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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
67/324

66話

 文化祭二日目。

 昨日の一般客も入った文化祭は大盛況だった。

 我がクラスの出し物であるケーキ屋クマさんも、途中で売り切れになってしまい、男子どもが出荷してくれたケーキ屋に買出しに行かされた程だ。


 そして本日は、生徒のみの山高祭。

 昨日のような混雑は無いが、生徒だけと言う安心感の中で開催されるわけだ。


 俺は誉と二人で回ることにする。哲也は二日続きで仕事をしている。真面目か。

 そういえば昨日、夜に電話が来たと思ったら、恭平からだった。電話の向こうで、恭平がしくしくと泣きながら、色々と失ったと語っていた。だが、貞操は守ったとかほざいていた。

 その恭平は、朝から灰のように白くなっていたので、ほうっておく。


 「なぁ英雄。A組の出店に行かないか?」

 誉が聞いてくる。十中八九、鵡川のメイド姿を見たいためだろう。


 「やだ。面倒くさい」

 「なんでだよ? メイド版鵡川が見れるんだぞ? 行こうぜ!」

 そう満面の笑みを浮かべる誉。良い笑顔だ。

 正直者は救われると言うが、こいつは正直者過ぎて救われない気がする。


 「俺はやだよ。面倒くせぇ」

 「昼飯おごってやるよ!」

 「よしっ行こう! 今すぐ行こう!」

 昼飯に釣られてしまう弱い俺だった。

 と言う事で、男二人で、A組のメイド喫茶へ。


 そしてA組の出し物が行われている1年生教室へとやってきた。

 メイド喫茶エーミン。おそらくA組のAをかけてこの名前にしたのだろうが、どう見ても不吉だ。


 「行こうぜ!」

 「お、おぅ」

 なんか二度と目が覚めなくなりそうな気がする。

 俺の気のせいか…。



 「お帰りなさいませご主人様♪」

 教室に入るなり、A組の女子に挨拶される。

 ぐほぉ! メイド服は斬新で、衝撃がデカいぞ!

 しかしこの女子生徒、ノリノリである。


 「お帰りましたご主人様です!」

 にやけながら挨拶を返す誉。

 こやつもノリノリである。


 ってことで、女子生徒に案内されて席についた。

 そして渡されるメニュー。


 「さて英雄…何にするか?」

 「凄いな…こいつは…」

 目の前に広がるメニュー表。そこは、ぼったくりの楽園でした。

 最低価格が、ストレートティーの1050円だった。ありえねぇ。消費者庁も助走をつけて殴りにくるレベルだぞこれは。


 「文化祭でこんな事をやって良いのか?」

 誉がぶつぶつ言っている。さすがに文化祭で1050円ってのは、酷いにも程があるぞ。


 「これは許せねぇ! ぼったくりだ! 訴えてやる!」

 馬鹿騒ぐな誉!


 「なにかお困りでしょうか? ご主人様?」

 ふと、男らしい野太い声に、俺達はその声の主を見る。

 そこには、純白のエプロンを身にまとい、カチューシャを頭に乗せた、褐色肌の大男が居た。つまり大輔だ。

 思わず、誉と俺が同時に噴出し笑ってしまう。いやだってありえねぇだろ。いくらなんでも大輔似合わなさすぎだろう。


 「当店で騒ぐのは、他のお客様の迷惑となります。静かにお願いしますわご主人様」

 もう仁義なき戦いを連日やってるヤクザかのように、ドスの効いた低い声で言う大輔。

 なのに格好はメイド姿…そんなシュールな姿に、俺達は笑いと恐怖の感情に埋め尽くされた。


 「そ、それじゃあメイド様、ご注文してもよろしいか?」

 「オーケー英雄。じゃあ頼むぜ」

 そういって注文用紙を取り出す大輔。


 「…じゃ、じゃあ…僕はストレートティーにしようかなぁ~…」

 あまりの大輔の威圧感に、誉は敗れ、一番安いストレートティーを頼む。

 そう言えば、誉に昼飯をおごってもらえるんだったな。ならば…メニュー表を瞬時に見て、一番高そうなのを選ぶ。


 「んじゃ俺は、ハイパーデラックスゴージャスケーキフルーツ和えってのを注文するわ」

 ハイパーデラックスゴージャスケーキフルーツ和え。お一つ6120円。

 もうどう考えてもぼったくりだ。A組今に訴えられるぞ。


 「んん~? 英雄君。ふざけた事言ってると、本気でぶっ飛ばすよ?」

 満面の笑みで、俺を睨む誉。目は笑ってない。殺意が感じ取れる。

 さすがに怖い…


 「じゃあ以上で」

 わけがない。誉ごときでビビってたらエースなどやってられん。


 「英雄!! いくら昼飯おごるからって、そりゃねぇだろうが!! ぶっ飛ばすぞ!」

 俺の態度にブチ切れ、机をたたく誉。俺はのんきに、窓から見える景色を見ながら「良い天気だな~」と、しみじみしながら呟く。


 「おい誉、お前がぶっ飛ばされるかもしれんぞ?」

 ここでドスの効いたメイド服の大輔が、誉に優しく問いかける。

 やべぇ…こえぇ…。さすがの俺もちびるね。いやマジで。

 誉は大人しくチョコンと座る。目から涙がこぼれている。


 いつか借りを返さなければな。とりあえずはありがとう誉。



 「悪い、俺トイレ行ってくるわ」

 そう一言、誉が言い残して早5分。遅い。

 ってか、まだ注文した品が来ない。遅いと文句を言えば、大輔にぶっ飛ばされそうなので、ここは我慢する。


 「遅くなって申し訳ございません…ご、ごしゅじんさま?」

 やっと来た。暇つぶしにスマートフォンでニュースを見ていた俺は、ゆっくりと画面から顔を上げて、声のほうへと視線を向けた。


 …その瞬間、俺の理性とか、女性に対する価値観とか、そんな色んなモンが爆発した。


 いや冗談じゃないし大袈裟じゃない。

 目の前に立っている鵡川梓の姿に、俺はただ唖然とした表情でしか見れなかった。


 単純に可愛いと言えば良いのだろうか?

 メイド姿に、頬を少し赤くし、恥ずかしそうにしている鵡川。

 想像できん奴は、自分の好きな人とか、アイドルとか、女優とかが、そんな状態だったらどうだ? たまらんだろう!?


 それぐらい、可愛いって事だ。

 さすがの俺でも、一本取られました。こりゃぁ、最低でも1000円は払わないとマズいですね。



 「さ、佐倉君!?」

 「よぉ」

 心は動揺し、心臓はバクバクと本来なら有り得ん程の速さで動いているが、表面上は冷静を装う。

 いわゆるポーカーフェイスだ。

 鵡川は俺に気づいたようで、頬をさらに赤くさせている。そりゃ知り合いに見られたくないよなその格好。でも余計に頬を赤くさせないでくれ、こっちまで動揺する。めっちゃ可愛いから! もうめちゃくちゃ可愛いから!!


 「あっ…え、えっと…どうぞ、ご、ごしゅじんさま?」

 ご主人様と言うニュアンスが間違っている。だがそこが良い!

 余計に心臓が速く鼓動をする。これはヤバいですわ。心臓発作起こして死ぬかもしれん。


 「おぅサンキュー。ってか鵡川」

 「えっと…なに? じゃなくて…な、なんでしょうか? ご、ごしゅじんさま?」

 言い直すな。かわいすぎるから。


 「スゲェ似合ってるぞ。通常の五倍くらい可愛くなったぞ」

 とりあえず、今思ってることを言う。

 これで何とかなる訳無いが、まぁ言っときたかったのである。


 「あ、え、えっと…あ、ありがとう…」

 そう素直に感謝をして、鵡川はそそくさと、その場から立ち去った。

 俺は今日、生まれて初めてこの次元で萌えと言う存在に出会った。



 ハイパーデラックスゴージャスケーキフルーツ和えは、想像以上においしかったです。

 ただハイパーでデラックスでゴージャスかと言えば微妙だった。よくてデラックスケーキフルーツ和えが良いところだな。

 ぼったくりめ。だが鵡川が可愛かったので許そう。


 しかし誉が戻ってこない。なので、奴のストレートティーまで飲んでしまった。

 ふとスマートフォンがメールを受信したようだ。俺はメールを開いた。


 「貴様の態度に腹が立った俺は、現在1年の出し物のラーメン屋に居る。貴様で会計しろ」

 誉からのメール文面だ。

 おいおい、合計で7850円だぞ。俺の財布には6325円しかない。

 …足りない。


 とりあえず、だ。

 会計で大輔を呼んで、前借しよう。

 と言うわけで会計へ。


 偶然にも鵡川が会計に、再び収まりつつあった心臓が働きだす。


 「…合計は7850円です」

 「悪い、金が足りん。大輔を呼んでくれないか?」

 「えっ?」

 とりあえず、鵡川に事の発端を話す。

 メイド姿でも、しっかりと聞いてくれる鵡川。な


 「そっか…じゃあ、私が立て替えておくよ」

 「はっ? いや、いいよ。大輔を呼んでくれ」

 「三村君なら今さっき、今日の仕事時間が終わったから、三浦さんとどっか行っちゃったよ」

 マジですか。


 「…じゃあ、立て替えてくれ」

 「うん!」

 何故か嬉しそうな鵡川。

 あれですか? 面倒見が良い性格なんですか? いや確かに鵡川、面倒見良さそうだよな。俺に勉強教えてくれたし、人の役たつと嬉しくなるタイプなんだろう。


 「悪いな。この借りはいつか返すよ」

 「いいよ。私が好きでやってる事だし」

 と鵡川は嬉しそうに言っているが、俺の方が引き下がれない。

 さすがに鵡川におごらせるのは、問題だと思うので、いつか借りを返すつもりだ。


 「んじゃ、お仕事頑張れよ」

 「うん! え、えっと…行ってらっしゃいませ、ご、ごしゅじんさま?」

 最後まで、ニュアンスが間違ってる。けど、まぁ良いか。


 こうして俺はA組を後にした。

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