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クロネがエレナと契約を交わして数時間が経過した。
夕陽が世界を紅く染める中、森の奥で一人の少女が静かに涙を流していた。
優しい眼差しをするクロネ。
その視線の先には、懐中電灯のような魔道具を点灯させながら頬を濡らすエレナがいた。
今まで使えなかった懐中電灯を一人で点灯させていた。
「あたしっ……ようやく、魔道具……使えたよぉ……」
「ふふ、よう頑張ったのぅ」
「うん……うんっ!!」
クロネの指導のもと、ごく短い時間ではあるが魔道具を扱えるようになったエレナ。
そしてエレナは思う。
ようやく自分は欠陥品じゃなくなったと。
クロネに心から感謝して、涙を流しながら気持ちを言葉にする。
「……クロネちゃん」
「ん、なんじゃ」
「ありがとう」
「ふ、ふんっ。契約の為にやっただけじゃ!!」
素直にお礼を言われて気恥ずかしくなったクロネは、自然と顔が赤くなってプイッと顔を背ける。
エレナはその可愛らしい様子に微笑みながら思いの丈を口にする。
「それでも、ありがとう。あたしは一生クロネちゃんから貰った恩を忘れない」
「……」
クロネは戸惑っていた。
元々エレナと契約を交わしたのはお菓子の為だったはず。
軽い気持ちで魔法を使えるようにしただけなのに。
エレナ自身なんてどうでも良かったはずなのに。
……なのに、何故か幸せそうな笑顔を向けられると心がほんのりと暖かくなってくる。
「クロネちゃん、友達……あたしと友達になってほしい」
「あ……え……」
嬉しかった。
「う、うむ、特別に許可してやるのじゃ……!!」
人間なんて龍の貴種である自分からすれば路傍の石のようなものだと思っていたはずなのに。
力勝負なら圧倒的に格下の相手に友達になろうと言われて、不快じゃなかった。
むしろこれから一緒に居られると思うとわくわくしていた。
(この気持ちは、なんなんじゃろうな……)
クロネは胸に手を当てて考える。
悩んで悩んで、それでもよく分からないので悩む事はやめて今を楽しむことにした。
「よし、エレナよ、今日の修行は終わりじゃ!」
「うん!」
「お腹が空いたので、はよう家へ向かうのじゃ!」
「ふふ、お菓子楽しみにしててね!」
エレナとクロネは仲良く手を繋いで森を駆け、エレナが暮らす家へ向かった。