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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
4章 春はまだ遠く
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78話

 沙希の誕生日パーティーから数日が経過し、今日は12月20日。

 クリスマスイブまで、今日も入れて、あと5日。

 二学期ももうすぐで終わり、今年もあと少しだ。


 ちなみに二学期期末テストは、無事赤点回避した。

 普段から沙希や哲也から借りたノートを真面目に写し、テスト前には鵡川とテスト勉強をしたおかげで、前回の中間テストよりも平均10点ほど点数が上がり、危なげもなくクリア。

 一方で恭平はまた数学で赤点を出した。スーパーミラクルハイパー佐和スペシャルをおこなう事が決まっている。佐和ちゃんからは「スーパーミラクルハイパー佐和スペシャルを二度受けた奴は過去にいないな。そんなに好きなのかお前」などと言われていた。


 さて、話を戻すが、もう少しでクリスマスだ。

 俺のクリスマスは、恭平が開催する「モテない男達の挽歌」に参加する羽目になった。ちなみに参加者は俺と恭平のみだ。

 哲也や誉はすでに家族と過ごす事に、龍ヶ崎は最初から無理、耕平君や亮輔は違う友達と、他の奴らも彼女やなにやらで忙しいらしい。

 このままだと男二人で、ショッピングモールに行くという最悪な展開が待ち受けている。



 「英ちゃん英ちゃん!」

 そんな20日の朝、いきなり岡倉が現れた。

 朝っぱらから岡倉のテンションを相手するとか嫌すぎるんだけど。しかもめっちゃくちゃニコニコしている。面倒くさい。


 「昨日は何の日でしょうか!」

 しかもクイズ出してきた。なんで昨日の日付のこと聞いてくるんだ。


 「サッカーのドルトムントが創設された日」

 野球の雑誌を読みながら、岡倉を見ずに答える。

 ドルトムントとはドイツにあるサッカークラブ。近年では日本人のプロサッカー選手が移籍したことでも有名なチームだ。


 「ぶっぶー! ヒント! 誰かの誕生日でーす!」

 「町田隆史(まちだたかし)の誕生日」

 町田隆史は男性俳優。テレビドラマによく出演している実力派の俳優である。


 ちなみに今俺が見ている野球雑誌は、月刊の高校野球の情報誌。

 注目選手や、各県、地方での大会成績、選抜出場校候補の紹介などが書いてある。

 おそらく高校野球の情報誌なら、一番の情報量だろう。

 今月は先月行われた明治神宮大会の結果や、注目選手などを取り上げている。


 「ざんねーん! さらにヒント! 女の子の誕生日です!」

 「田松彩美(たまつあやみ)の誕生日」

 こちらも最近ドラマに出ている女優の名前だ。

 サスペンスドラマで脇役とかでよく出演している。


 雑誌を見ながら、岡倉のクイズを適当に答えていく。

 明治神宮の優勝校は島根の浜野(はまの)高校。

 エース神田淳司(かんだあつし)は現役高校生では1、2を争うぐらいの好投手と言われており、早くも来年のドラフトで競合になるのではと囁かれている。


 そして準優勝校は神奈川の横浜翔星(よこはましょうせい)

 エースの箕輪大助(みのわだいすけ)と、四番の園田良太(そのだりょうた)はプロ注目の選手だ。


 「違いまーす! 最終ヒント! 目の前に居る人の誕生日だよ!」

 「へぇ~、箕輪って12月19日生まれなんだぁ」

 マジで箕輪のプロフィール確認したら、誕生日12月19日だった。ちょっと驚いた。


 「英ちゃん…酷い…」

 そう落ち込んだ声を出す岡倉。さすがにこれ以上いじめるのは可哀想か。

 俺は一度大きく息を吐いて、ポケットに入っている財布を取り出し、100円玉を岡倉の前においた。


 「下の自動販売機で、好きな飲み物、買ってこいよ」

 「これって誕生日プレゼント?」

 「まぁな」

 そう一言言って、俺はもう一度、雑誌へと視線を落とした。


 「ありがとう英ちゃん!!」

 そう嬉しそうに言いながら、教室から駆け足で出て行く。

 100円で喜ぶなんて、ガキかよ。

 なんて言いながらも、俺の口元はほころんでしまった。



 ちなみに下の自販機は120円からスタートする。



 さて、岡倉に誕生日プレゼントをせがまれた今日の四時間目の授業は、ロングホームルーム。

 今日は将来に向けて、就職か進学か等、進学するなら理系か文系か等々、二年生のうちに希望する就職先や希望する大学を決める授業だ。

 正直言うと面倒くさい。人生なんて何が起こるか分からないのに、なんで未来を決めないといけないんだ。未来はいつだって自由なんだ。

 そう思いながら、遠い目で窓から見える空を見つめる。


 「今日も良い天気だ」

 なんてことをつぶやきながら、前から回されたプリントを受け取り、一枚だけとって席替えで後ろの席になった誉へとプリントを回した。



 さて将来の夢、俺はすぐさま書いて終了。

 暇だったので後ろの席の誉の将来の夢を見る。


 「お前…夢がなさ過ぎるぞ…」

 誉の将来の夢は、県内の国立大学に進学後、地方公務員に就職するそうだ。

 なんとも夢が無い堅実すぎる将来である。


 「バカ野郎、俺たちもう高校生だぞ? 具体的な確実な将来を考えるの当然だろ?」

 「ふふっ、男はいつだって夢を抱くもんなんだぜ誉」

 「じゃあお前の将来ってなんだよ。見せてくれ」

 「オーケー」

 そういって俺は自分の書いたプリントを見せる。

 誉は俺のプリントを見て、一度固まり、そして笑い出した。なぜ笑うし。


 「はははは! いくらなんでも夢見すぎだろう!」

 誉の笑い声に、辺りの人たちが、俺のプリントを見ては、噴き出す。

 担任の熊殺しも気になったようで、俺のプリントを確認する。そして見るや否や、怒り出した。


 「佐倉! ふざけるな! なにが「甲子園優勝してプロで大活躍、そしてメジャーでは名を残す選手になる」だ! 小学生の将来の夢とは違うんだぞ!!」

 熊殺しが怒鳴ったせいで、クラスの全員の耳に入る。

 他の奴らも、小声で話しては嘲笑しているように見える。


 「書き直せ!」

 そういって、バンッと机に手を叩きつける熊殺し。思わず舌打ちをしてしまった。


 「面倒くせぇな」

 俺は頭を掻きながら、ゆっくりと立ち上がる。


 「これは自分の目指す将来を書くんだろう? だから書いたんだよ。来年の夏に、俺たち野球部は全国優勝する。んでもって、俺はプロ1位指名だ。そっからプロで大活躍! メジャーも夢じゃねぇ」

 そうジッと熊殺しを見つめる。いつの間にかクラスはシーンと静まりかえっていた。


 「…お前のたいそうな自信は分かった。だが、もうちょい現実味のある将来を書け。これは夢を書くものじゃない」

 「夢じゃないですよ先生。天才の俺が居れば、甲子園なんてあっという間ですよ」

 俺はしっかりと熊殺しに言った。

 天才の俺が居れば勝てる。大輔だって居る。哲也だって、誉だって、龍ヶ崎だって居る。負けるはずがない。いや、負けてたまるかよ。…あと恭平も追加しとくか。


 「………」

 熊殺しが黙ってしまった。俺は静かに椅子に座る。

 大口発言をしたからには実現しなければ、ただの嘲笑の的だ。男はいつだって逆境の中突き進むもんだぜ。



 四時間目の授業終了後の昼休み、哲也が俺を見てニコニコしている。気持ち悪い奴だ。


 「英雄! 一緒に甲子園に行こうね!」

 「あぁ…分かったよ」

 またか。さっきからずっとこの言葉を連呼する哲也。

 そんなに俺の宣言が嬉しかったらしい。


 「英雄! 一緒にエロ甲子園に行こうぜ!」

 「うるせぇ、てめぇは黙ってろ」

 恭平も、哲也の真似をするが、俺は騙されない。

 だいたいなんだ? エロ甲子園って? 意味がわからないにも程があるぞお前。


 しかし、大輔や哲也、恭平と野球が出来る事を感謝しながら、一日も長く野球が出来るように努力しよう。

 今はプロやメジャーとか考えず、まずは甲子園出場、全国制覇を目指して頑張らないとな。

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