8話 なんて事のない日常は続く
夢と言うのは素晴らしいものだ。
現実で叶わない事が何でも叶う。
例えば現実では叶えられないほどの食べ物を食べれるとか、現実では叶えられないほどの美人と付き合ったりとか。
とにかく夢で叶わない出来事は無いだろう。
だが夢は寝て見るものだ。起きていて見る夢は儚い。だから夢は寝てみるものなのである。
そういうわけでおはようございます。
今起きたばかりなのだが、さっきまで見ていた夢が最悪なわけで朝からダルかった。
夢の内容をまとめるとこんな感じだ。
「むっつりスケベで定評のある野上」こと哲也が遂に覚醒し、開放的な変態になる。
「英雄! このビデオいいよぉ! 一緒に見ようよぉ!」とハードな性癖物のビデオをもって追いかけられ、最後に捕まり縄で縛られた後に延々とハードな性癖物のビデオを見させられる。
そこまでならまぁ許容範囲……いや許容の範囲から外れる内容ではあったが、問題はそこからだ。
「次もいいよぉ!」なんて言いながら見せたものは、中学の準々決勝の出来事だ。
そう、あの日の敗北だ。一気に恐怖心や絶望感が俺に絡みつき「やめろ!」という情けない悲鳴は届かず、鳥肌が一気に立ちあがるあの気持ち悪い感覚にさいなまれた。
先ほどまでそばにいた哲也の表情は、あの日見た呆然とした顔。それがたまらなく俺の感情を凍り付かせたところで、身体は真っ暗な闇の中に飲み込まれて、汗ダラダラになりながら目を覚ました。
上体を起こしたままの俺は汗をぬぐう。
とんでもない搦め手であの悪夢を見させられた。
あの日の敗北からよくあの日の悪夢を見て起こされる事は何度もあったが、このタイプは初めてだ。
「クソが」
前半のハード性癖を見せる哲也の姿も相まって不快感はマックスだ。
俺は夢でさえ楽しませてくれないのか。
昼休み。正直、哲也とあまり会話したくない。だが恭平や大輔が居るので馬鹿話にしてしまおう。
「なぁ哲也。お前、いつもむっつりだよなぁ~」
「どうしたの急に」
急に話題を振られた哲也は戸惑っている。
「恭平や英雄がおかしいだけだよ」
「何だと哲也! お前は女体に秘められた美とミステリーを感じ取れんのか!! 愚か者がぁ!!!」
「恭平騒ぐな。ここはお前のクラスじゃないんだからな」
俺が恭平をなだめる。お前が騒ぐたびに俺の評判まで巻き込んで落ちるんだからな? そこんところ分かってるか? まったくこいつは。
恭平は無駄にエロを重んじる変態だ。こいつからエロを引き抜いたら残るのは何も無いと言っても過言ではない。だが、これがこいつの良さでもあるんだけども。
俺たちがエロ談義に花を咲かせる中、大輔は二段で出来た巨大な弁当箱を無心で頬張る。毎日の景色だ。こいつの弁当は毎回デカイ。その上で購買とか食堂に行ったりするから、マジでこいつの胃袋どうなってんの? こいつから食を引き抜いたら、何も残らな……いや、人並外れたパワーも残るか。
「まぁそれでだな。今日俺が見た夢で哲也のエロが覚醒されたわけだ」
「なるほど。確かに哲也のエロス面が覚醒されたらどうなるか分からないな。もしかしたら街一個破壊するかもしれない」
エロが覚醒しただけで、街一個破壊するってどんな状況だよ。
「んでな。俺……哲也に……ハードなビデオ延々と見せられた……まさか哲也に……あんな趣味があったなんて……!」
乙女のように顔を覆ってみせる。後半の夢の話はしない。そっちは冗談にならんからな。
「やっぱりかぁ!」
恭平は嬉しそうに笑顔になった。ちょっと待て、やっぱりってなんだその反応は。
「そんな趣味ないよ!」
哲也が顔を真っ赤にして否定。
あまり大袈裟に否定すると信ぴょう性高くなるぞ哲也?
「哲也! 隠すな! どんな性癖でも俺の家には揃ってあるからな。安心しろ!」
そういってグッジョブマークの右手を哲也に向ける恭平。
「ちなみにこのハンドサイン、海外によっては性的な意味があるらしい。そう考えると女子がやってるのを見ると……興奮するな!!」
突如恭平が興奮しだした。そこから興奮しだすのはさすがの俺も想定外だ。
それを見て動揺しつつも呆れる哲也と、大輔は「やはり塩鮭は美味い」と呟きながら無心で飯を食す。他クラスだってのに一人大暴れする恭平。
相変わらずの昼休みの光景で俺はホッと一安心をつく。この景色を見て、だいぶ夢の後半の不快感が薄まった気がした。
そうして放課後。
まだまだ朝見た悪夢は尾ひれを引いていて、グラウンドへと向かう俺の足取りはかなり重い。やっぱり野球戻るのやめたほうがいいのではないか? そんな気分にすらなる。
そんな陰鬱な俺の気分とは裏腹に、今日も空はウザいぐらいに晴れている。ニュースの天気予報で梅雨の後半は空梅雨になると言っていたのを思い出した。
グラウンドでは岡倉がホースで水をまいている。俺はそれを見るわけだが、岡倉のホースさばきはイマイチだ。
「岡倉。駄目だぞ!」
「えっ!? なにが英ちゃん!?」
「貸せぇ! 本当の水まきを教えてやる!!」
ってなわけで、乱暴に岡倉の手からホースを奪い取り、水をまき始める。中学時代は「水撒きの英雄」と言われたほどの水撒き技術を誇る。
「こう水溜まりが出来ちゃいけない。それからあまりかけすぎるのも良くないんだ。練習始まる頃に少し湿ってる程度で良いんだ。アーユーオーケー?」
「う、うん」
「まったくマネージャー歴何年だ! 精進が足りんな!」
なんて事を冗談交じりで会話する俺と岡倉。そろそろオーケーだと思い俺はホースの水を止めるように岡倉に頼む。数十秒後水はしっかりと止まった。
岡倉は驚いた表情を浮かべている。まぁなぁ俺ほどの水撒き技術以上の実力者は、世界でも32億と48万2945人ぐらいだろうか? 自慢するほどの技術でもないな。
「英ちゃん凄い上手だね! いっそのことマネージャーになっちゃう?」
「ふふ、自ら厄介に関わる性癖はないからお断りする」
「厄介? うーん……なに?」
不思議そうに首をかしげる岡倉。厄介とは今俺の目の前でぽわぽわした笑顔を浮かべてるお前だよ。
マネージャーになったら絶対こいつの起こしたトラブルの尻拭い役になるだろう。それはさすがに嫌すぎる。
「おぅい集合だぁ」
ここで佐和先生が集合をかけるので、部員と助っ人一同はベンチ前に集まる。
佐和先生の手には背番号。隣では温和な表情を浮かべているスーツ姿の佐伯っちも立っている。
「そんじゃあ適当に背番号渡してくぞぉ」
本来なら背番号発表って緊張走るもののはずなんだがな。
気の抜けた佐和先生の声では気を引き締めようにも引き締まらない。いや、部員8人、助っ人加えてもベンチ入りの最高人数未満だから、緊張なんてするはずがないか。
「一番は龍ヶ崎な。二番は哲也。三番は大輔。四番恭平。五番須田。六番大樹。七番榛名。八番耕平。九番が英雄な」
「意義あり!!」
「お前の意見は通らないから」
なんだと!? 俺の意見が通らないだと!?
「十番は……」
そして佐和先生の口から二桁背番号の面々の名前もあがり手渡されていく。
受け取った背番号9を凝視してから、今度は佐和に向ける。背番号9は嫌だと言う感情をこめにこめた熱烈な視線を佐和に送り続けるも、これを佐和は無視する。これだから鈍感な男は嫌いなのよ。
「それじゃあ適当に練習始めろぉ」
結局最後まで佐和は俺の視線に気づくことなく、あるいは視線を無視して、練習開始を指示してあくびを掻いた。本当に勝つ気があるのかこいつ?
答えはNOだ。勝ちたいなら俺を二桁の背番号にするはずだ。
そんな感じで今日も適当に練習を始める一同。何か嬉しくない背番号をベンチに置き、外野と言う事で耕平君とキャッチボールをこなす。
時刻は6時を迎えたところで練習終了。
なんだか物足りない練習を終え、少々不満を抱きながら俺は帰るわけだが、今日の朝の夢を思い出す。
今日はマウンドに上がらなくていいか。あと哲也とは帰りたくないので、部室で素早くジャージ姿から制服に着替えて足早に後にした。
やはりこの学校の練習は面白くも何ともない。明日辺り佐和先生に言って辞退するか。
「あれぇ? 英ちゃんじゃん! 野上くん達と帰らないの?」
ふと後ろから声を掛けられ、振り向くと自転車にまたがっている岡倉と遭遇する。
俺は「よっ」とだけ挨拶を交わして、別れようとするも、岡倉は自転車から降りて俺と並んで歩き始めた。
なんだこいつ。嫌なんだけど、岡倉と一緒に帰るとか嫌なんだけど。
絶対知能指数低下するじゃん。家につくころは幼稚園児みたいな知能になってないか俺?
「そういえば英ちゃん背番号9だよね?」
「ですね」
「英ちゃんって野球できるの?」
「出来ないのに背番号9だよ。どうしてくれようか…」
帰り道を岡倉と雑談しながら歩く。
そういえば俺、今女の子と二人きりで帰ってるんだよなぁ。まさか二年生になって最初に並んで帰る女が岡倉とか……嬉しくない。
ちなみに沙希は除外だ。あいつは女として認めないようにしている。
「そういえば大会初戦の翌日には球技大会だよね」
なんだってぇ!? 驚きの新事実なんですけど。
そういえば俺、ロングホームルームの時間に寝てたな。それで知らなかったわけか。
「それで英ちゃんは何に出るの?」
「…………知らん」
「へっ?」
岡倉が俺の顔を覗き込んでいる。そして顔がポカンとしている。まぁ無理もない。
たぶん今日中には種目を決めないといけない球技大会で、出る種目を知らないなんていう奴は居ないからな。
「英雄は野球だよ」
ふと横から声をかけられられたと思うと、我が宿敵の山口沙希がいた。
顔だけをこちらに向ける沙希。不機嫌そうだ。
「なんでやねん!」
「あんたが寝てるから、みんなが野球部の助っ人に行ったし野球でいいだろうって言って決めたの。まぁ英雄なら別に平気でしょ?」
「平気じゃないのが男心だ。俺は水泳が良かった!!」
理由はもちろん女の水着を見るためだ。
だが理由を口にしたら間違いなくドン引きされるのは口にはしない。俺は男女問わず下ネタから会話を始める恭平とは違う。
「球技大会で何で水泳が出てくるのよ」
「えっと……英ちゃんの友達?」
岡倉が不思議そうに聞いてくる。そういえば岡倉は沙希の事を知らないんだな。
哲也が女子と親しく話すなんて沙希ぐらいだし、哲也から岡倉に沙希の情報が流れることもないだろう。
しょうがないにゃあ、俺が自己紹介させておくか。
「あぁ。こいつは山口沙希。中学時代からのセフレだ!」
刹那、腹部に鋭利な刃物で突き刺されたような激痛が、全身を駆け巡り脳裏に響く。
呼吸が出来ない。苦しみにもがき、情けない声をあげたと思う。あやふやな答えは聴覚が機能していないからなのか、自分の声が出なかったからなのか。
嘔吐物よりもおぞましい何かが、俺の喉へとせりあがってきたが、かろうじて残っていた神経で、外部への流出を防ぐ。
なぜ? なぜこんな状況になった? バラバラになった思考で考える。
俺は目にも止まらぬ速さで、腹部を穿ち抜かれのだ。拳と言う名の凶器に。
目の前に立つのは、仕留めた女が立つ。
ぬかった……! ここまで奴が……強いとは……!!
地面にうずくまり、声を絞り出す。
「見事だ山口沙希……。お前を佐倉神拳の継承者として認めよう」
腹部を右手で押さえ、ヨロヨロと立ち上がりながら、次の世代へと継承する。
もう俺の役目は終わった。あとは死が俺を蝕むまで、ゆっくりとした時間をすごすだけだ。
「そんなのいらないわよ!!!! そんなことより、何であんたの体の友達にならないといけないのよ!!!!」
「体の友達じゃないぞ沙希……。セフレ……セックスフレンドは性行為の友…ぐほぁ!!!」
俺が言い終わる前に、沙希の鋭いアッパーが顎に命中し、俺は思わず地面に倒れた。こころなしか、数mぐらい飛ばされた気がする。
地面に倒れながら空を見上げる。空は目に滲むぐらいの青が広がる。
あぁ……。これが己よりも強い奴に敗れる完敗って奴か。確かに……悔しいなぁ……。
「えっと……英ちゃん? セックスフレンドって、何?」
そんな中で、岡倉は実に純真無垢な質問をしてきた。何この子、ピュアすぎるよ。
だがこれは好機! と意気込み立ち上がる。岡倉に説明するのは後だ!
「沙希。彼女はセフレの意味を知らないようだぁ。なのにお前は何で知っている? それはなぁ……お前が淫乱だからだ! この淫乱娘! メス豚!! 泥棒猫!!!」
沙希を指差しいじめてみる。沙希は「むっ……」となどと呟きながら、頬を赤らめている。
「うるさい! もう英雄なんて水まいているホースに水掛けられて、油断している内にトラックではねられて、何故か偶然開いているマンホールの中に落っこちて死んじゃえ!」
なんだその意味不明な捨て台詞は?
沙希はそれだけを吐き捨てて、全速力でその場を立ち去った。
「ねぇ英ちゃんってば! セフレって何?」
沙希が立ち去った後も、岡倉は俺に同じ質問していた。
俺は「お前が知って良い事ではない。忘れろ」とだけ言って、二人並んで帰宅した。
そんなわけで色々あったが帰宅。岡倉とは途中で別れている。
家に居るのは、俺と母上とダブル妹。親父は残業だろうか? もしそうなら、帰るのは遅いかもな。兄貴は部活が終わってからだから、こちらは間違いなく遅い帰りになるだろう。
ちなみに我が家の家族構成は、両親、兄、拙者、妹A、妹Bの6人家族と結構な所帯だ。
「おかえりなさい英雄」
リビングに入ると、キッチンで料理を作ってる母上が声をかけてくる。
今日の夕飯はなんだろうか? 揚げ物をしているっぽいな。
「ただいま。晩飯はなに?」
「トンカツ」
挨拶を終えた母上は、すぐに鍋のほうへと視線を向けていた。
母上の本名は佐倉由美と言う。元陸上選手で旧姓は鳴坂。
母はかつて、将来有望と評価されるほどのスプリンターで、オリンピックの候補選手として最終選考まで残ったことがあるほど将来を期待されていたのだが、親父と結婚して引退した。
料理の腕はそこらの料理人に負けないと自負しているが、味はカレー以外は微妙。そのカレーも作るのが面倒だからと月1なのだけど。
最近パンを手作りする事にはまっている。これがクソマズい。
「親父は?」
「お父さんなら、今さっき電話あって、もうすぐ帰るって」
残業じゃなかったのか。意外だな。
親父は元高校野球児。高校野球通のおじ様方なら、必ず知っていると言っていいほどの選手らしく、野球の名門高校で四番を打って甲子園出場し優勝。
同世代にはプロでも活躍した選手がたくさんいるなかで、当時はナンバー1スラッガーと評価されていたらしい。
当然プロからも勧誘されたが、高校では出来なかった青春を大学で楽しみたいと言う馬鹿げた理由で、プロ野球を断り、大学では硬式野球部が無い大学に進学。
落語研究部と言う、野球とはまったく無縁な部活に入部する。
現在では、市役所に勤務する地方公務員だが、親父曰く「平凡が一番。大事なのは知り合いの数だ」らしい。
そんな親父に感化され、俺も知り合いは多く作っているほうだし、トラウマでマウンドに上がれなくなった時、比較的容易に野球から離れられたのだと思う。
親父の本名は佐倉和樹という。
「そうだ英雄! 博道に帰りソース買ってくるように連絡しといて」
今思い出したといった感じで、こっちへと視線を向ける母上。
俺は「あいよ」とだけ返事をして、スマートフォンを取り出した。
博道とは俺の兄貴だ。兄貴は現在、隣町にある私立大学に通う20歳だ。
俺や親父と違って野球は小学生の頃までしかやっておらず、中学からはずっと剣道部だったりする。
実力はと言うと元プロ注目打者の親父と、世間から注目を集めた陸上選手の母上から生まれた小童だ。運動神経は抜群だ。
高校時代に全国大会を制覇し、剣道で有名な名門の大学に入学している。二年生で既に部のエースを勤めている。
佐倉博道。将来、日本の剣道を引っ張るエースになると思われる。
「あと英雄、着替え終わったら、ちょっと手伝ってよ」
「はぁ? 俺は部活やって疲れてるんですけどぉ?」
なに言ってんだ、この母親は。
「部活っていっても、どーせ助っ人でしょ? 少しぐらい良いじゃない。減るもんなんてないでしょう?」
体力が減ります。
「嫌だよ! 千春にやらしとけよ。どーせ暇してんだろうし」
「千春は今反抗期なのよ? 分かってる?」
反抗期だからって、最初から諦めちゃ駄目だと思いますよ母上。
ってか、俺が反抗期だった時バリバリ干渉してきただろうが。
続いて俺の妹がこんなに可愛くないわけがない妹A。同じ高校に通う後輩佐倉千春だ。
上の兄二人につられて運動部に入部。はっきり言うと、我が家で一番運動神経は無いと思う。
ただ周囲に比べれば、やはり運動センスがあるようで、中学三年生の時は女子テニス部のエースとして県大会に出場しており、山田高校でも一年生ながらすでにエース候補になっているという実力者。
だが残念な事に、ホモの須田に片思いを抱いている。あぁお兄ちゃん悲しいよ……。
「じゃあ恵那は?」
「恵那は今年受験生よ。わずらわせちゃ駄目でしょう?」
恵那は自分の学力より明らかに下の学校に行こうとしてるんだし、別に働かせてもよろしいのではないでしょうか?
もう一人の妹、妹Bの佐倉恵那だ。
千春の一つ下。つまり現在中学三年生。凄く良い子だ。勉強熱心で真面目。なおかつ運動神経も十分。
しかも家族思いで、勉強やスポーツが出来るのに、来年は俺や千春と同じ山田高校に進学するつもりらしい。本当可愛い妹だ。
ちなみに部活は母と同じ陸上部。県内屈指のスプリンターと評判で、これからを期待されるスプリンターだが、山田高校は陸上部がそもそも活動しているのか不明だ。
こんなクソみたいな学校に恵那を進学させるのは忍びないのだが、どうしても俺や千春と同じ学校に通いたいらしいので、すでに説得は諦めている。
「わーったよ! 俺がやりゃ良いんだろう?」
結局、俺が手伝うことにした。
ここで抗ったとしても母が折れることはないと知っているからだ。
そんで最後に俺、佐倉英雄。
幼少期に親父の部屋にあった野球ボールを触り始め、それから野球を始める。リトルリーグでは全国優勝し、日本選抜にも選ばれた実力者だ。
中学時代は県大会ベスト4。中学の監督からは「怪物左腕の名に相応しい」とまで言われたほどの才能を持ち、その実績から高校では帰宅部のエースとして連日大車輪の活躍をする日々を送っている。
しかも俺の凄いところは、野球以外でも何だかんだ得意だ。
俺がまだ中学生の頃、当時はまだ陸上部が無く、陸上の学総体では運動部と言うことで、名指しで指名され仕方なく出るも、見事県大会三位になった。
また小学生の頃に出た市のマラソン大会では、2位以下を大きく引き離し、堂々の1位を取っている。
中学の授業でやった剣道では、剣道部を打ち負かし、高校の柔道では親父が柔道二段の柔道部員を倒したほどだ。
俺は佐倉英雄をこう呼ぶ……天才だと……!
まぁそんな感じのスポーツ一家だが、楽しかったりするわけで。
思春期で親と喧嘩した事も無かったりする。だが一人暮らししたいわけで。
なんだかんだ楽しい毎日を過ごしている。