67話
誉とラーメン横丁で合流後、なんとか仲直りし体育館へとやってきた。
二日目、山高祭のメインイベントとなるミスコンだ。
ミス山高、山高水着コンテスト、そして今年からは着物から「コスプレが似合う女子生徒グランプリ」に変更され、三大タイトルを決めるコンテストが始まる。
体育館にはすでに多くの生徒がかけつけ、今か今かと待ちわびる。
心なしか普段の全校集会よりも熱気が凄い。
すでに中央に並べられた椅子は満席となっているようなので、俺と誉は後ろのほうで見守る。
このミスコンは、自薦他薦問わず出場でき、人数が多ければ文化祭実行委員のほうで選定される。
投票方法は、ここで自己紹介やアピールをなどをしたあと、体育館から出る際に渡される投票用紙に名前を書いて、校内に複数置かれた投票箱に投票する。
一時間後には投票が打ち切られ、審査委員会によって結果が集計され、文化祭終了間近に再び体育館で発表となる。
去年は鵡川が三冠王を獲得したが、このミスコンの必勝法は、同学年の候補者に複数可愛い子がいないかというものだ。
現に去年の三年生には三大美女と呼ばれた、鵡川にも劣らぬ美少女が三人いたが、そのせいで三年生票が三人に分かれたせいで、鵡川に勝てなかったという例がある。
一方で去年の一年生の候補者は鵡川以外パッとしなかったこともあり、一年生票が鵡川に集中したおかげで、鵡川は多くの票数を獲得できたとも言える。
大事なのは、可愛さじゃない。いかに候補者がいないかだ。
さて始まったミスコン。
今回のエントリーは7人と例年に比べて少なめだ。
三年生2人、二年生2人、一年生3人という具合か。
まずは三年生から自己アピール。
どちらも去年も出場していたが正直微妙だ。鵡川に勝てる逸材ではないだろう。
続いて二年生。鵡川と、前に三浦をいじめていた片山林檎だ。
これは鵡川に票が集まるな。
最後に一年生。他薦二名と自薦一名。
はい、自薦で乙女ちゃん出場しています。お疲れ様です。
ちなみに他薦は美咲ちゃんと千春だ。なんで知り合いばっかなのか。出来ればもっと未知なる一年の美少女を知りたかったよ。
まずは乙女ちゃんからの自己アピール。
「はじめまして~。一年B組のぉ椎名乙女ですぅ! よろしく~!」
だから語尾を伸ばすな!
観客席から悲鳴が聞こえた。この聞き慣れた馬鹿声はおそらく恭平だろう。
どんまい恭平。
乙女ちゃん、千春、美咲ちゃんと自己アピールを終えて、一度水着へと着替える。
その間に有志のダンスとかで場を繋ぎ、続いて水着コンテストへ。
壇上に並ぶ水着姿の候補者たち。一際際立つのは乙女ちゃん。悩殺というよりは必殺って感じの姿だ。
これまた一人づつ前に出て自己アピール。悩殺的なのはやはり鵡川か。
うん、鵡川の二年連続三冠王決まりだわ。
千春と美咲ちゃんもあの中では良い線行っているが、おそらく一年生票が二つに割れて、鵡川まで届かないだろう。
この後、コスプレでは鵡川がメイド姿で登場。
再び心臓の鼓動を早める俺と、めちゃくちゃ興奮する誉。
この後、体育館をあとにして投票用紙に名前を書く。
文句なしに鵡川の名前を書いた。去年は三年の先輩の名前を書いていたっけ。あの頃は今ほど鵡川と親しくなかったからな。
誉も鵡川の名前を速攻書いて投票箱へ。そして俺の左隣には恭平。千春の名前を書いている…。
「恭平、乙女ちゃんじゃないのか?」
俺が言った瞬間、恭平の手が止まり、すげぇ顔で俺を見てきた。
「英雄、その名を口にするな」
そして普段は聞かないような低い声で俺を威圧する恭平。
お前、乙女ちゃんと何があったんだよ。
投票後、誉と恭平とブラブラ文化祭を回り、アナウンスで結果発表が始まるとお知らせ受けて体育館へと集まった。
結果的に鵡川さん二年連続三冠王果たしました。
ミス山高、山高水着コンテスト、コスプレが似合う女子生徒グランプリ、どれも一位だった。
次点はやはり美咲ちゃんと千春、あと三年生の人。乙女ちゃんは一度も名前があがらなかった。
そんな感じで、文化祭最後の目玉も終わり、今年の山高祭は終わりを告げるのだった。
我が校には文化祭の後片付けの後に、後夜祭なる物が待っている。
グラウンドでキャンプファイヤーをして、踊ったりすると言うもの。
山田高校が開校した当時は無かったが、第3期生の生徒会長の考案により始まった伝統の儀式の1つである。
その生徒会長が、今の我が校の校長である。昔から、とことんイベント大好きだったわけである。
さて、キャンプファイヤーが始まる。
グラウンドの中心で、勇ましく燃え上がる炎。その周りに生徒が集まり、あとは暗闇が広がるばかり。空には無数の星空。
このロマンチックな空間に、今までの文化祭の疲れだったり、達成感だったり、楽しさなどの余韻に浸る。
そのせいか、後夜祭でカップルが出来るケースは多数ある。
ちなみに後夜祭初カップルは3期生の生徒会長、つまり現校長だったりする。しかもその付き合った女子生徒が現在の嫁さんという噂だ。山田高校校長の伝説の一つでもある。
まぁそんなこんなでカップルが出来る可能性も高いので、俺にもロマンがあるかもしれない…!
と思っていたが、隣に居るのは岡倉なので、100%無い。
「龍ヶ崎に誘われたんだし、龍ヶ崎を選べよ」
「やだもーん。私は英ちゃんと一緒に居たいんだもん」
龍ヶ崎が頑張って誘ったのに断る岡倉。お前、マジでデビルかよ。
そもそもクラスが違うので、文化祭準備の苦楽を共にしちゃ居ない。
なので、ロマンチックな展開になる訳が無かった。
「英ちゃん…」
「なんだ?」
風に揺られ、形を変えていく炎を見つめていると、隣に居る岡倉が俺の名前を呼んだ。
「英ちゃんはさ、好きな人とか居ないの?」
好きな人…そんな言葉、俺の辞書には存在しない…と思っている。
とりあえず、恋愛対象とか関係なく「好き」と言う感情がある女子を思い浮かべる。
まずは岡倉。
こいつの純粋な所とか天然馬鹿具合が好きだが、恋愛感情の好きとは違うだろう。
岡倉と付き合いたいとは思わない。
じゃあ沙希か?
いや、確かに沙希の事は好きだが、こいつには恋愛感情を抱けない。友達として好きだしなぁ。
次は…百合?
う~ん、最近仲が良くなってきているし、彼女も俺を好いている気がしないでもない。
ノリも良いが、百合に恋愛感情はないな。付き合いたいとも思わないしな。
それじゃあ、美咲ちゃんか?
いや、確かに可愛いし、健気でもある。後輩好きにはたまらない女の子だろう。
だが、付き合いたいとは思わない。今のところは恋愛感情がないな。
じゃあ、鵡川なのか?
確かに鵡川は可愛いと思う。優しくて、勉強教えるのが上手で、たまに天然な所もあって、良い奴だろう。
別に付き合っても良いかもしれない。
でも、奴は友達として好きなはずだ。きっと恋愛感情なんて無いだろう。
そう言う事にしよう。
「いや、居ないな」
長考の末に出た答えを岡倉にいう。
「そっかぁ。私は好きな人居るよ!」
「へぇ~」
だからどうした。
言っとくが、お前とはその話しないからな。どうせ答えしってるし。
「英ちゃん…そこはさぁ、誰? って聞くのが普通じゃない?」
「じゃあ誰?」
「さぁ誰でしょうか!?」
質問させといてクイズ形式にするのか。相変わらずふわふわしてんなお前。
「ヒントは私の目の前に居る人です!」
「誰だよ」
ニコニコしながら、こっちを見るな岡倉。分かってる。分かってるから。
だけど、お前とは付き合わないぞ。今俺は野球で忙しいんだ。
「むぅ…じゃあヒント2! 名字の最初が「さ」です!」
「さ? 佐藤さん?」
「ぶっぶぅー!」
とぼけてみると、岡倉はむっとした表情をうかべた。
いや、だからお前とは付き合わないからな。今俺は野球という彼女がいるんだからな。
「それじゃヒント3! その人は、とても素敵で、優しくて…男らしくて…鈍感な…そんな人です…」
どんどん顔を赤くしている岡倉。
お前、そういう風に思ってたのか。なんだかこっちまで気恥ずかしくなるぞ。
「くっだらねぇ。そもそも鈍感な男なんて都市伝説だろ? ったく、そんな奴居るなら会って話したいね。女心を分からない奴の考え方をね」
「…英ちゃん」
「あぁ? どうした?」
「まだ分からないの?」
「分からない」
申し訳ないが、佐倉英雄という答えは言わないからな。
大体、甲子園に出場を決めた夜に告白するって約束しただろうが、もう忘れたのかこいつは。
「じゃあ…最終ヒント! 下の名前が「ひでお」って言います」
「ひでお? うーん…そんな奴いたかなー。分からん!」
「ぶっぶー!! 英ちゃん真面目に答えてよ!」
プンスカしている岡倉。
まさか、下の名前までヒントにしてくるとは、マジで一瞬焦ったぞ。
こいつ…どんだけ俺に言わせたいんだ。岡倉、恐るべし…!!
「英ちゃん鈍感すぎ! しっかりしてよ!」
めっちゃお怒りの岡倉。
すまない。だがこの場で言われては困るので鈍感やらせてもらいました。
こうして後夜祭が終わるまで不機嫌になった岡倉と炎を見ていた俺だった。




