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おパンティおパンティ  作者: ぬひときの
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3

この日は土砂降りだった。

ここ最近こういった異常気象は多い。というのも、昨日、今日、そして明日も天気予報は快晴だったからだ。ゲリラ豪雨というやつだろうか。

僕は1度五条さんとゲリラ豪雨という話題を通じて楽しげに会話を弾ませたことがある。その日も今日のように突然のゲリラ豪雨に見舞われ、カッパを持ってきていなかった僕は外を見ながら頭を抱えていた。すると五条さんは涼しい顔で、私は折りたたみ傘があるからよかった。と女神もおののくような微笑みを見せたのだ。なんでも五条さんは折りたたみ傘が大好きで水玉模様から迷彩模様まで10色以上コレクションしているという。今日は蜘蛛の巣模様なんだよ、と自慢げに折りたたまれた傘を見せてくる五条さんに、僕はその日も心を折りたたまれてしまったのだった。


今日も五条さんはお気に入りの折りたたみ傘をさしてご機嫌になっているのだろうか…


僕は廃れたシャッター街の端にたたずむ本屋で雨宿りをしながら、そんなことを考えた。

今日は土曜日である。進学校と名乗る僕の高校では、受験生は土日も自由に学校を出入りすることができ、僕のクラスでも何人かは学校で勉強しているようだ。僕は休日にまで学校になんて行きたくないから基本家で勉強をする。もし五条さんが土日も学校に行くようであれば僕も真面目な受験生のふりをして、さあて今日もやるかな、と伸びをしながら登校するのであろうが、どうやら五条さんも土日は学校には来ないようなので仕方なく行かないというわけだ。

今日は午前中は勉強をしていて、ご飯を食べたら少し眠くなってきたし外を見れば日差しがさんさんと輝いていたので、散歩でもしようかなと外に出てきたしだいなのである。僕がシャッター街の端の本屋で雨宿りしている理由が分かっただろう。

外が晴れていて、少し散歩でもしようという人がどうして傘なんて持っていくだろうか。僕は誰もいない本屋をちらりと覗きながら、じめじめとした空気にうんざりした。

しばらくまっても雨は止まなかった。どうやらゲリラというわけでもなさそうである。空には厚く黒い雲がどんより広がっており、通り雨の空によく見られる青空の隙間は全くないように思えた。僕は意を決して豪雨に飛び込むことにした。家に帰るのだから、少しくらい濡れてもいいだろう。それに、勉強ばかりで気持ちが暗くなっていたかもしれない。思い切り雨の中を駆け抜けることで日頃のストレスを発散し青春の風を感じるのも悪くはないだろう。

僕は古びた本屋をもう一度振り返った後、周りに誰もいないことを確認して全速力で駆け出した。


「いやっふぅぅぅぅ!!!」


なかなか気持ちいいものだった。僕は両手を広げて自分の内に秘める芸術性を解放するがごとく腕で弧を描いた。僕の歓声は豪雨にかき消され、はしゃぐ姿は雨のカーテンで覆われたように思えた。家まで校庭のトラック2、3周分はあるが、このペースならあっという間にたどりつけそうだった。

僕はつい調子に乗って、普段心の牢獄に閉じ込めている熱い気持ちを発したくなった。マリオゲームで言うところの、スーパースター状態だったのだ。僕を偏見の目で見る世間の人たちも、スーパースターの前ではボーリングのピンのように軽く弾き飛ばされてしまうことだろう。今では家でも叫び難くなってしまったあの言葉を、僕はついに叫んだ。


「お、おパンティ!!!!」


その時だった。

突然目の前が光に包まれ何も見えなくなった。光とともに爆音が響き地面は揺れた。僕がそれを雷だと認識したのはかなり先のことだ。

神は見ているぞ、と指をさされたような気分だった。僕はその時、スーパースター状態になったマリオが調子に乗って全力疾走し、巨大な穴に落ちてゲームオーバーになった姿を思い浮かべた。

僕の目の前で真っ白な世界が広がったかと思うと、次の瞬間、僕の記憶はぷつりと途絶えた。


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