95話
土曜を迎えた。
広島の福山水産高校を我が校グラウンドへと招き、練習試合が始まった。
福山水産は昨夏県ベスト8、昨秋県ベスト16と広島県内では中堅校に位置する。
試合前にユニフォームが一年生に配られる。
入学式後に入部した永島君を除き、4人の一年生が練習用の山田高校のユニフォームを身にまとった。
山田高校の野球部ユニフォームはいたってシンプルだ。
黒と白を基調としたオーソドックスなデザインであり、アンダーシャツ、ベルト、ソックスは黒、それ以外は白とどこにでもありそうなユニフォームとなっている。
帽子は黒で、マークの「Y」の部分だけ、黄色となっている。
ユニフォーム上着の胸中央部にはアルファベットで「YAMADA」の刺繍がされている。
どうだい? どこでもありそうな高校野球のユニフォームだろう?
第一試合の先発ピッチャーは松見君。
スタメンも四番大輔以外、控えや一年生のみの構成となっている。
さて試合が始まった。
一回の表、福山水産高校の攻撃。
先発マウンドに上がる松見君は、高校初登板となる。
相方のキャッチャーは同じく一年の里田君。山田シニアでは四番こそ任されていたが、正捕手ではなかったらしく、普段はライトを守っていたそうな。控えキャッチャーとしても機能していたという事だ。
さて、そんな超絶不安なバッテリーで始まった試合。
松見君は挨拶がわりのフォアボールでいきなり先頭バッターを歩かせた。
うん、松見君ノーコンすぎるわ。あんなんじゃゲーム作れやしない。
この後、二番バッターの送りバントからの、三番バッターのライト前ヒットからの、ライト永島君後逸からの、二塁ランナーホームインで早速失点。
なんだ? この草野球は?
「佐和ちゃん、さすがに一年にいきなり試合任せるのはまずかったじゃないっすか?」
思わず佐和ちゃんに意見してしまう。
「今日の試合は一年生の現状知る試合だ。あちら側にはしっかりと説明しているし、許可ももらっている。あっちだってスタメンは一年中心だ。おあいこさ」
そういって笑う佐和ちゃん。
だけどさ、さすがにフォアボール連発でゲームにならないなんて事になったらどうすんの?
松見君はフォアボールを出しながらも、なんとか初回は1失点で抑え抜いた。
さぁ攻撃の時間だ。先頭バッターは鉄平。いい加減力を発揮して外野のスタメンを勝ち取りたい所だが、レフト大輔、センター耕平君、ライト龍ヶ崎のスタメンを奪える気がしないな。
その鉄平は、早速セカンドゴロ。
続くバッターは二番西岡。
どんぐり内野軍団の鉄砲玉こと西岡琢己。
バッティングの良さは、誉と片井君を大きく上回るが、反面守備が下手すぎる。あんなんじゃスタメンは任せられない。
故に鉄砲玉だ。代打で出場し、ヒットを打って代走片井君となるパターンが想定される。
さて、その西岡はピッチャーゴロ。早くもツーアウト。
だが野球はツーアウトからだ。三番は新一年生の石村君。
どんぐり内野軍団を脅かす期待のホープであり、龍ヶ崎の後輩。中学時代はボーイズ出身と硬球経験者だけあり、即戦力と期待される。
さぁ今こそベールを脱げ石村君! そのバッティングで、どんぐり内野軍団の息の根を止めたれ!
っと思ったが、結局セカンドゴロに倒れてスリーアウト。
うん、まぁ初回はこんなもんか。
二回の表、福山水産の攻撃。
松見君は息をするようにフォアボールでランナーをだし、そのまま得点圏にランナーを進まれ、そのまま失点。
この回も1失点で抑えきる。
やはりノーコンっぷりが酷い。時たまストライクゾーンに入るボールは、全部打たれている。守備の正面などでなんとか助かっているが、少し打球の位置がずれていたら、余裕で内野を抜いていることだろう。
二回の裏、早速我が校はチャンスを迎える。
四番大輔だ。もうこいつが打席に入るだけで得点圏だろうと、得点圏じゃなかろうとチャンスだ。それぐらいホームランを打つ確率が高い。
しかも相手のピッチャーは一年生。大輔なら腹の虫を鳴らしながらホームランも余裕だろう。
そんなことを考えていると、案の定初球からボールを打ち抜いた。
鳴り響く爆音に、一年生たちは大歓声をあげた。だいぶ慣れている二、三年生は歓声こそあげるが、そこまで舞い上がらない。
もう大輔がホームランを打つのが普通に思えてきている自分が怖い。
センターへのソロホームランで早速1点を返す我が校。
続いて打席に入るのは、期待の後輩秀平。高校初打席だ。
俺が中学三年生の時は、一年トップのバッティング技術を持ち合わせていた。あれから三年が経ち、体格も大きくなり、パワーもついただろう。
どれほど成長したか、見させてもらおう。
左打席に入り、バットを構える秀平。
相手バッテリーは、先ほどの大輔の打球にかなり動揺している様子。初球でも甘けりゃ狙えるな。
そうして初球、秀平はボールを打ち抜いた。
豪快に振り抜かれたバットに直撃したボールは、流し打ち方向となるレフトの方へと吹っ飛ぶ。
打球はふわりと浮いた感じに見えたが、思いのほか伸びる。追い風で風を味方しているのもあり、どんどんと打球は伸びる。
そうして外野に張られたネットの向こうに飛び込んだ。
初球ソロホームラン。
やりやがったなあいつ。
まだ幼さの残る面構えの一年坊主だが、こりゃ即戦力だ。佐和ちゃんも確信しただろう。
あの野郎、中学三年間でここまで力を蓄えたか。マジでうちを選んでくれて感謝だな。
「ナイスバッチ!」
ダイヤモンドを一周し、ベンチに戻ってきた秀平に学年問わずチームメイトが手厚く迎え入れる。
先輩からも褒められ照れ気味の秀平。
「秀平! ナイバッチ!」
「ありがとうございます!」
俺も一言褒めておく。
秀平ははにかみながら感謝をしてきた。
これで2対2の同点。試合は振り出しに戻った。
さて試合はこの後、三回に早速松見の野郎が2失点し、またリードされる展開に、一応打線は三回にも石村君高校初ヒットからの、四番大輔のツーベースヒットで、1点を返した。
しかし松見君は五回にも1失点をして、この回で降板。
わずか五回投げて8個の四死球を出しやがった。どんだけノーコンなんだあいつ。
六回から登板した亮輔は、この後を被安打2と2個の四死球のみで無失点好投するが、打線は八回に1点を返したのみで、同点に追いつけず、4対5で敗北となった。
大輔は4打数3安打3打点。1本のホームランと、1本の二塁打を打っており、調子は上々、県大会でもその打棒に期待を寄せてしまう。
高校初試合となった秀平は、4打数2安打1打点。大輔と同じく1本のホームランと、1本の二塁打を打っている。高校初試合にしては打ちすぎだ。マジで入学してくれてありがとう。
山田高校のどんぐり内野軍団の息の根を止めようと送られた刺客である石村君は、4打数1安打。まずまずの成績を収めている。
そして第二試合。
先発ピッチャーは俺、佐倉英雄。
相手チームも主力メンバーを出し、こちらも主力メンバーでスタメンを固めた。
セカンドには誉が入る。ここで良い結果を残さないと、マジで石村君にレギュラー取られるぞ誉!
第二試合は打線が爆発した。
初回から一番暴れ馬恭平の初球打ちセンター前ヒットで出塁すると、続く耕平君は変化球を上手く打ち返しライト前ヒットで、ノーアウト一三塁と早速チャンスを作る。
ここで三番龍ヶ崎が左中間を破る走者一掃のタイムリーツーベースヒットで先制。
さらに大輔が右中間を真っ二つにするスリーベースヒットでさらに追加点。
極めつけは五番俺の右中間へのツーランホームランで、相手の先発ピッチャーはノックアウト。
二番手ピッチャーがマウンドに上がっても勢いは収まらず、中村っちのアウトからの、七番秀平、八番哲也がヒットで繋ぎ、誉が確実に送りバントを決めてツーアウト二三塁で、再び一番の恭平へと戻った。
チャンスであろうと問答無用で初球打ちを敢行した恭平は、ライト前にヒットを放ち、二塁ランナー哲也までホームに生還し、2点をあげた。
これが初回の得点だ、打者一巡の猛攻で7得点。良い感じだ。
この後も、我が校は得点を積み重ね、九回までに11得点をあげた。
投げては、スーパーハイパー天才もとい生まれたての怪物こと俺が、九回を投げて被安打1の無四死球の無失点で完封。
試合は11対0で圧勝する。
ちなみに誉は見事3打数無安打。昨年の夏の大会出場から、ずっと、今の今まで1本も打っていない。
打球自体は悪くないのだが、どうも守備の正面をついてしまう。誉もなんとか工夫しているみたいだが、どうもヒットを打てていない。
だがそれでこそ誉とも言える。ヒットが打てないのは、かなりのウィークポイントだが、一年生にあいつの守備やバントは真似できまい。
あいつがセカンドにつくだけで内野の守備は安定し、あいつが九番に居座るだけで打順もだいぶ厚みがます。これでヒットを打てれば完璧なのだが、いかんせんヒットの神様に嫌われているようだ。
守備、小技面では突出しているが、やはりここぞの場面で打てないと、レギュラーから外される可能性は高いだろう。
それに守備固めとして誉がベンチいるなら、それはそれで心強い気がしないでもない。あいつ、恭平ほど起用じゃないが、一応キャッチャーも内野も外野もある程度は守れるわけだし。
とりあえず今日の試合で、春の県大会へ向けて俺はしっかりと調整が出来た。
あとは県大会を待つだけだ。




