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「……る!」
「……ぐる!」
「さぐる!!さぐるってば!わかる!?」
「お母さんよ!」
「さぐる!」
「さぐる!」
お母さん。
お母さんがいる。
頭が痛い。
「痛い…」
「さぐる!!」
突然、僕は母に抱きしめられた。
苦しい。
「心配した…。生きてて、よかった…。」
お母さん。
お母さんが泣いている。
なんとなく、懐かしい感じがして、僕は涙を流した。
.
「ええ!?雷に打たれて、二日間もずっと寝てた!?」
五条さんは細い眉を釣り上げてあっと驚いてみせた。
僕は月曜日の帰り道、五条さんを誘って2人で下校していた。
昨日の日曜日、僕は病室で目を覚ました。母や医者曰く、僕は金曜日に近くの本屋近くで、雷に直接打たれたわけではないが、近くに落ちた雷で感電し二日間意識不明だったという。僕は雷に打たれたことを全く覚えていなかったので、記憶障害の可能性を疑われたがその後の検査では特に異常もなく、体の損傷も見られなかったのでその日のうちに退院となったのだ。翌日には学校に行けるほど体力も回復し、今日も1日の授業を終えたところである。
「急に一緒に帰ろうって言われてびっくりしたけど、そんなことがあったんだ…」
「ごめん、急に誘われたら驚くよね。」
「いや!そんなことないよ!嬉しいし!…あ、そういえばね、私も土曜日おかしなことがあったよ!」
「おかしなこと?」
「小さな女の子がね、愛ちゃんっていう子なんだけど、迷子になってたの。それでお母さん探そうか?って言ったら急に持ってたバケツをひっくり返してびしょびしょになっちゃったの!」
「え?なにそれ。」
彼女の不思議な話に、僕は思わず吹き出した。
彼女の少し天然めいたところも、僕はとても好きだった。
五条さんはびしょびしょ少女を家に連れて行き服を着替えさせて無事母親のもとに返したという。その時たまたま従兄弟がいて助かったと、五条さんはまた笑った。
僕は彼女の話に心から笑うことができた。笑って、温かい気持ちになることができた。
「あの、五条さん」
僕が呼ぶと、彼女はん?と言って立ち止まった。
「僕、五条さんのことが…好きです。」
聞こえてしまうんじゃないか、と思うくらい鼓動が高鳴った。
五条さんは最初え、と声を漏らしてそれから驚き、照れ、笑いといった様々な表情を四季のように彩り豊かに変えてみせた。
返答までの数十秒がとてつもなく長く感じられた。
「えっと…またびっくりしちゃった。今日はなんか、さぐるくんいつもと違う感じがする。」
「そうかな…」
「ありがとう。とても嬉しい。」
五条さんは微笑んでいった。天使か。
「でも今ちょっとびっくりしちゃって、頭の整理がつかないの。何日か、時間もらってもいいかな?」
「…わかった。」
僕たちはそこで別れることになった。
五条さんが別れ際、僕に手を振った。
僕はできるだけスマートに、紳士に手を振り返した。
その時、ふいに強風が吹いて、僕と五条さんの股下を駆け抜けた。
薄いポリエステルの制服のスカートは、いとも簡単に空を仰いだ。
スカートがめくれた。
僕の目の前で。
スカートに隠れたおパンティが、僕の目の前で露わになった。
「うわあ!!!」
頬を真っ赤に染めた五条さんは舞い上がったスカートを抑えて叫んだ。
「み、みた!?」
僕はあわてる彼女に対して極めて紳士な態度でこう言った。
「いや、なにも見てないよ。じゃあね、また明日。」
僕はおパンティが好きだ。五条さんのおパンティも見たい。けど、なんでかな。
今はまだおパンティが見れなくても、気分はすごく晴れやかなんだ。
おわり