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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
4章 春はまだ遠く
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76話

 「お~い沙希~」

 「…えっ? なに?」

 「どうしたの? ボーっとしてたけど」

 「ううん、なんでもない! それより楽しもう!」

 私は笑顔で、友達と話す。

 英雄が作った休日を、私は久しぶりに友達と過ごしている。

 現在は時刻は午後1時過ぎ、ショッピングして、ファミレスで昼ご飯を食べている途中だ。


 「しかし、まさか沙希から誘われるなんてねぇ~。ほらっ沙希って、家の事情でいつも無理だったじゃん」

 友人の湯之元里香(ゆのもとりか)が、そう言ってメロンソーダをストローで飲む。


 「今日は友達が代わりにやってくれるって言ってくれたからね」

 「へぇ~、奇特な人だねぇ」

 などと、同じく友人の柄本晴美(えもとはるみ)は言うと、スパゲティーを食べた。


 「まったく、何を考えてるか分からないのよねぇ。いつもは悪態付くのに、たまに優しくして…」

 思わず私は本音をこぼしてしまう。

 本当に、英雄の考えている事は分からない。


 「…その口振りからして、男だな?」

 そうニヤりと里香は笑い、椅子から身を乗り出す。


 「マジ!? 沙希にも遂に男が出来たん?」

 里香の一言に食いつく晴美。私は思わず顔が熱くなった。


 「えっ…えっと…違うから!」

 「嘘付かないの沙希ぃ。あんたは嘘を付けるような子じゃないでしょうが、さぁ里香姉さんにおはなし!」

 そう自信満々に話す里香は、今まで5、6人の男性と付き合っている。

 すでに初めての性行為も済ませており、私の友人の中で一番男性との交際経験が豊富だ。現在は彼氏募集中だったはず。


 「…でも、付き合ってるわけじゃないから」

 「なるほど、沙希の片思いか。こりゃあ面白くなってきたねぇ~」

 そう里香は嬉しそうに笑う。

 やはり女の子って恋愛の話が好きなんだろうな。私も現に好きだし。



 とりあえず里香に、英雄が好きだと話す。

 里香と晴美は英雄だと知っても驚く様子は見せず、ただニヤニヤしながら聞いている。


 「へぇ~佐倉ってB組の佐倉でしょ? あいつ意外に良い奴なんだね。アホの嘉村と仲良くしてるから、ただの変態だと思ってたよ。まさかあいつと中学からの幼馴染とはねぇ~」

 などと里香は呟く。

 英雄は、学年の女子からは、あまり良い印象を持たれてない。理由として、うるさい、エロい、馬鹿、嘉村君と仲良くしている、などがあげられる。


 「それで? 佐倉が山高に来るから、沙希も入学したの?」

 「ううん。私が山高に行くって言ったら、英雄も入るって」

 「ほぉほぉ、これは面白いねぇ~」

 などと里香と晴美は顔を見合わせて「にしし」とニヤけながら笑う。

 私は恥ずかしくて、一人顔を熱くさせている。


 「もしかして佐倉ってさ、沙希に惚れてるんじゃない?」

 そう口火を切ったのは晴美。

 その言葉に、思わず顔が爆発しそうなくらい熱くなる。たぶん、今の私の顔は真っ赤だと思う。


 「ななななに言ってるの晴美? 英雄が私の事好きだなんて…」

 「だって、沙希が入学するから、佐倉も山高選んだんでしょ? なら佐倉があんたの事惚れてる可能性は0じゃないじゃん」

 晴美は悪びれず、そんな事を言う。

 余計に恥ずかしくなっていく。


 「た、確かにそうだけど…里香は違う意見だよね!?」

 「私も晴美と同意見だよ」

 なんで里香まで同意見なのよ!

 英雄は…私の事なんて…。


 「佐倉が、沙希に対して悪口言うのって、あれじゃない? 好きな子に悪口を言うアレ」

 「まぁ確かに佐倉ってガキっぽいもんね。ありそう~」

 などと晴美と里香が、そんな事を言う。


 「…だ、だけど…」

 「沙希! あんた、自分に自信持たないと! 家に帰ったら佐倉に告白しなさいよ」

 「告白!?」

 その言葉で、心拍数がさらに上昇する。

 英雄に告白? なにその馬鹿げたこと…。


 でも、もしかしたら英雄は、私の事が好きなのかも?

 友達に言われると、そんな気がしてしまう。

 だけど、勘違いで断られたりしたら…。



 「ぶわくしょーん! どすこいー!」

 思わずスーパーで大きなクシャミをする俺。

 どこかで俺の噂でもしてんのかな? まぁイケメンで天才だから仕方ないか。やっぱり俺は天才だな!


 「英雄、くしゃみがおかしいぞ」

 「うるせぇぞクソガキ。ってか、そのカボチャを取れ」

 健太に命令して、カボチャを取らせる。

 現在、俺達はスーパーに来ている。麗子の子守りは大智に任されている。


 「おい英雄! 何を作るつもりだ?」

 「パエリアとカボチャスープを作るんだよ」

 確か沙希の好物はパエリアだったはず、あとカボチャスープは、ガキどもからの提案だ。


 「へぇ~。ってか英雄作れんの?」

 「うるせぇ、男は何事もチャレンジ精神だっつうの!」

 正直自信は無いが、インターネットで調べた作り方で頑張るしかない。

 天才なら、こういうこともそつなくこなすべきだ。少なくとも俺のクソ兄貴は、普段料理しないが、いざ料理をすると、なんなくこなしている。同じ血を引く俺が出来ないわけがない。


 「うえぇ…それだったらインスタントのスープにしろよぉ」

 「さっきも言っただろう? インスタントより手作りの方が思いは伝わるんだよ。覚えとけクソガキ、好きな子にアプローチするときは手作りが一番なんだからな」

 そうクソガキどもに言い聞かせた。


 「どういうこと? つまり英雄は姉ちゃんの事好きなの?」

 「クソガキ、その野菜取ってくれ」

 ガキの戯言に答えるつもりはない。


 「そうだ英雄! 俺お菓子食いたい!」

 と、急に話題が変わってわがままを言い始めた。わがままを言うんじゃない。

 だが今日は沙希の誕生日会。これぐらい許容してやろう。なんたって俺は天才だからな。


 「しょうがねぇなぁ。各自1袋だけ買ってやるよ」

 「よっしゃあぁ! んじゃ大智、お菓子コーナー行こうぜ!」

 「おぉ!」

 そう言って健太と大智、麗子がお菓子コーナーへと向かう。

 仕方ないので俺も付いていく。


 今日は俺の自腹だ。母親から数ヶ月分のお小遣いを前借りしている。

 正直、お菓子なんつうもんは買ってほしくないのだが、今日は、1日早い沙希の誕生日パーリィーだ。しょうがないと割り切ろう。



 買い物も終わり、帰り道にケーキ屋による。

 ケーキは前日に予約しており、すでに出来ていた。

 今日は沙希の誕生日と言うことで、一番高いケーキを購入している。


 これで沙希が晩飯食ってきたら、ただの馬鹿だよな…。

 まぁその時はその時だ!



 家に帰り、早速料理を始める。

 健太と大智は、装飾をしたいとか言い始めたので、勝手にやらせておく。

 しかしガキの癖に手際が良い。多分沙希が帰るのは7時ぐらい。時刻は5時過ぎぐらい…間に合うかな?


 さて料理だ。俺は料理の天才だと自負したい。

 そう自分に言い聞かせて、パエリアを作る。隣のコンロではカボチャスープ作成中だ。


 そして、まもなく7時迎える頃、料理も装飾も完成し、ご両親も帰ってきた。 一応俺は沙希の両親と何度か会ったことがあり面識がある。

 ご両親には、数日前に俺から報告済みなため、今日は珍しく早く帰ったらしい。普段はもう数時間遅くなるそうだ。


 「お邪魔してます」

 「おぉ英雄君、久しぶり」

 「今日は沙希のためにありがとうね」

 沙希の親父は建築デザイナー。県内では結構名のある人らしい。

 母親のほうは元フラワーデザイナー。旦那さんと結婚し子供が生まれてからは仕事を辞めて専業主婦をやっていたそうだが、去年からスーパーのレジ打ちをやっている。俺の家の近所のスーパーだからよく見かける。

 この二人は美大時代に知り合ったそうな。

 さてさて、役者は揃った。装飾のほうも上出来じゃないか。思わず健太と大智を褒め、頭を撫でる。


 照れくさそうにするガキどもを見て、クソガキだが良い子だなっと思う俺が居た。


 7時を過ぎた頃、予想通り帰ってきた。

 玄関のドアの鍵が開く音、廊下を歩く音が聞こえ、俺達全員がクラッカーを手に持つ。

 沙希の両親はノリが良い。特に親父さんとは、かなり気が合う。


 リビングに沙希が入ってきた瞬間、クラッカーを同時に引いた。

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