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完情者  作者: 緋柄 貴デ亜
2/7

完情的 2

 静かで孤独な勝野は、いつも通りの生活を送っていたが、帰り道で『何か』に出会い意識を失う。

朝、目覚めるとそこは家のベットだった。

 

 時計の音が鳴っている。音を止める。視界が広がる。目が覚めればそこはベッドの上。

 (……)

 頭が回らない。朝はいつもそうだ。

 朝食の準備をする。顔を洗い、キッチンに立つ。1人なのに無駄に広い。テレビはあるが見ない。新聞も読まない。ただ誰もいないその空間で、無駄に広いテーブルで、朝食を食べる。普段と変わらない。しかし今朝はいつもと少し違った。いつのまにか新聞を広げていた。しかし、特にこれといったこともないので閉じる。朝食を食べ終え、シャワーを浴びる。

 (……ん?)

 腰に妙なアザがある。見に覚えがない。アザに気づいたのと同時に頭痛がした。しかし、それも一瞬のことだった。

 (……寝てる間に……打ったのか?)

 そしていつも通りの時間に家を出る。


 学校に来ると少し違和感がした。誰かに見られているような。しかし、辺りを見回しても、特に誰かが見ているわけでもない。

 (……気のせいかな、朝から様子がおかしいのは自分か。)

 扉が開いた。

 「おはよー、ホームルーム始め……るッ!」

 突然ファイルを落とし、驚く担任。生徒も皆驚いていた。

 「大丈夫ですか?」

 「…へ?ああ…ちょっと昨日の疲れで躓いただけかな、あっはは、ごめんな。」

 その後は何事も無かったかのように、ホームルームを始めた。

 

 朝の変な視線は感じなくなっていた。担任も朝の出来事からは特に変わったこともなく、気づけば昼。皆それぞれ昼食をとっている。 

 (……さて、自分も飯にしようかな。)

 席を立ちあがり、食堂に向かって静かに歩き出す。廊下は騒がしい。

 食堂に着く、食堂はなお騒がしい。早く食べて、早く戻ろうと思う。

 今日は、朝から落ち着けていない。すぐにでも落ち着ける居場所が欲しかった。魚、肉、野菜の定食があったが、購買にある総菜パンを買いすぐに校舎裏の茂みの中へ。進んでいくと、少しだけ開けた場所に出る。そこでパンを食べる。今日は運よく誰もいない。……心地よい。しばらくは何も考えずにすみそうだ。空腹も満たされると眠くなってくる。

 (……少し寝よう。)


 どれぐらいたっただろうか。少し寝るつもりが、気づけば空は茜色に差しかかっている。休んだことがないのに授業を休んでしまった。しかし、気持ちに焦りは見られなかった。むしろ不思議なぐらい落ち着いていた。まるでこれが本来のあり方だったかのような。

 (……とりあえず、謝りには行くか。)

 ゆっくりと、腰を起こす。

 立ち上がると、視線を感じた。

 (…!)

 担任がこちらを見ていた。

 視線を返す。

 すると、ゆっくりとではあるがこちらに近づいてくる。

 (……?)

 様子がおかしい、そう感じた。この感じを知っている、そうも感じた。

 しかし、どこで、いつ、どんな状況で感じたのか覚えていない。

 考えている間にも担任はどんどん近づいてくる。

 近づいてくる、1歩足を引いた。

 (……足が震えている?……怖いのか?……わからない……)

 頭の中がまとまらない。今まで感じていなかった感情が、頭の中をぐるぐる回っている。

 担任は足を止め、こちらに顔を向ける。そして気づく。自分の体が震えていることに、恐怖を感じていることに。

 「…怖いカ?…恐ろしいカ?…どんな気分ダ?…」

 『担任のようなもの』は訪ねる。

 (…何だ、何をいっている。……怖い?……怖い。こわい。死ぬ?)

  …恐怖…人は恐怖に陥ると思考がまとまらなくなる。思考がまとまらなくなり、体は反応しない。ただただ、現状を見ているだけになる。

 『担任のようなもの』は喋る。

 「…?どうしタ?…喋らないのカ?…喋れないのカ?…勝野?…」

 名前を呼んだ。『担任のようなもの』は続ける。

 「…勝野。…探したゾ…ずっと…ずっと…ずっと!…そして!…殺す機会ヲ!…待ちに待ったこの機会ヲ!…」

 続ける。

 「…お前の家族ヲ殺しタあの日…お前だけ殺しそびれタあの日ヲ…後悔シ…コウカイシタ…あの日のミスヲ…」

 …殺された…家族…記憶に無い…あの日…

 「……知らない。僕は知らない。…家族も…過去も…知らない!」

 突然叫びだした自分、声と感情が飛び出た。

 『それ』は笑いだした。

 「…ヒャッハッハッ!…忘れていル…記憶が無イ…家族モ…思い出モ…全て無イ……デモ!…覚えているハズダ!…記憶は無くてモ…覚えているハズダゾ!…俺の事ヲ!…」

 「…知ら…ない…覚えて…ない。」

 体は震えていた。記憶は無くても、体があの日の記憶を物語っているかのように、恐怖していた。

 「…俺ハ、欲望…欲望ダ!…自らの欲望ヲ糧に具現化してイル…完情ダ…」

 「…何を…言っている…?」

 訳がわからない。…欲望?…具現化?……完情?

 「…昨日…お前ハ…死んだハズ…デモ!…生きてイル?…何故?…なぜ。…ナゼ!…不思議…?…お前モ完情者?…」

 (…死んだ?…僕が?…昨日?…記憶が無い?)

 昨日の記憶が無い。その事に今更ながら気づいた。なぜ記憶が無いのか。この怪物はなんなのか。なぜ自分が殺されそうなのか。いろいろな情報がいっぺんに流れてきている。

 「…覚えてなイ。…そう判断しタ。…昨日…裏路地で…食事のとキ…見つけタ…ダから…殺しタ…デモ…生きてル…オカシイ…クッフッフッフ…まタ…殺せばイイ…」

 (……ッ!)

 喋り終えると同時に鈍い音がした。視界には、紅い水が広がっている。しかし、それもすぐに見えなくなった。目の前には暗闇が広がり、声だけが聴こえる。

 「…これで…終わリ…あの日のミスモ…チョウケシ…」

 暗い、体が痛い、感覚が遠ざかる。死が近づいている。

 (……死ぬのか…?…痛い……暗い………怖い……?……誰か……いる……?……)

 そこには、楽しそうな家族の姿、紅い飛沫を飛ばしながら倒れる人、燃え盛る炎、笑う何か、焼け落ちる建造物、静かで暗い部屋の中に1人。

 自分の姿だった。あの景色に、自分の姿があった。

 (…そうか…殺されたのか…家族は…死んだのか…あの日…あの場所で…死んだのか……知らなかった……いや…無くなっていたんだ……殺されかけた恐怖で……消えた…記憶の中から……それまでの人生ごと………許せない……でも……)

 でも、死んだ。もう何もできない。これほど憎んでいるのに、殺してやりたいのに……できない。死んでしまったから。

 (死ぬのハ、怖いカ?…恐れテ、いるのカ?…)

 誰だろうか、声が聴こえる。誰だろうか、この声を自分は1度聞いている。……思い出せない。

 (アイツをコロシタイカ? デキナイ自分が、ニクいか? )

 聴こえるもう1つの声、問う。…怖いのか?…殺したいか?…

 ……怖い、憎い、殺したい。

 …家族を殺したアイツを。…復讐を……死を…………

 ( イイだろう、復讐ト、)(…恐怖ヨ…)((……呑ミ込マレヨ……))………、

 

 「……死んダ…?…殺しタ…?…やっタ…殺っタ…よッ…!……内臓…ぐちゃ…グチャ……ウヘへ…ッ…」

 …赤く染まった地面。空から降り注いでいる紅い雨に『それ』は打たれていた。

 「…つまらなイ、…欲望ヲ…求めル…」

 帰ろうとする『それ』。

 「……殺ス。…恐怖ヲ…絶望ヲ……復讐二……」

 振り返る『それ』、同時に吹き飛んだ足。『それ』は前に倒れる。

 「……ッ!…足が…痛ッ……痛い……イタイ……!…アッアアアァァァ……!……ナンダ……!…マタ…イキテル…!…殺……殺…コロ!コロ!コロ!コロシタァァッ……!」

 叫び、転げ回る『それ』。のたうち回り、足のあった部分から、血が流れる。

 「…マタ……亦…又…また股叉俣マtッ……マタッァァ…!」

 思考が崩壊している。言語がままなっていない。

 「……ワカラナイ、…何ヲ……落ち着カナイ…?鎮マらなイ…?…マだ…、終ワリナイ…、…」

 同時に『それ』の腕が消えた。……空中で紅い水となった。

 「アアアアァァァァァッtぅッ!腕!うで!ウデ!Uデ!エッデッでッェェヱェェ!…」

 元々、考えていたのか分からなかった思考は、本格的に考えることを、活動をやめ、本能で叫んでいる。体をバタつかせ、叫び、白目になり叫び続けている。

 「……怖いデスカ…?死にまスカ…?…楽二…なりたいデスカ…?…」

 問う。

 「 コロサレルヨ。復讐ダカラ。モット、苦絞メル。 イイよね? 」

 問う。

 「…本能デ…恐怖ヲ…カンジテ…怖イの…ッテ…死にたくナイの……ッテ…」

 求める。

 「 死ぬのハ、約束サレテル。絶望二、染まるのハ、選ばれテルから。 ダカラ、死ヌ。 」

 教える。

 「アッアァッァ…欲…死…?…絶…殺…?…死に死に…シに…氏ヌたく……ナッナッナッナッ……!…………」

 ………ドサッ……。

 恐怖で染められた表情は芸術的だ。……そう感じた。

 ……雨の音だけが耳に突き刺さった。

 1話から投稿が遅くなりました、緋柄です。すみませんでした。

 話の終わり的に次の場面に変わる感じですが、まだ場面は変わらず勝野君のターンです。

 次話でこの物語の世界の説明していくと思います。

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