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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
4章 春はまだ遠く
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86話

 放課後、千春に言われたとおり、彼女の教室へ。

 そこで美咲ちゃんからチョコをもらう。


 「これからもよろしくお願いします!」

 「おぉ、こちらこそよろしく」

 そういって頭を下げる美咲ちゃん。

 相変わらず健気で良い子だ。頭を撫で撫でしてあげたい。さすがにセクハラになりそうなのでしないけど。


 という事で、練習へと向かう。



 「あ! いた!」

 昇降口で今度は百合に見つかった。


 「やぁ」

 「やぁ! じゃなくて! あの…」

 ここで百合がもじもじし始めた。

 なんで俺の前だと、みんなもじもじするのだろう? 俺がイケメンすぎるからか? それとも俺を見るとトイレに行きたくなるのだろうか? 俺は便座に見えるのだろうか?


 「これ」

 そういって百合が手渡してきたのは、透明な袋に包まれたクッキーだ。


 「おぉサンキュー」

 「…義理だから」

 顔を赤くしながら、そっぽ向いて言う百合。

 お前、そういう態度されると義理だと思えなくなるんだけど。


 「そっか。ありがとう」

 「ううん、その…野球のほうで余裕ができたら、一緒に遊ぼうね」

 「そうだな。考えとくよ」

 せっかく下の名前で呼び合うほど仲良くなったし、一度くらいは遊ばないとな。



 部活が始まり、今日も一日滞りなく練習を終える。


 「みんなぁ! ちゅうもーく!」

 練習が終わるや否や、岡倉が声を張り上げた。


 「今日はバレンタインデーという事で! わたし、手作りチョコ作ってきました!」

 元気な声で宣言する岡倉。

 自然と部員たちから歓声が上がった。

 よくやった岡倉。今のお前、最高に女子マネやってるぞ。


 「今から配るので、しっかり味わってね!」

 という事で岡倉が一人一人、部員たちにチョコレートを渡していく。

 どうやら、全員分あるらしい。佐和ちゃんや佐伯っちにもプレゼントしていく。


 「はい榛名君!」

 「ありがとうございます!」

 そう最後に亮輔に渡し終えた岡倉。


 …あれ? 俺の分は(・ω・`)?


 「恭平君は休みだし…。そうだ! 達也君あげる!」

 「……あぁ、悪いな」

 龍ヶ崎が照れながらも、恭平の分をもらっている。

 岡倉、俺の分はどうした?


 「全員分作るの大変だったよぉ」

 などと笑顔になりながらグラウンド整備に向かう岡倉。

 チョコをもらった一同もニコニコと笑いながら、グラウンド整備を始める。

 だから俺の分は? え? なに? この疎外感?



 みんなが岡倉のチョコレートの話題で盛り上がる中で、1人虚しくグラウンドを整備する俺。

 これはもしかして、岡倉のイジメか? くそっ! 女のイジメはえげつないと聞いたが、ここまでえげつないとは。

 俺が一体、岡倉に何をしたって言うんだよ…。

 思い当り節なんてな…


 …………。


 …うん、後で岡倉に謝っておこう。



 「英ちゃん」

 っと思ったら岡倉が近づいてきた。

 口元がほのかに笑っている。こいつ、ぼっちになってる俺を見て笑ってやがる。えげつない性格をしているな。デビル岡倉か。


 「英ちゃんはあとであげるから」

 小声で一言伝えて、俺の下から離れる岡倉。

 なんで俺だけ、あとでなの?



 グラウンド整備も終わり、部室に戻る。

 んで一同、部室に戻るなり、早速岡倉の作ったチョコレートを食べ始める。

 みんな食べる前は笑顔だったのに、一口二口と咀嚼していくたびに表情が暗くなっていく。一体どういうことだ。

 そうして、それぞれが感想を口にし始める。


 「ある意味凄い」

 「何故チョコを食べているのに口の中が辛いのか?」

 「何故だろう? 目が痛い。泣けてくる」

 「うん、これは凄い」

 みな口にするたびに、首を傾げ、表情を暗くさせ、中には吐き捨てる奴まで現れた。

 なんだろう。これから貰うと言うのに、凄く欲しくない。マジでいらない。


 「…俺は嫌いじゃないけどな」

 ぼそりと呟く龍ヶ崎。

 お前、絶対岡倉の手作りだからそう言っただろう。

 ちなみに岡倉大好きの鉄平は、口にするなり「ゴフッ!」と咳こんで、部室から出て吐き捨てていた。愛が足りないな鉄平。龍ヶ崎を見習え。



 そうして部室を後にした俺ら。岡倉もまじって、一同で帰宅。

 未だに岡倉のチョコを貰えない俺。でもこのまま貰えなくても良い気がする。


 電車組の哲也、大輔、龍ヶ崎、耕平君、中村っち、鉄平、西岡と別れ、徒歩組の誉、亮輔、岡倉の3人と帰る。

 ちなみに片井君は、駅に向かう途中に家があるので、すでにさようならしている。


 県道沿いを少し歩くと、亮輔と誉と別れる。

 なので、いつも岡倉と二人になるわけだが。

 二人と分かれてから、数分で俺の家に到着する。



 んで、何故か家の前に到着したら、沙希と鵡川が居る。

 なにこの状況? 俺の家って待ち合わせしやすい目印でもあったっけ?

 しかも沙希と鵡川が岡倉を見ている。何? お前ら実は知り合いだったん?


 「あれ? 沙希と鵡川じゃん。なんで家の前にいるんだ? もしかして誰かと待ち合わせかな? あははは…」

 「………」

 んで俺が無理してテンション上げて声をかけたら、沙希と鵡川は二人で俺の顔を見てくる。

 両者ともに無表情でこっちを見てくるため、乾いた笑いを浮かべながら硬直する。

 なんだこの状況。帰りたい…早く家に帰りたい。なのに帰れない。あと数mしかないのに、玄関が遠いよぉ…。

 岡倉は岡倉で、沙希と鵡川をジッと見ている。


 「そうだ英ちゃん。はい! チョコレート」

 っと思ったら急に笑顔で渡す岡倉。

 これが部員どもを唸らせたチョコレートか。部員たちに渡していたチョコよりも明らか量が多い。いらない。こんなにいらない。


 「おぅワリィな」

 さすがにいらないと言うのは失礼なので素直に受け取る。


 「それじゃあね!」

 「おぅ」

 自転車にまたがる岡倉に別れを告げる。

 心なしか、彼女らの横を通り過ぎる岡倉が、二人を見ていた気がする。

 なんなんだ一体?


 「それでお前ら、なんのようだ?」

 「…チョコレート」

 「はい?」

 視線を逸らして、沙希は何かを呟いた。

 思わず聞き返していた。


 「…はい! チョコレート!」

 勢い良くチョコを手渡される。その威圧におされ、思わず貰ってしまった。

 しまった! ホワイトデーで俺が金欠になってしまう! ただでさえ去年の沙希の誕生日パーティー、鵡川のお財布体験をして、金欠気味だというのに! トドメを刺されてしまう…。


 「勘違いしないでよね。どーせ英雄は、チョコレートなんかもらえないと思って、仕方なく作ったんだから!!」

 なんだ、そのツンデレの定型文は?

 電灯に照らされる沙希の頬が赤く見えた。


 「じゃあね!」

 そういって沙希はそそくさと俺の目の前から消える。続いて鵡川が俺の前に。


 「あ、佐倉君。私はチョコじゃなくて、クッキー。佐倉君、甘いもの苦手だって前に言ってたから」

 「おぅ覚えてたのか。サンキュー」

 正直チョコよりクッキーのほうが好きな俺。

 この鵡川のチョイスは見事だ。


 「ちなみに手作りなんだけど、味が合わなかったらごめんね。それじゃあ」

 そう言って、そそくさと沙希の後を追う鵡川。

 何が、どうして、どうなって、こうなった?


 俺は今、とんでもない修羅場に遭遇していた気がする。

 いや、深く考えないようにしよう。


 とにかく、いつまでも家の前で呆けるのはよくない。

 家に帰り、さっそく今日もらったチョコを食す。


 百合と美咲ちゃんからもらったクッキーとチョコを食べる。

 普通に美味かった。


 次に岡倉のチョコ。

 部員たちが口を揃えて凄いと言った最強のチョコレートを頬張る。


 「…これは」

 凄い。どういうことだ?

 甘味よりも辛味が強い。塩辛いのか? いやでも苦味も強烈だ。

 あいつ、どう錬成したんだ? マジで奇妙奇天烈な味だぞ。

 …これは一度じゃ食べきれない。一気食べたら、最悪死ぬかもしれん。


 続いて口直しのチョコという事で、料理が基本上手い沙希のチョコを選択する。

 去年の市販のチョコとは違い、手作りのようだ。

 なんか桃の形をしている不思議なチョコだったが、普通に美味しかった。

 さすが料理上手の沙希だ。菓子も得意なんだな。


 そして鵡川の奴。

 クッキーだったが、ベリーベリー美味い! 美味いのイングリッシュは知らね。

 マジで沙希と鵡川のおかげで、岡倉の錬成したチョコらしき物の口直しになった。


 最後に須田から貰ったチョコを手にする。

 それにしてもあいつ、良く自分宛てのチョコを俺にくれたな。性格完璧に見えて実は腹黒いところあるのかもな。

 箱を開ける。中には手紙が入っていた。


 うわ、須田宛ての手紙が入ったチョコを俺が今から食すとか、なんか罪悪感が半端ないんですけど…。

 とか思いながらも、ついつい手紙の内容を読んでしまう。


 拝啓、愛しの君へ。

 まず君を騙してしまった事を謝りたい。

 本当なら、自分の口で「本命のチョコだから受け取って欲しい」と言うべきだった。

 自分に自信がない僕は、騙すしかできなかった。ごめん。

 だけど、君への想いは本当だ。

 このチョコは義理チョコでも友チョコでもない。本命チョコだよ。

 今年もよろしくね。英雄君 須田柊より


 「…………」

 手紙を持つ手が震える。

 マジかよ。…マジかよ。…マジかよ!


 「マジかよぉ!!」

 手紙を投げ捨て、布団にくるまる。

 いや、怖い。怖いよ。怖すぎるよぉ!

 マジで須田なんなのあいつ? 怖いって、怖いって!!


 須田の本命チョコに、俺はこれから夜が明けるまで、布団にくるまって震えていたのだった。

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