嫌いなことも。でも、お願い!ちょっとだけ!ほんの少しだけ!時間を、話を聞いてー!」

 腕を捕まれている。すごい力なので振りほどくことも出来ない。

 …諦めよう、そう思った。

 「……はあ……わかりました……話だけ……聞いて…帰ります……」

 途端、女の顔が明るくなった。

 「ありがとうございます!では、場所を変えましょう。付いてきてください。」

 女は軽い足取りで歩き始める。

 (…はあ…)

 重たい足取りで静かに、女の後ろを付いていった。

 

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