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おパンティおパンティ  作者: ぬひときの
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7

悪い予感は的中した。

目の前には伸びきった猫が白眼をむいて倒れていた。

どうやら僕は、パンティ好きの人間ではなくパンティ好きの柴犬でもなくパンティ好きの雑色猫でもなく、パンティ好きの5歳児になってしまったようだった。

乗り移るのは動物だけではないようだ。僕は両手の平を眺めた。

人間の手は久しぶりなような気もするが、それにしても小さくて可愛いものである。僕はその小さな手で、腫れ上がった目をこすった。

ぼやけた視界が少しずつ晴れてきたとき、僕の目に飛び込んできたのは2人の男女だった。公園の入り口側の道路を仲の良さそうに会話を交わしていた。

一瞬でわかった。

穏やかな声、低めに縛ったポニーテール、細くも太くもない体格。

間違いなく五条さんだった。

仲睦まじそうな男女の1人は五条さんだったのである。


五条さん…?


僕は泣きそうになった。


誰なんだよ、その男は…


僕は自身の奥手に加えて失望したくないという気持ちから五条さんに彼氏の存在の有無を尋ねたことはなかった。だが会話をしていると五条さんにはなんとなく彼氏がいないような雰囲気が漂っていたし学区内でも誰かと歩く姿も見られなかった。

しかしそれも幻想だったのだと、僕の思い込みであったと言わざるを得ない。僕の目の前にはどうしようもない現実がつきつけられている。五条さんが見知らぬ男と歩いているのだ。


他校の男と付き合っていた?


僕は5秒間硬直した後、気づくと物陰に隠れていた。

5歳児の少女が木に隠れて男女を睨みつけているのである。

2人が見えなくなったとき僕は我に帰った。

そうだった。僕は今女の子の姿をしているんだった。隠れる必要もない。それに、2人で歩いていたからといって付き合っているとも限らないじゃないか。

僕はできるだけ冷静であろうとした。落ち着いて、客観的に、分析しようと心がけた。

僕は徐々に視界がぼやけていくのを感じた。

女の子が泣いているのを見て慰めようなんて僕にはまだ早かったのかもしれない。

僕はもしかして、

もしかしてだけど、泣いていた。


って泣いてる場合か!

僕ともあろうものが、こんなことでへこたれていてどうする!このままおめおめ少女の姿のまま泣いて帰ってたまるか!

少女の姿であるならば、それを最大限までいかすまでだ。犬や猫の姿で五条さんに甘えることばかり考えていたが、状況は変わった。僕の目的、それはあの男が五条さんとどんな関係であるのかを調べ、結果しだいではその関係を悪化させてやろう。少女の姿なら日本語も話すことができるし、ものも掴むことができる。卵を投げつけたり馬糞をなげつけたりするのも朝飯前だ。

僕の頭の中には、もはや自分の体の安否や魂の移動についての謎を調べようなどという考えは毛頭なかった。

嫉妬に燃え策略を練る僕の顔は、はたから見れば5歳児の少女とは思えないほどの悪に満ちていたことだろう。


僕は公園に落ちていたバケツにたぷたぷに水を入れて歩いていた。冷静に、客観的に、と言い聞かせていたあの頃の自分はもういない。僕は既に結論を出していた。

五条さんと歩く男、それはやはり有無を言わさず悪。並んで歩いている時点で有罪である。ギルティ、パンティ、僕が直々に紳士の鉄槌を下してやろう。だが僕の姿はどこからどう見てもいたいけな少女。不注意にも足を絡ませて両手のいっぱいのバケツを不幸にも男にぶちまけても、不思議かな、仕方のないことである。

僕は慎重に五条さんと男に近づいていった。

それにしても5歳児の体というものは本当に歩きづらい。冗談にしなくても足がからまってこけてしまいそうだった。バケツも欲張って水を入れてしまったせいで、重いわ水ははねるわで散々である。


「うん?何してるのかな?」


あ。

しまった。

バケツと歩きづらさに気を取られて、男に気づかれてしまった。僕はその場で再び固まってしまった。なんと説明すればいいのか。5歳児の少女とはいえ、公園から1人で水がたんまり入ったバケツを抱えて歩道を歩いているというのは、よく考えてみれば奇妙だ。

冷や汗が脇を伝っていくのを感じた。


「ま、迷子…」


苦し紛れの言い訳。

さらに話がこじれそうだ。


「ええ、迷子なの?お母さんとはぐれちゃった?」


男が図々しく聞いてくる。

この野郎、初対面の人に向かって馴れ馴れしい態度だ。


「何才なの?」


「…ご、ごさい」


否、18歳である。


「うわあ!かわいい!迷子?探してあげようよ!」


五条さんも僕の存在に気付き、話しかけてきた。ええい。こうなったら強行手段だ!

僕は力一杯バケツを持ち上げ男に投げつけようとした。

が、バケツを持ち上げた途端バケツはくるりと半回転し、中身の水は僕の頭から足にかけての世界旅行を果たした。要するに僕は、2人の男女の前で盛大に水を浴びた。


まぬけ…


まぬけ…


まぬけ…


そんな声が遠くから僕の頭に語りかけてきたような気がした。


2人は最初驚いていたが、すぐに僕を心配して、終いには家が近いから着替えに行こうなどと言い出した。僕は自分の間抜けさにあっけにとられたまま、言われるがままに五条さんの家に行くこととなった。



僕は狼狽した。

図らずとも五条さんの家に入ることとなってしまったのだ。男も一緒だというのが気にくわないところであるが。

僕は恐る恐る玄関をあがった。いい香りがする。女の子の匂いだ。


「じゃあ、お風呂入ろっか。」


え?


「よく見たら泥だらけだし、お風呂に入って、それからお母さん探そ!」


そう言って、彼女は天使のような笑顔をみせた。いや、もはや天使。

っていやいやいやいや!

お風呂!?

お風呂って裸になるやつ!?

あの、服が全部なくなるやつ!?


「ほら、ばんざーい」


「ば、ばんざーい」


万歳いいいいいいいいい!!!!!!?


僕は極めて冷静沈着かつ紳士的にこの状況を把握してみたがどう考えてもこれは五条さんとお風呂に入るというドッキリウッキリボッキリな展開ではないか。いやまて。まてまてまてまて。こんなことは普通はありえない。僕が少女の姿をしているという理由からこんなことになってしまったのだ。これは僕の力ではない。つまり、紳士的ではない。僕はこのイベントを避けるべきだ。避けて、きれいな体ときれいな瞳で五条さんと恋に落ちるんだ。


ところがどっこいひょうたんおパンティ。


僕は偶然とはいえこの絶好のおパンティを謁見するチャンスに出会えたのだ。偶機。好機。五条さんとの今後の進展に諦めたわけではないが、神が与えた人生で最後の五条さんのおパンティイベントかもしれない。僕はこの機会を逃したら永遠に、五条さんのおパンティを見れないかもしれないのだ。


五条さん、

おパンティ、


五条さん、


おパンティ、


五条さんおパンティ五条さんおパンティ五条さんおパンティ五条さんおパンティいいいい!!!!!


落ち着けえ!


僕は特殊な性癖を持っているが故に誰よりも紳士でなければならないハズゥ!

誰よりも好きな五条さんを前におパンティを頭にチラつかせるなど言語道断ノーパンティ!ノーパンティ…


僕は誰よりも五条さんを好きであるが故に五条さんのおパンティを見たい!

この際少女の姿のままでも五条さんのおパンティを見れることは本望なのではないか!?少女の姿なら僕、下木探のイメージなど正にも負にも働かず僕が墓場まで秘密を持っていけば誰にもバレることはない。五条さんのおパンティ模様とその色も墓場までもっていく自信はある。それなら気兼ねなく今後も関係を保つことができるのではないか…?


僕は…


僕は…五条さん…


僕はびしょびしょに濡れた肌着を脱いだ。


「ありがとう!お姉さん!」


こんな僕を許して下さい。


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