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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
5章 春眠、怪物は目覚める
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93話

 4月6日。始業式。入学式も本日行われる。

 今日から新学期スタートだ。そして俺も三年生。最上級生となったわけだ。


 「おはよう! お兄ちゃん!」

 朝、リビングに向かうなり山田高校の制服に身を包んだ恵那が迎えてくれた。

 可愛いよ恵那。さすが我が妹。

 制服が可愛いと評判の山田高校の制服を見事に着こなしている。お前、もうモデルになったらいいじゃないか? なんて兄馬鹿を発動しつつ、恵那に挨拶を済ませる。


 「おはよう。でも、お前って俺らよりも登校時間遅いだろう」

 入学式は、始業式の後に行われるので、新入生の登校時間は、俺たち在校生よりも遅かったはず。

 なので、在校生の俺よりも先に制服に着替えている恵那は、どう考えても早すぎる。


 「うん! でも、早く着たかったから」

 そういって、えへへと笑う恵那。

 なんて神々しい笑顔だ。もしかして女神なのかお前? さすが我が妹、最強だぜ。


 「…おはよう…」

 もう一人の妹、千春が入ってきた。

 朝に弱い千春の表情は優れない。お前はもっと可愛い妹になれ。


 「って…恵那着替えるの早すぎでしょ…」

 そして千春も驚いていた。


 今日から新学期。気持ち一新して頑張ろうって気になるな。



 新学期初日の登校。

 児童公園に生える桜の木は、案の定満開の花を咲かせ、入学式の日に相応しい姿を見せている。

 あの桜の木、よくガキの頃登ったな。その度に「桜の木に佐倉が登ってる!」って友達にバカにされたっけ。

 あいつら今頃何してるかな? 思い出したら関節技決めたくなってきたな。


 などと物思いにふけながら、俺は一人通学路を歩く。


 「あ! 英雄! おはよう!」

 ここで沙希と出会った。


 「よぉ」

 「新学期だってのに、元気ないわね」

 俺のテンションに不満足そうな沙希。


 「まぁな。二年生のクラスも悪くなかったし、三年のクラスはどうなるかなーっと」

 「あぁ、そういう事か。どんなクラスになるかな」

 「そうだなぁ、恭平とは同じクラスになりたくねぇな」

 あいつ、絶対うるさそうだし。現に一年の頃めっちゃうるさかったし。


 「私は…また英雄と同じクラスがいいな」

 少し溜めてから、照れつつ答える沙希。


 「そうだな。哲也と俺と沙希、またみんなで一緒のクラスになりたいな」

 「そうね」

 なんて会話をしながら登校する。



 山田高校に到着した。正門そばの掲示板は二年生のクラス。三年生のクラスが張り出されているのは昇降口のほうの掲示板だ。

 そしてクラスが書かれたプリントが張り出されている掲示板前に到着する。人が多すぎる。

 そんな雑多する人々をかき分けて、俺はクラスが書かれたプリント前へと到着する。


 最初に名前を見つけたのは哲也。A組だ。

 この他にA組は、大輔と鉄平がいる。

 それに大輔の彼女さんもA組だ。良かったな大輔!


 続いてB組。

 誉と岡倉の名前が並んで発見される。

 百合の名前もあった。


 C組は龍ヶ崎と中村っちの名前を見つける。

 ここにも俺の名前がない。


 続いてD組。

 恭平の名前を最初に見つけて、その下に「佐倉英雄」という名前があった。


 「マジかよ…」

 一年生の時と同じく、あいつが前の席なのかよ。

 嘘だろ…スゲェ嫌なんだけど。

 絶対あいつ授業中下ネタの話題提供してくるじゃん。面倒くさいにも程があるだろ。


 「うわっ…」

 しかも俺の後ろの席須田やんけ。

 なんで須田と三年連続同じクラスなんだよ。一体あいつとなんの因果があるんだ俺。

 前門の恭平、後門の須田とか、最強の布陣過ぎんだろう。


 大体、問題児の俺と恭平を揃えるとか、教師は真面目にクラス割り考えたのかよ?


 女子では鵡川と沙希が同じクラス。

 これは恭平の下ネタ話で俺まで評価下がる未来が見えるぞ。


 「よっし! 英雄と同じクラス!」

 隣で沙希が嬉しそうにガッツポーズしている。

 お前、哲也と別のクラスなのに何喜んでんねん。



 「きたな! 我が友!」

 教室に入るなり、早速恭平が声を張り上げた。


 「まさか最後の一年、お前と同じクラスになるとはな」

 「それだけ俺たちの心が通じ合ってるって証拠だ! よろしくな!」

 恭平が満面の笑みを浮かべる。

 うん、こいつとは別のクラスが良かった。さすがに毎日このテンションは疲れる。一年の時はまったく疲れなかったのにな。年老いたな俺。


 椅子に座り、恭平と雑談していると背中を撫でられた。


 「ひっ!」

 思わず悲鳴をあげて振り返る。

 覚醒状態の須田が俺を見ている。


 「英雄君。今年もよろしくね!」

 ニコッと笑う須田。怖い、怖いよマジで。

 ってかバレンタインデーでこいつからの本命チョコもらってから、避けてたのに、なんで後ろの席になるんだ。

 マジで怖いんだけど、授業中なんかされそうで怖いんだけど…!


 「お、おぅ…何もするなよ須田」

 「うん! 人前では何もしないよ!」

 人前じゃなきゃ何かするのかお前。

 なんだこの布陣。今年一年ゆっくりできない気がする。



 校内アナウンスで体育館へと向かい、まずは始業式をおこなう。

 そうして担任発表がおこなわれた。

 A組、B組、C組とクラスの担任と副担任が発表されている。


 そしてD組。我がクラスの担任は、佐和ちゃんになった。

 なるほど、道理で俺と恭平の問題児を同じクラスにしたわけだ。さすがに佐和ちゃんの前では騒げない。



 そうして始業式終了後、一度クラスに戻り担任佐和ちゃんの言葉を聞く。


 「えぇー、ついにお前らも最上級生だ! この中には、今年で学生生活が終わる奴らもいる。最後の一年間、就職活動もあるが、しっかりと楽しめよ!」

 普通の先生らしい事を言う佐和ちゃん。

 なんという普通さだ。もっとこう「俺のクラスで問題起こした生徒は見せしめとして、クラスメイト全員に見られる中でスーパーミラクルハイパー佐和スペシャルを受ける義務があります」とか言うと思ってた。


 「あっ! ちなみに英雄と恭平は、定期テストで、1教科でも赤点だったら、俺と楽しい練習が待ってるぞ!」

 そう付け足す佐和ちゃんの地獄の一言。うん、やっぱり佐和ちゃんはこう来ないとな。

 楽しい練習とはつまり「スーパーミラクルハイパー佐和スペシャルDX版」の事だ。

 恭平が二度目のスーパーミラクルハイパー佐和スペシャルを楽々と乗り越えた事で、佐和ちゃんがさらなる改良を施した練習らしい。

 楽しくも無ければ、練習の次元を越すものである。

 まぁ要するに一年間、必死に勉強しないと俺が殺されると言う事だ。


 「佐和先生! 安心してください! 俺は赤点になりません! 後ろの馬鹿は知りませんけどぉ?」

 恭平がなんか言ってる。

 二度目のスーパーミラクルハイパー佐和スペシャル受けてる癖に何言ってんだお前。



 さて、次は入学式だ。

 俺にとって高校に上がって三度目の入学式参加となる。

 一度目は新入生として、二度目は二年生の頃、そして三度目は今日。

 正直、三回もやれば飽きてしまう。みんなもそうだろう。俺なんか一回目で飽きていたしな。


 ≪新入生式辞、新入生代表佐倉恵那さん≫

 式は順調に進み、新入生代表となった恵那が階段を上り壇上へ。

 なんだあの美少女は!? 我が妹ながら惚れ惚れしちまうぜ! 恵那、今のお前は最高に輝いてるぞ!


 「英雄、あの恵那って子。お前の妹?」

 右隣の座席に座る恭平が小声で聞いてきた。


 「イエス。最高に可愛いだろ?」

 「ここからじゃ、総評できんが、スタイルはイマイチだが、良い感じだな」

 なんかこいつに妹を視姦された気分になり、妹が褒められてるのに素直に喜べなかった。


 「英雄君に似て可愛いね」

 左隣の須田がなんか言っているが無視だ。

 大体、なんで俺に似てって言葉が出るんだよ。おかしいだろう。


 そういえば、俺たちの学年の新入生代表は鵡川だったな。

 彼女の壇上でのスピーチの時はマジで全員が惹き込まれ、スピーチ終了後に拍手喝采が起きていたっけか。鵡川伝説の一つだ。


 そうして入学式も終わりを告げて、教室に戻り、今日は終了となった。



 さて放課後。新たなクラスで友人達と会話をする俺。

 恭平はすでに、全クラスの女子のレベルを数値化する作業をしている。こういうところは一年生のころから変わってないな。


 「あっ佐倉君。今年はよろしくね!」

 ここで鵡川が話しかけてくる。


 「おぉ鵡川! 今年も勉強教えてくれると嬉しいなぁ」

 「うん良いよ!」

 そうニコッと笑う鵡川。やべぇ! 笑顔が眩しすぎる!

 沙希からなんか視線を感じるが無視しておこう。



 さて、新学期が始まり、俺達の気分はハイになる中で、県大会に向けての練習が始まっている。

 すでに地区予選は始まっており、4月18日には、県大会出場校が全て出揃うわけだ。


 んで県大会のシード校は以下の高校だ。

 秋の県大会を制した理大付属。選抜では一勝している。目立った選手こそいないが、地味ながらも堅実なゲーム運びで勝利をものにする。

 続いて準優勝の斎京学館。夏の県王者であり、当時の主力だった四番良ちんとエース川端を軸に横綱野球を展開する。

 三位の城東。昨夏俺たちを苦しめたピッチャー佐山がエースナンバーをつけており、守り勝つ野球で勝利を重ねているそうな。

 四位の丸野(まるの)。エース岡野は県屈指の好投手。その他打撃力が売り。

 ここまでがベスト4になっている学校。

 続いてベスト8の4校。


 まずは酒敷商業。斎京学館、丸野港南と共にここ数年は県王者の座を奪い合う三強の一角。秋は絶対的エース戸村の不在で精彩を欠いたが、ひと冬越してだいぶ力を蓄えている模様。

 続いて関東学園。秋の大会では斎京学館エース川端に1得点で抑え込まれたが、一番の売りは打撃力。ひと冬かけて打撃を徹底的に鍛えたらしい。

 次は丘城東工業。去年の10月頃に我が校と練習試合をしているチーム。毎年県ベスト8ぐらいのチームを作り上げるが、その上を中々行けない。三強が台頭する以前は県の絶対王者だったはずだ。

 そして最後に我が山田高校となる。


 以上8校が春の県大会シード校だ。

 シード校を確認しただけで、油断なんて出来ない相手ばかりだが、今の俺には自信と実績がある。

 それを精神的主柱にして、なんとか投げ抜こう。


 まずは一勝し夏のシード権獲得からの、県大会優勝、そして地方大会優勝だ。

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